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4-4:想定外の事態!

 ***


「アタシのポジションはここね」

 ”記録結晶(フイルグリフ)”に転送された、指示に従い、ルージュは持ち場にスタンバイした。


 ”魔染獣カメリア”討伐作戦(ハンテイング)、当日の早朝。

 作戦区域は、零番街(グラウンド・ゼロ)。ここで発生した”魔染獣”なのだから当然だ。

 ”青眼の魔女(ブルーアイズ)”のカメリアを取り込んだ”魔染獣カメリア”は恐らく今までにない強敵だろうが、幸いな事にここは人の棲まない廃墟街。

 これならば、各魔導師、己の魔力を最大限に解放出来(でき)るだろう。


 普段、濃密なスモッグによって視界の利かない零番街(グラウンド・ゼロ)も、強風によって珍しく晴れ渡り、魔導石廃棄塔『ディス・カ・リカ』も、天辺(てつぺん)まで見通する事が出来る。

 この巨大なタワーも、”スカイシェイク魔動炉(リアクター)”が停まってしまった為に閉鎖中。中の溶鉱炉は健在で、相変わらずモクモクと白煙を上げているが、昇降機(エレベーター)などが停まっており、上がって行くのは難儀である。


 ルージュが任されたのは、その『ディス・カ・リカ』からそう遠くない区画だった。手近な廃墟ビルに登り、屋上から零番街(グラウンド・ゼロ)を見回す。

 別に屋上に配置されたワケではないが、何となく高いところの方が見通しが良くて闘い(やす)いのだ。スカーレットは「煙と何とかは高いところが好き」とバカにするが……。


 ビルの屋上から望む視界の中に、他の同業者を認める事は出来ない。かなりの人数が動員されているハズだが、バラバラに分散して物陰に身を(ひそ)めているのだ。

 『ファイア・トパーズ』の様な中小ギルドの魔導師には、横のつながりがほとんどない。多くても二、三人程度の少人数で行動する。ルージュもご多分に漏れず、仕事をする時はほとんどソロで行動していた。

 ストロヴェルと過ごした数週間を除いては――。


 そのストロヴェルが還ったであろう、唯一(ゆいいつ)集団で活動する魔導師集団――”青眼の魔女(ブルーアイズ)”だけは、すぐに発見する事が出来た。

 『ディス・カ・リカ』のほぼ根元に(むら)がる青白い塊。それが”青眼の魔女(ブルーアイズ)”の部隊である。

 あの中に――ストロヴェルもいるハズだ。


 作戦はこうだ――。

 まず、『ラピス・ラズリ』の”青眼の魔女(ブルーアイズ)”以外の魔導師が、地下に潜って”魔染獣カメリア”を地上に(おび)き出す。

 ”彼女”が地上に現れたところで、ルージュを含めた中小ギルドの魔導師が、一斉攻撃を始め、包囲の外に逃げない様に誘導する。

 そして締め。動きを封じた”魔染獣カメリア”に対し、火力部隊”青眼の魔女(ブルーアイズ)”の一斉放射によって殲滅(せんめつ)する。


 まあ、いつも通りの流れである。

 唯一違う点があるとすれば、”カメリア”の包囲に、通常参加しないひとりの”青眼の魔女(ブルーアイズ)”――(すなわ)ちストロヴェルが参加する、と言う事だ。

 ”カメリア”が相手では中級(Cランク)魔導師以下が多い中小ギルドでは、力不足と考えたのかも知れないが、やはりストロヴェルの”魔力消失(ルーン・キヤンセル)”がどれほどのものなのか、試してみたいと言うバミューダの思惑(おもわく)もあるだろう。


 “タイタンフェイダー“との闘いでは、彼女は怪物の魔力を完全に封じて見せた。下手(へた)をすれば、今回の”カメリア”だってひとりで制してしまう可能性もある。

 本当に――今までの常識を(くつがえ)してしまう能力を持った娘なのだ。


 もしそうなれば、この作戦は彼女と再会する機会もなく終わってしまう。

 この討伐作戦(ハンテイング)が――やり直しの機会となってくれるだろうか――?

 それとも、ストロヴェルとは(えん)がなかった――と言う事になるのだろうか……?


 ふと――身体に小さな揺れを感じる。


「……そろそろかしら?」

 うなじのところで(まと)めた赤毛を()い直し、銀縁のメガネをかけ直す。

 風が運ぶ空気には、物音ひとつ混じらない。


 澄んだ空気の中に――遥か遠くから抑揚のない声が響く。

「『フォス・フォシア』……にお伝えし……。

 魔導災害(レツド・アラ)……発令! ……災害警報(ド・アラート)発……

 間もなく、魔導師……部隊による討伐作戦(ハンテイング)が……れます。まだ避……れていない住人は、頑丈な建……避難して下さい。繰り返…………」


 聞こえてくるのは遥か遠くの一番街(メイン・アーク)零番街(グラウンド・ゼロ)では遠すぎて、警報はもはや聞こえもしない。

 その一方で、ルージュのすぐ近くに、大きな音で別の警報が鳴り響いた!


「”魔染獣スカイシェイカー”を確認!

 目標を地上に誘導中――地上到達まで後二十秒!」


 聞き慣れたアナウンスが、空に木霊して消えて行く。


 やがて――。その静寂の中に混じり込む地鳴りの様な音。

 それは、最初は気のせいかと思うほど小さく、しかし確実に大きくなり、そして揺れと言う体感を伴って近づいて来ている。


 息を()んで――鉄柵(フエンス)から身を乗り出し、地上を見下(みお)ろす。


 木箱やらタルやらゴミやらが、散乱した無人の道路。そのアスファルトの表面に、ぴしりとヒビが走るのを見た!


「来たわ!」

 ルージュが叫ぶと同時に、アスファルトがめくれ上がり、土砂が噴き上がる!

 次いで、割れたアスファルトの奥底から響き渡る甲高い女の奇声の様な鳴き声と、鋭く(ほとばし)る青緑色の閃光!


 再び土砂が噴き上がり、そこから”魔染獣カメリア”が飛び出してくる!

「”魔染獣スカイシェイカー(・・・・・・・・)”の出現を確認! 攻撃を開始するわ!」

 転落防止の鉄柵(フエンス)を飛び越え、ルージュは空中に飛び出す姿勢を取る――

 ここで――ストロヴェルの”魔力消失(ルーン・キヤンセル)”が入るハズだ!


 予定通り、”青眼の魔女(ブルーアイズ)”の集団の中からひとりの少女が”マギ・コード”を編み上げつつ飛び出す! 遠すぎて解からないが、間違いなくストロヴェルだろう。


 これでストロヴェルが完全に”カメリア”を抑え込めば――展開によっては”青眼の魔女(ブルーアイズ)”の出番すらなくなるかも知れない。

 ストロヴェルの”マギ・コード”が組み上がるのが見えた!


「行くわよッ!」

 ”魔力消失(ルーン・キヤンセル)”の発動に一歩タイミングを外して、ルージュは跳躍――――

 する寸前、想定外の事態が起こる!


 地上に飛び出た”カメリア”が、姿勢を正す暇もなく、空中で身体を(ひね)らせて――ストロヴェルをプラズマ火球で強襲した!

「え……ッ!?」

 思わぬ攻撃に、ルージュも動きが止まる!


 火球がストロヴェルの眼前に炸裂し、少女の姿が爆炎に包まれた!

「ヴェルッ!」

 届くハズのない距離から必死に腕を伸ばすルージュ!


 燃え盛る青白い火炎の中から――少女が素早く抜け出す!

 ギリギリで”魔力消失(ルーン・キヤンセル)”を発動し、直撃寸前で無効化した様だ。だが、炸裂した炎は無効化できず、身に纏ったローブが燃えてしまっている。


 必死に地面の上を転がり、火を消そうとするストロヴェル。地上に着地した”カメリア”が執拗(しつよう)にストロヴェルを襲う!

 ”魔力消失(ルーン・キヤンセル)”は一度撃ってしまい、再度編み上げるには時間がない――!

 完全に無防備になった彼女を、今度は双頭から放たれた二本のビームが襲う!


「きゃあああッ!」

 ここまで聞こえる悲鳴を上げたストロヴェル!

 避けきれない!


 だが……!


 そのすぐ近くに、いつの間にか現れたひとりの”青眼の魔女(ブルーアイズ)”。ストロヴェルに飛びかかり、ギリギリで彼女を射線の外へと押し出す!

 ストロヴェルを助けたのは、銀髪(シルバー)の少女。アクエリアスだ!


 ルージュがほっと息を付いたのも(つか)の間、“カメリア“の視線はなおもストロヴェルを追っている。まるでこちらの作戦を最初から見透かしていたかの様に。


 知性も知能もない破壊衝動の塊である“魔染獣“に、こんな事は一度もなかった。まさか、カメリアの意識や知識が残っており、戦略を読んだとでも言うのだろうか!?


 ”カメリア”は地響きを立てて地面に降り立つと、ふたつの首から咆哮(ほうこう)をハモらせる! まるでデュエットの様な雄叫びとともに、そのふたつの(あぎと)に青白い熱線が収束して行く!


 上半身を大きく振る動作とともに放たれるダブルビーム!

 空中で交錯(こうさく)し、不規則な軌道でストロヴェルとアクエリアスを襲う!

 体勢を立て直していたふたりは、それぞれ別々の方向に大きく飛び退いた! 流石(さすが)の判断で、これならばひとりにつきひとつの首を相手にすればいい――と思ったが。


 ”カメリア”は、その双頭を両方ともストロヴェルに向けた!

 声こそ聞こえないが、驚愕の表情を見せるストロヴェル! 必死に二本のビームから逃れる!


 やはり――この”カメリア”はストロヴェルを狙い撃ちにしている!

 このままではストロヴェルが追い詰められてしまう!


 他の”青眼の魔女(ブルーアイズ)”は助けに行けば良いものを、ひと固まりになって『ディス・カ・リカ』の根元で闘いを傍観(ぼうかん)していた。

 いや――傍観しているワケではないだろう。

 エリートの彼女たちには、この不測の事態に対応する臨機応変さがないのだ。どうすれば良いのか――分からないと言った空気が、彼女たちを包み込んでいた。


 唯一、アクエリアスが飛び出したのは――本人の素養によるものだろう。

 だが、単独で飛び出す判断は、決して最適とは言えない。何とかストロヴェルを助けようと、”カメリア”の周囲を牽制するアクエリアスだが、その動きは見るからに危なっかしい。


「くそッ!」

 叫んでルージュが、持ち場から飛び出す!

 ルージュが加勢しても、ミイラ取りがミイラになる可能性が大だが、黙って見ていられなかった!


 ビルの屋上から飛び降り、大地に着地して”カメリア”の(もと)へと向かう!

 そうしているあいだにも、連続する”カメリア”の攻撃に、追い詰められて行くストロヴェル! ”魔法消去(ルーン・キヤンセル)”で防いではいるが、如何(いかん)せん相手の首はふたつ。同時攻撃の片方しか防げない!


 徐々に逃げ道を失い、廃屋の壁際に追い込まれる!

 追い込んだ獲物に、(ヨダレ)を垂らしながら近付いて行く”カメリア”。そのふたつの顔を、見上げて立ち尽くすストロヴェル。


「脚を止めてはダメよ、ヴェル! 逃げなさいッ!」

 必死に叫ぶが、まだルージュの声が届く距離ではない!


 ”カメリア”が、双頭の片側、彼女自身の口に青白い光を溜めて行く!

 間に合わない――! ストロヴェルが撃たれる!


 諦めに支配されたルージュの走る速さが緩む……。

「ダメだ……っ!」

 呆然(ぼうぜん)(たたず)むストロヴェル目掛けて、放射された青白い熱線が――


「ヴェルさんっ!」

 ――ストロヴェルを突き飛ばし、射線から外したアクエリアスの、細い胴を撃ち抜いた!


 真っ赤な血が大量に飛び散り、吹き飛ばされた銀髪(シルバー)が辺り一面に散らばり輝く……。

 立ち尽くすルージュ。尻もちをついたまま、呆然(ぼうぜん)とするストロヴェル。(うな)りを上げる”カメリア”。


 彼女たちの前で、血の海に沈む――物言わなくなった少女、アクエリアス……。

次回 4-5:ストロヴェルの決断

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