6-1:エルダーメンバーの反撃
前回までのあらすじ
ルージュと仲直り出来た事に胸を撫で下ろしたストロヴェル。彼女はカメリアとの確執を解消しようと試みるが、その機会に恵まれない。
そうした中、”魔染獣スカイシェイカー”討伐作戦で心に傷を負ったアクエリアスが魔法を使えなくなってしまった。使い物にならなくなった彼女を、エルダーメンバーは“VERDIGRIS”の生贄に捧げてしまう!
アクエリアスに助けを求められたストロヴェルは、師バミューダやルージュたちのちからを借りて、『ラピス・ラズリ』を脱出する!
思わぬ事態に戦慄した『ラピス・ラズリ』の支配者エルダーメンバーが、“VERDIGRIS”の奪還と、裏切り者の抹殺の為に、動き出そうとしていた――。
「アクエリアスに逃走を許した挙句、”VERDIGRIS”までもが奪われた。しかもそれを手引きしたのは、キミの娣子だそうだな、バミューダ=クリアスペース?」
男は、バミューダを睨みつけ、低い声で唸った。
『ラピス・ラズリ』ビルの最上階に設けられた会議室。
全周が窓で囲われ、『フォス・フォシア』全体を見渡せる。外は生憎の雨だが、『フォス・フォシア』でもっとも絶景が拝める場所だ。広々とした空間の中央には長方形のテーブルあり、立派なイスがずらりと並んでいる。
そのテーブルの上座に腰かける十人の男たち。豪華絢爛な衣装を身に纏う老人たちは、この『フォス・フォシア』を実質的に支配する貴族たちだ。彼らは、貴族院の議員として『フォス・フォシア』の政治を支配する一方で、『ラピス・ラズリ魔導師ギルド』に多額の資金を投入しているスポンサー「エルダーメンバー」でもある。彼らの中には、良く見知ったハッピーバースディ卿の姿もあった。
その両脇には、『ラピス・ラズリ』の運営を司る上層部の老女たち。
そして、彼ら彼女らと対面し、たたひとりで長方形の下座に座るのが――”青眼の魔女”の指揮官バミューダである。
彼女は、すらりとした青い双眸で、自分を睨むお偉い方をぐるりと見回した。
エルダーメンバーは、一様にいきり立っている様子である。
まあ、無理もない。
ストロヴェルの行動によって、”VERDIGRIS”が持ち去られ、生贄にするハズだったアクエリアスまでもが連れ去られてしまったのだから。万が一、アクエリアスの口から、自身の身に起きた出来事が『フォス・フォシア』の外部に漏れようものなら一大事である。
「其方は、我々エルダーメンバーによる『ラピス・ラズリ』の運営に以前から否定的であったな?」
「もしや、この一件も其方が仕組んだものではないのか?」
「娣子を使って我々の地位を失墜させようと言うのかね?」
「万が一、これをキッカケに魔導石製造連盟の介入を許せば、『ラピス・ラズリ』とてタダでは済まん。キミも運命をともにする事になるが、覚悟の上と言う事か?」
口々に詰問して来る老人たち。
彼らの言う通り、魔導石製造連盟による調査が実施されれば、まず間違いなく”魔動炉”は休止に追い込まれる。そうなれば、”魔動炉”の生み出す膨大な魔法エネルギーに頼っているこの『フォス・フォシア』は、大きな衰退を余儀なくされる。そしてそれを管理する『ラピス・ラズリ』は、責任を強く追及されるだろう。
そんな事になれば当然、エルダーメンバーの政治生命は一巻の終わりである。
彼らに対し、バミューダは眉根を寄せて目を伏せ、軽く被りを振った。
「それは誤解と言うもの。すべてはストロヴェルの独断行動でございます。もっとも、その指揮官として娣子の管理不行き届きは認めざるを得ません」
自分も困っていると言うアピールをする。
これは本心が半分、演技が半分であった。
バミューダは焦る老人たちを見据えて、内心ほくそ笑んだ。
彼らがこのまま破滅してくれれば、バミューダとしては願ったり叶ったりである。問題は、愛娣子ストロヴェルが、再び自分の手元から離れてしまった事だ。
エルダーメンバーから逃がす為に、ストロヴェルを『ファイア・トパーズ』に託したのは止むを得ない選択であった。しかし、今後もバミューダの地位を維持するには彼女のちからが必要不可欠である。
彼女は未だ自らの能力の真髄を引き出せていない。ストロヴェルの才能を完全に引き出す為には、バミューダの手元に置いておく事が肝要である。
何としても、ストロヴェルを取り戻さなければならない。
「娣子の仕出かした不始末は師であるわたくしの責任です。わたくしが直々に赴き、事態を治めて参ります」
言うが早いか、席を立ちあがるバミューダ。
そんな彼女の考えを見透かしたのだろう。エルダーメンバーが止める。
「其方は自分の愛娣子を保護したいだけであろう?
”VERDIGRIS”及び脱柵者の処分は、我がエルダーメンバーが指揮を執る!」
その言葉に、目を伏せて薄く笑うバミューダ。
「”青眼の魔女”ふたりを相手に、貴方たちでどうにか出来るとでも?
刀は刀屋と申します。わたくしにお任せ下さいませ」
だが――バミューダの予想に反して、エルダーメンバーは澄ました表情。
「可能だと考えておる。毒を以て毒を制す……と言うものだ」
「?」
疑問符を浮かべたバミューダの、背後からひとつの足音が木霊する。
振り返れば、そこには――
「カメリア!?」
佇んでいたのは金髪の少女。バミューダの娣子、カメリアだった!
何故彼女がここにいる!?
カメリアは、精密検査を受ける為に、国立病院に送られたのではなかったか?
「貴女……身体は大丈夫なのですか!?」
「アンタの愛娣子のお陰で大変な目に遭いましたが……ご覧の通り、ぴんぴんしていますよ、バミューダ様」
つかつかと歩み寄り、バミューダが着席するテーブルの縁に腰をかけ、見下ろして来るカメリア。見たところ、体調に問題はなさそうである。
「この任務には――アタイが抜擢されました」
カメリアは、にやりと笑い青い双眸を輝かせる。
バミューダは憤りを隠さず、エルダーメンバーに喰ってかかった!
「これはどう言う事です!? カメリアは”青眼の魔女”であり、わたくしの娣子――そして部下です! この子の指揮権をわたくしから強奪しようと言うのですか!?」
「アタイが自ら志願したんですよ」
テーブルから飛び降り、カメリアは悠々とエルダーメンバーの傍へと歩いて行く。まるで、もうお前には従わない――とでも言いたげな表情で。
「アンタのストロヴェルに対する贔屓っぷりにはほとほと愛想が尽きましたよ。どうせ今回も、ストロヴェルのヤツを庇うんでしょ?」
エルダーメンバーの前に跪づき、指示を仰ぐ。
「カメリア=ハッピーバースディ。エルダーメンバーの名の下に命令を下す。
”VERDIGRIS”を奪還し『ディス・カ・リカ』にて直ちに処分、証拠を隠滅せよ」
「脱柵者であるストロヴェル=スィートハートとアクエリアス=ウルトラマリンの処分は如何いたしましょう?」
「もはや『ラピス・ラズリ』に害を成すのみである。抹殺を指示する!」
「仰せのままに……!」
深々と頭を下げ、カメリアはすくっと立ち上がって振り返った。
もはや、バミューダになど目もくれず、颯爽と会議室を出て行こうとする。
「お待ちなさい、カメリア!」
バミューダが、カメリアを呼び止める!
背後の扉を開けかけたカメリアの足音が止まるのが解かった。
「貴女の魔導石は――このわたくしが授けたもの。それを用いて貴女の姉妹娣子を傷つける事は、許しません!」
「お言葉ですがバミューダ様――」
クスリと笑ってカメリアが応える。
「――アタイの魔力はもはや、エルダーメンバーのもの。
行く行くは”青眼の魔女”そのものが、エルダーメンバーのものとなるでしょう」
バタン! と乱暴に扉を閉め、カメリアが立ち去って行く。
足音は徐々に遠ざかり、会議室に冷たい無音の空気が流れた……。
「バミューダ=クリアスペース」
「……はい」
エルダーメンバーに名を呼ばれ、苦々しく応えるバミューダ。
「この一件における其方の出番は、ここまでである。成り行きを――静かに見守る様に、厳に達する」
歯が割れるのではないと言うほど、バミューダの奥歯を噛み締める音が響く。
怒りに蒼い瞳をギラつかせながらも――
「すべて――エルダーメンバーの意のままに……!」
――深々と頭を下げる事しか出来なかった……。
次回 6-2:奇襲の雷光




