3-5:精鋭部隊の敗北
ルージュが”マギ・コード”を展開する!
”魔導装甲”の魔導石が反応して紅く輝き、噴き出した高熱の光がルージュの脚を包み込んで行く!
「もう止めて下さい! 何度やっても同じです!」
悲痛な叫び声を上げるアクエリアス。まるでこちらが悪役の様な言われ様だが、彼女にとっても望まない闘いなのは間違いない。
だが、ルージュとて退くワケには行かない。
素直に降伏したら、ストロヴェルに何をされるか解からないのだ。
「同じかどうか――」
大きく床を蹴るルージュ!
「――見せてあげる!」
脚を床に叩き付けた衝撃で、左足に纏っていた炎が爆裂し――その反動を利して、ルージュは天井近くまで飛び上がった!
「え……っ!?」
想定外と言う声を上げるアクエリアス!
だが、流石と言うべきかその視線はルージュを追わず、”マギ・コード”を展開し始めていたストロヴェルを警戒していた。
アクエリアスに勝るとも劣らない速さと巨大さの魔力の構成が編み込まれ、ストロヴェルの胸の魔導石に組み込まれて行く!
「アクア、余所見をするな! 赤毛の女に集中しろ!
ストロヴェルのヤツは魔法は使えない! ハッタリだ!」
腕組みしたまま、アドバイスを送るカメリア。
「打ち砕け! ”紅蓮蹴撃”!」
姿勢を立て直したルージュが、アクエリアス目掛けて炎の蹴足を撃ち込む!
ストロヴェルから視線を外し、”魔法障壁”を生み出して、ガードしようとするアクエリアス!
カメリアのアドバイスに従い、ストロヴェルの動きをブラフだと読んだ様だが……。
甘い!
「打ち消せ! ”魔力消去”!」
ストロヴェルの身体から、青い閃光が放射される!
その光に巻き込まれ、アクエリアスの光の盾が粒子となって消し飛ぶ! もちろん、ルージュの脚に纏わりついていた炎も――!
「そんな……っ!」
アクエリアスが叫んだ時には、ルージュの蹴りがその腕を捕えていた!
”魔法障壁”で受け止めるつもりだった銀髪の少女は、ルージュの蹴りをまともに素手で受け止めてしまう!
「……”魔法障壁”が消えた!?」
驚愕するアクエリアスの腕から、煙が立ち上り、肉の焦げる臭いが鼻を突く!
「ぎゃあッ!」
悲鳴を上げ、咄嗟に腕を振り払うアクエリアス!
ストロヴェルの”魔力消去”によって、ルージュの”紅蓮蹴撃”も掻き消されたが、それによって発した熱までが消えたワケではない! 金属製の”魔導装甲”は高熱を帯びていた!
その”魔導装甲”をはめたルージュの蹴りを、素手で受け止めてしまったのだから、流石の”青眼の魔女”でもたまらない!
火傷した手のひらを庇い、完全に隙だらけになったアクエリアスの腹に、強烈な回し蹴りを撃ち込む!
「がはっ……!」
鈍い悲鳴を上げて、床に突っ伏すアクエリアス!
「おのれッ!」
想定外の事態に、遠巻きに高みの見物をしていた”青眼の魔女”の仲間たちが一斉に”マギ・コード”を組み上げる!
「乱れろ! ”連光弾”!」
全員が同時に撃ち放った”光弾”の乱れ撃ち! その数は百発を超える!
視界を埋め尽くす火球の群れに、ルージュは臆することなく飛び込んだ!
突進しながら”マギ・コード”を組み立てる! 編まれた魔法を発現するべく腕を振りかざす! ――が、まだ実体化させるワケには行かない!
迫り来る火球の群れに恐怖を感じながら――ルージュは脚を溜め続けた!
その火球が一瞬にして、虚空に消える!
「打ち消せ! ”魔力消去”!」
ストロヴェルの甲高い叫びが、”魔動炉”に木霊する!
「そんな……!?」
驚き慌てる”青眼の魔女”たち。その隙を見逃してやる程、ルージュは甘くない!
「破裂しろ、”爆縮波”!」
展開ギリギリの状態をキープしていた魔法を、満を持して解放した!
ルージュが左右に突き出した腕の動きに合わせて、衝撃波が放射状に広がる! 圧力の壁に薙ぎ倒されて、”青眼の魔女”が悲鳴を上げて、空を舞う!
だが――ひとりだけ、その場に耐えて佇む少女――カメリア!
「ストロヴェル! テメェの仕業かッ!?」
憎しみに満ちた蒼い瞳をストロヴェルに向け、振り返りざまに”光弾”を一発、叩き込む! 鋭い円軌道で唸りを上げながらストロヴェルに突っ込む火球!
もちろん、こんな攻撃を躱すのはストロヴェルにとって訳は無い。
だが――。
”光弾”を撃つと同時に、カメリアがストロヴェル目掛けて駆ける!
その手には――腰に差していた短剣が握られていた!
マズイ!
魔法に意識を集中しているストロヴェルは、カメリアの武器に気付いていない!
”魔力消去”は魔法に対しては絶対優位だが、物理攻撃に対してはまったく意味を成さない!
「打ち消せ! ”魔力消去”!」
三度、ストロヴェルのちからが魔法を否定する!
虚空に消えた”光弾”の背後から飛び込んで来るカメリアの姿に、ストロヴェルがようやく気付く!
「逃げて、ヴェルッ!」
間に合わないと解かりつつ――ルージュが叫ぶ!
カメリアの短剣が、ストロヴェルの胸に突き刺さる――寸前!
カメリアの下腹部辺りで、小さな火球が爆裂した!
「ぎゃああッ!」
悲鳴を上げて真後ろに吹っ飛ぶカメリア!
身構えるストロヴェルの背後から、突き出されたパプリカの錫杖。先端から白煙をくすぶらせて笑みを浮かべている。
「なるほど。スィートハートの”魔力消去”で相手の魔法を打ち消し――その隙を突いてエンバーラストが攻撃する――と言うワケですね。面白い闘い方です」
感心した様に、にこりと笑うパプリカ。
ストロヴェルの無事な姿に、ルージュは胸を撫で下ろした……。
もちろん、言うほど簡単ではなかった。
この奇天烈な魔法のコントロールに、ストロヴェルは未だ慣れていない。
彼女の魔法は、対象範囲のあらゆる魔法を消失させてしまう。相手の魔法のみを打ち消しつつ、ルージュが魔法を撃つには、ストロヴェルの”魔力消去”に一拍子ずらして発動させなければならなかった。
ストロヴェルの提案した戦術だったが、うまく行くかは不安だった。
”魔力消去”のタイミングが僅かでもズレれば、ルージュは”連光弾”の雨を浴びていたし、”爆縮波”まで無力化されてしまっていた。
「でも、エンバーラストは、スィートハートを信じて飛び出したのですね。良いコンビですね、貴女たちは……」
納得して頷くパプリカ。
「魔法を……打ち消すだと……!?」
憎々しげに呻いたのは、ストロヴェルの足元にうずくまっていたカメリア。腹の辺りを抑えたまま、ストロヴェルを睨みつける。
「テメェは……魔法が使えなくなったんじゃなかったのか!?」
「わたしもそう思っていたし、実際わたしが使える魔法はこれひとつだけだよ」
自分の胸元に手を当てて、ストロヴェルがカメリアを見据える。
「この魔導石のおかげで、わたしはすべての魔法を失った代わりに……誰にもない魔法を手に入れたんだ」
「ふざけんな! せっかくアンタが消えて、アタイが一番になったと思ったのに!
またしても、アンタがアタシの前に立ちはだかるのか!?」
カメリアの嫉妬心の高さに、ルージュは嘆息した。
彼女は、魔力を失ったストロヴェルに対し、優越感を感じていた事だろう。だが、その結果ストロヴェルが得た新たな魔法が、魔法を全否定する能力だった――。
魔導師として上を行ったと思ったら、土台そのものを否定された気分だろう。
「カメリア。大人しく撤退して! これ以上闘っても、魔導師である貴女にわたしは倒せないわ!」
「澄ました顔でふざけた事を……!」
ストロヴェルに飛び掛かろうとするカメリア!
しかし――
「お止めなさい!」
鋭い牽制が、”魔動炉”に響き渡った!
背後から聞こえた声に、ルージュは反射的に飛び退く!
背後の通路。その真っ暗闇の向こうから響く、ひとつの靴音。
やがて――ひとりの影が、その闇の中から姿を現した。
それは、カメリアたちと同じ蒼い瞳を持つ女。
やや青みがかった黒髪を艶やかに結い上げた長身に美人。その身に纏う最上級魔導師である事を意味する紺色のローブ。
『ラピス・ラズリ』の魔導師ではないルージュでも、良く知っているその顔は――
「バミューダ様!?」
”青眼の魔女”指揮官の姿を見て、驚愕の声を上げたのはカメリアだった。
次回 3-6:ストロヴェルの復讐




