表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/52

4-3:途切れた、ふたりの心

 ***


 翌朝――。

 とても一緒のベッドで眠る気にはなれず、ソファの上で目覚めたルージュ。

 相変わらず()った腰をほぐして、テーブルの上のメガネを取る。


 どうやら――もう寝床(ねどこ)に悩まされる事はない様だ。

 ベッドの上に、いつも通りのストロヴェルの姿は――なかった。


 一瞬の間をおいて――。

「ちくしょうッ!」

 ルージュは、テーブルの上に残したままの皿を、床に叩き付けた!


 ***


「ストロヴェルはどうした?」

 『ファイア・トパーズ』の事務所に出向いて早々、スカーレットがルージュに問うて来た。


 『ファイア・トパーズ』の女主人(マスター)・スカーレットに呼び出されたのは、それから数日後の事だった。相変わらず薄暗く辛気(しんき)臭い事務所には、デスクにどかりと座ったスカーレット。それと来客用のソファには――パプリカの姿。


 軽く会釈(えしやく)をしたパプリカの姿を見つけ、ルージュも挨拶する。

「やぁ、まだ『フォス・フォシア』にいたのね。とっくにレッドベリルへ帰ったと思ったわ」

「”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”が手に入っていない以上、わたしの任務は続きます。

 それに、もうひとつやる事が出来(でき)ましたので……」

 対面してソファに座るルージュ。


 無視されて、ややムッとした感じでスカーレットが問い直す。

「おいルージュ。ストロヴェルはどうしたんだ?」

「あの子なら、『ラピス・ラズリ』に戻ったわ。もう戻って来ないわよ」

「やはり、そうか……」

 分かっているなら聞かないでよ……。そう思いながらも、ルージュはパプリカと会話を続ける。

「それで……まだやる事って何? お手伝い出来る事があれば、アタシが協力するけど?」


「今回の”カメリア”討伐作戦(ハンテイング)に、わたしも参加しようと思っています」

 その言葉に、思わず腰を浮かせるルージュ。

「どうして? パプリカさんはギルドに属してるワケでもないし……それどころか、『フォス・フォシア』の魔導師でもないでしょ?」

「スィートハートとカメリアがこんな事になってしまったのは、わたしにも責任があります。

 スィートハートとカメリアを対面させたのはわたしのミスです。わたしもケジメを付ける為に討伐作戦(ハンテイング)に参加します」

「そうなんだ……」


 素っ気なく返したルージュに、パプリカが小さく笑って聞き返した。

「エンバーラストは、討伐作戦(ハンテイング)には参加しないのですか?」

「アタシは……パスかな?」


 今回の討伐作戦(ハンテイング)は、どうにも乗り気になれなかった。

 もちろん、そんな個人的な理由がギルドとして認められるワケはなかったが。


「おいおい困るぞルージュ」

 スカーレットが、デスクの上の紙を掲げて立ち上がった。それは、治安維持騎士団(セキユリテイー)からの討伐部隊編成依頼書。本来であれば、魔物(モンスター)に近い”魔染獣”の討伐は、治安維持騎士団(セキユリテイー)の仕事だ。

 だが、魔導師集団でもない彼らでは、”魔染獣”には到底(かな)わない。故に、いわゆる下請けと言うかたちで、各魔導師ギルドに依頼が行き、魔導師ギルドはそれに従って選抜メンバーを送り込む、と言うワケだ。


 参加人数は、多ければ多い程良しと言うスタンスで、下限人数はないため、別にルージュひとりが参加しなくても、『ファイア・トパーズ』が参加出来(でき)ない、と言う事もない。

 しかし――

「お前がいるのといないのとでは、『ファイア・トパーズ』の戦力が大きく違う」

 これでも、ルージュは『ファイア・トパーズ』指折りの魔導師だった。まぁ、”青眼の魔女(ブルーアイズ)”から見れば、どんぐりの背比べなのだろうが……。

「報酬配分は、戦果(リザルト)に応じて決定されるのだ。ウチの働きが(にぶ)ければ、それだけ『ファイア・トパーズ』の取り分が落ちてしまうのだぞ!」


「あー、もう!」

 赤毛を()きむしって、苛立(いらだ)つルージュ。

 こうしたギルドの垣根を超えた共闘作戦は、報酬も良いが連帯責任になってしまうのが、嫌なところだ。スカーレットの言う通り、ルージュが参加しない事によって『ファイア・トパーズ』の取り分が落ちると、困るのは他の魔導師たちである。


「しかし……スィートハートが”青眼の魔女(ブルーアイズ)”として参加するのは残念ですね」

 出されたティーカップの紅茶を口に含んで、パプリカが(つぶや)く。

「あの子の”魔力消失(ルーン・キヤンセル)”があるのとないのじゃ、闘い易さが全然違うからね」


 同調したつもりのルージュだったがパプリカの思惑(おもわく)は違う様だった。

「いえ……そうではなくて……。

 彼女の”魔力消失(ルーン・キヤンセル)”があれば――カメリアを再生救出(サルベージ)出来る可能性があると思いましたが……」

「カメリアを助けられる……って、あんなバラバラに分解されちゃった子を、元に戻せるの!?」


 ルージュの疑念に満ちた問いに、パプリカが頷く。

 パプリカを信用していないワケではなく、単純に”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”から、カメリアを救出する――と言う、考えてもいなかった発想に、驚いただけだ。


 カメリアを”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”から再生救出(サルベージ)する為には、”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”の機能を完全停止させる必要がある。

 だが――魔導石を安全に停止させる手段が失われている『フォス・フォシア』では、魔導石廃棄塔『ディス・カ・リカ』を使って破壊するしか、処分方法がない。


「しかし、スィートハートの”魔力消失(ルーン・キヤンセル)”なら一時的ですが”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”の機能を停止させる事が出来ます」

 なるほど、確かに。

 ルージュは、(あご)に手を当てて考えた。


 しかし――。

「たぶん無理ね」

 ルージュは被りを振った。

「どうしてですか?」

「ヴェルは……カメリアが自分に対してやった仕打ちを許していないわ。あの子が、カメリアを助けようとするとは、到底思えない」


 その言葉を聞いて、パプリカが視線を落とす。

「確かに……。ああ言う事をする娘だとは思っていませんでした」

「ヴェルは、カメリアが”VERDIGRIS(ヴエルデグリス)”に吸い込まれた時、表情ひとつ変えなかった。残念だけど、アタシとは考え方が違う、”青眼の魔女(ブルーアイズ)”よ……」

「本当にそうでしょうか? 彼女が表情を変えなかったのは――取り返しのつかない(あやま)ちを犯してしまったと、本人も解かっていたからでは……?」


「…………」

 パプリカの問いに、ルージュは答えなかった。

 沈黙が流れ、柱時計の時を刻む音のみが、響く。

 一息ついて、パプリカは立ち上がった。


「それでは、そろそろお(いとま)します。

 わたしは自主参加なので討伐作戦(ハンテイング)の詳細は教えてもらえません。適当に参加しますので、戦場で一緒になった時は、よろしくお願いいたします」

 にこりと笑って、出口へと歩んで行くパプリカ。

 事務所の扉を開け、一礼して姿を消して行く彼女の背中を視線で追って――


「あの……っ!」

 パプリカの背中を追いかけた。

「何か?」

 廊下で、階段を降りかけていたパプリカが振り返る。ルージュは、視線を落としたまま事務所の扉を後ろ手に閉めた。


 ふたりのあいだに、沈黙が流れる。

 くすっと軽く笑って、パプリカがルージュの前に戻って来た。

「スィートハートと何かあったのですか?」

「アタシ……あの子の事……叩いちゃったの……! あまりに酷い事を言うもんだから……」

「そうでしたか」

「……あの子がもう戻って来ないって言ったのは……それがあったからなの。

 多分、もう戻って来てくれない……!」


 ルージュの頬を、一粒の涙が落ちる。

 そのルージュの赤毛を、パプリカが優しく撫でた。

「大丈夫ですよ。『ラピス・ラズリ』の事情次第ではありますが、スィートハートの気持ちを戻す事は、きっと出来ます」

「なんで……そんな事が言えるんですかっ!?」

 感情的になるのを抑えられないルージュに、それでもパプリカはイタズラっぽく微笑(ほほえ)んだ。


「わたしも、若い頃に生意気な小娘(・・・・・・)を引っ(ぱた)いた事があります」

「パプリカさんが……?」

 淑女(しゆくじよ)然としていて、とてもそんな気性が荒そうには見えない。ルージュのその気持ちを見透かした様に、「わたしもヤンチャでしたから!」と言って、パプリカは腰に手を当て軽快に笑った。


「その小娘も、今はわたしの友人の下で弟子となり、立派な魔導師としてレッドベリル商会で働いています。彼女とも色々ありましたが……なんだかんだで仲は良いですよ!」

 颯爽(さつそう)と振り返り、階段を降りて行くパプリカ。肩越しににっこりと笑う。

「スィートハートが貴女とよりを戻したいと思うかどうかは彼女次第。

 ですが、貴女が動かなければ……もう何も変わりはしないです」

「…………」


 軽い足取りで、パプリカは階段の下へと姿を消して行った。

 (しばら)、ルージュは事務所の前で立ち尽くす。


 しかし――思い立って涙を(ぬぐ)い、事務所の扉を開いた。

 事務所の中で、どっしりとデスクに腰かけ、不敵に笑ってルージュを待ち構えるスカーレット。


「マスター、アタシも討伐作戦(ハンテイング)に参加するわ……!」

 メガネをかけ直して、スカーレットに向き直った。

次回 4-4:想定外の事態!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ