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4-6:決死の救出

 『ディス・カ・リカ』のただひとつの入口である、両開きの鉄扉(てつぴ)

 常に”魔導錠(マギロツク)”によって封じられており、登録された人間しか出入り出来(でき)ないが、今に至っては”スカイシェイク魔動炉(リアクター)”停止の為に、完全封鎖されている。

 これを解放出来るのは、『ラピス・ラズリ』のごく一部の魔導師だけだ。


 しかし、そんなものなど、ストロヴェルの前には無意味である!

「ヴェル、お願い!」

「解かった!」

 一言答えると、ストロヴェルが”マギ・コード”を編み上げる。”魔導錠(マギロツク)”の解放とは何の関係もない”マギ・コード”。

 だが、彼女が、組み上げた魔力を”魔導錠(マギロツク)”に流した瞬間、その機能はすべて停止し、鉄扉の封鎖が解かれる!


 ルージュは思いっきり蹴りを叩き込み、分厚い鉄扉を押し開けた!

 タワーの中に入れば、”カメリア”が外壁をよじ登るその音が、ぐわんぐわんと響いている。

 通路を走り、突き当りにある昇降機(エレベーター)まで辿り着く。

 ストロヴェルがカゴを呼ぶボタンを押すが、動く気配がない――。

「ダメだよ、動かない! 電気が来てないみたい!」

 焦った様に何度もボタンを押すストロヴェル。予想通り、停電した『ディス・カ・リカ』の内部は真っ暗で、昇降機(エレベーター)も動かない。


「動かないモノは仕方がないわ! 階段で行くわよ!」

 ストロヴェルの手を引いて、脇の入口から階段の踊り場に出る。上を見上げれば、遥か頂上まで延々と続く螺旋(らせん)階段。

「わたし、こんなの登れないよ……!」

 弱音を吐くストロヴェルをルージュが抱き上げる。「きゃっ!?」と悲鳴を上げるストロヴェルをしっかりと抱え込むと、ルージュは、魔法を脚の”魔導装甲(ガントレツト)”に(まと)わせ――

「跳ぶわよ!」

 ――”マギ・コード”を解放した!


 規律を解かれ、意味を失った魔法は、無秩序に膨れ上がり――爆発する!

 その爆風に乗せて、ルージュは大きく跳び上がった!

「きゃあああッ!?」

 ストロヴェルの悲鳴が、螺旋階段の内部をキレイなまでに、下から上にハウリングする。

 数十段の階段をすっ飛ばして、適当な高さに着地したルージュは、再び同じ手法で跳び上がった!


 何度か繰り返す内に、外壁の金属板を激しく叩く音が上から響き、やがて下へと降りて行く。どうやら、外壁を登る”カメリア”を追い越せた様である。


「到着!」

 最上階まで登り上げ、ルージュは床に着地すると、ストロヴェルを降ろした。

「気持ち悪い……」

 ふらふらしながら、千鳥足(ちどりあし)で溶鉱炉の方へと向かって行く。

「炉に落っこちて溶けちゃわないでよ!」

 (あぶ)なかっしく溶鉱炉縁の通路を歩く彼女の手を取り、走る!


 頂上の溶鉱炉は、全周をドーム型の天井で(おお)われており、頂点が丸く空いて空が見えている。

 そのドームの一部を突き破って、”カメリア”が姿を現した!

 粉々になった金属の板や、鉄骨が降り注ぐ中――ルージュは、”カメリア”を見据えた。

「カメリア! 聞こえているなら聞きなさい!

 今から、ヴェルが貴女(あなた)を助けるわ! だから、動かないで!」


 その言葉を聞いても”カメリア”に止まる気配は無い!

 天井に開いた大穴からずるりと溶鉱炉の淵へと入り込んで来る!

 どうやら、大人しくしてくれなさそうである。一発で成功させなければ、”彼女”は溶鉱炉に突っ込む。そうなればカメリアの命は戻って来ない。そしてこんな巨体で突っ込まれれば、灼熱のマグマが溢れ出し、ふたりもお陀仏(だぶつ)だ。


「ヴェル、お願い!」

「うん!」

 ストロヴェルが、”カメリア”と正対して”マギ・コード”を編み上げる!

 そのストロヴェルに対し、躊躇(ちゆうちよ)なく”カメリア”は(あぎと)に光を収束させて行く!

「させないわッ!」

 その顔面に、ルージュの魔法を(まと)わせた蹴りが一閃する!

 撃ち放たれた青い閃光は、 衝撃でストロヴェルを大きく外し、ドームの対岸をぶち抜いて行った!


 しっかりと余裕を持って、ストロヴェルが”マギ・コード”を解き放つ!

発現せよ(マテリアライズ)! 打ち消せ、”魔力消去(ルーン・キヤンセル)”!」

 目には見えない魔力をすべて否定するちからが、”カメリア”に襲い掛かる!

 本来、”魔法障壁(シールド)”にも似た強固な対魔法性質を持つ”魔染獣”の表皮も、まったく無意味となり、心臓部である”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”の魔力(ちから)相殺(そうさい)して行く!


 腕にちからが入らなくなり、床に突っ伏す”カメリア”。

 (あぎと)から放っていたビームも(またた)く間に威力を失いしぼんで行き、”カメリア”の身体も、輝きと透明度を失い、どす黒く(よど)んで行った!

 対照的に”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”からは、激しい光の奔流(ほんりゆう)が噴き出し始める。ストロヴェルの”魔力消去(ルーン・キヤンセル)”によって、吸収した魔力を留めておけなくなったのだ。

 その光の一部が、次第に一点に集まり――人間の姿を描いて行く!

 それは――ひとりの少女。


 パプリカの予想通り、性能を封じられた”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”から、カメリアが分離したのだ!


「カメリア!」

 彼女の名を叫び、ルージュは一気に”カメリア”に飛び掛かった!


 依然、カメリアの身体は”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”もろとも”カメリア”――(いな)、”魔染獣スカイシェイカー”に取り込まれたまま。”魔力消去(ルーン・キヤンセル)”が切れれば、元の木阿弥(もくあみ)になってしまう。


 渾身のちからを込めて、ルージュは蹴りを”スカイシェイカー”の肩口に叩き込んだ! 対魔力性をまったく失っている”スカイシェイカー”の上半身は、いとも簡単に大きく(えぐ)れる!

 大きく広がった傷口は、その胴体の中で人のかたちを取り戻したカメリアのギリギリまで届いていた。


 ルージュは、精一杯手を伸ばし、大破した”スカイシェイカー”の傷口に腕を突っ込んだ!

 粘液とも粘土とも言えない異様な感触の”肉”を抉り、その中に沈むカメリアの胴を掴む!

「うりゃあッ!」

 気合を入れて、腕を引き抜く!


 ゴボッ! と言う音を立てて――”スカイシェイカー”の体内から、裸の少女を引きずり出した!

 勢いそのまま、カメリアを抱き締め、背中から床に落ちる!


「ルージュ、……もう無理ッ!」

 ほぼ同時に、ストロヴェルが悲鳴を上げた!

 頭を抱え、床に倒れ伏す!

 倒れたストロヴェルの身体から、青いオーラが消え去り――”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”から流出していた魔力が、再び逆流を始める!


「ヤバイ……!」

 目の前で再生を始める”スカイシェイカー”に、ルージュは戦慄(せんりつ)した。

 カメリアが抜けた事で、双頭の片方はそのまま崩れ落ちて行くが――”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”が健在である以上、十数秒で”スカイシェイカー”は復活する!


 まだ、”スカイシェイカー”の防御は崩れたままだ。簡単な一撃で”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”を撃ち抜けるのに……!

 両腕を床に叩き付け、上半身を持ち上げる”スカイシェイカー”!


 その胸が、破裂する様に爆裂した!

発現せよ(マテリアライズ)! 乱れろ! ”連光弾(クラストキヤノン)”!」

 ドームの中を反響した叫びとともに、複数の火球が”スカイシェイカー”の背中から胸を撃ち抜いたのだ!


 その内の一撃が、”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”を弾き飛ばす!

 核を失い、バラバラと崩壊する”スカイシェイカー”の破片から、裸のカメリアを護る為、上に覆い被さって(かば)う!


「大丈夫ですか、エンバーラスト!?」

 聞こえて来たパプリカの声に、顔を上げた。

 どうやら、彼女が”スカイシェイカー”にトドメの一撃を加えてくれたらしい。”スカイシェイカー”の破片を避けつつ、近寄って来たパプリカが、ルージュの腕の中を覗き込み――微笑(ほほえ)む。

「どうやら、うまく行った様ですね」

 気を失っているカメリアの裸に、自分のローブを羽織(はお)らせる。


「助かったわパプリカさん、カメリアを引っ張り出したまでは良かったけれど、思ったより余裕がなくて……」

「スィートハートのおかげでしょう。彼女の”魔力消去(ルーン・キヤンセル)”が効いていなければ、わたしの魔法など”魔染獣”にはまるで効きません」

「そうだ! ヴェルは……っ!?」


 慌ててストロヴェルの方へ振り返る。

 彼女はまだ、床に倒れたまま、頭を抱えてうずくまっていた。

「ヴェル! 大丈夫!?」

 カメリアをパプリカに預け、ストロヴェルに駆け寄る!


 倒れたストロヴェルをゆっくりと抱き起すと――その身体は、びっくりするほど冷たかった。

 まるで――冷え切った石か金属でも触れているかの様である。

 顔色も真っ白で、大粒の汗をかいて、表情を苦しげに歪めている。


 生きている人間の顔色にはとても見えない――。

 焦ってルージュは、パプリカを呼び寄せた!

「パプリカさん、ヴェルを看てちょうだい!」


 異変を察したパプリカが、すぐさま駆け寄って来る。

 ストロヴェルの横にしゃがみ込んだパプリカが、彼女の首筋に指を当てがう。

「……大丈夫です。脈は落ち着いています。何故(なぜ)、こんなに顔色が悪いのか解かりませんが……命に別状はないでしょう」

 その言葉にほっとするルージュ。


 もしかすると、”魔力消去(ルーン・キヤンセル)”はストロヴェルの身体にかなりの無理を()いる術なのかも知れない。

 以前にも、ストロヴェルは”魔力消去(ルーン・キヤンセル)”を使って頭痛を訴えていた。

 この術に関しては、良く分かっていない事が多いのだ。あまり多用させない方がいいだろう。


 ようやく息が整い、うっすらと目を開けたストロヴェルがルージュを見上げる。

「……カメリアは……?」

「大丈夫、貴女のお陰でうまく行ったわ」

「良かった……!」

 頷いて、視線をパプリカの方へと移す。

「パプリカさん、”青眼の魔女(ブルーアイズ)”のみんな……は……?」

「そちらも大丈夫です。全員、生きていますよ」

 パプリカのその言葉に安堵してうっすらと笑い、ストロヴェルは瞳を閉じた。


 バタバタと、階段を駆け上がって来る複数の足音。

 どうやら、遅ればせながら”青眼の魔女(ブルーアイズ)”を含む魔導師たちが、駆け登って来た様である。

 階段の入口から、我先にと詰めかける大勢の魔導師たち。……が、(すで)に決着のついた溶鉱炉を見渡しポカンとした表情を浮かべている。


「大丈夫ですか!?」

 彼女らのひとり、名も知らぬ魔導師が近づいてルージュたちを気遣う。

「『ラピス・ラズリ』の魔導師ふたりが、かなり衰弱しているわ。すぐに救援を呼んで」

「解かりました!」

 闘いが終わった事を悟り、色めき出す魔導師たち。

 ルージュたち負傷者を気遣う者。崩れた瓦礫(ガレキ)の撤去に(いそ)しむ者。”カメリア”の攻撃で発生した火災を消火する者。


 それぞれが、後片付けに奔走(ほんそう)する中――崩れた”スカイシェイカー”の残骸から、”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”が『ラピス・ラズリ』の魔導師によって回収されて行く。


「いいの?」

 ルージュは、パプリカに視線を向ける。


 意識が朦朧(もうろう)としたストロヴェルを膝に抱いていたパプリカは――何も言わずに微笑んで、ゆっくりと首を横に振った。

次回 第五章『結晶の深淵』

   5-1:アクエリアスの相談

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