3-4:アクエリアスの戦闘
「どうして、”青眼の魔女”がここに!?」
驚愕するストロヴェルに、金髪の”青眼の魔女”――カメリアが鼻を鳴らす。
「ふふふ……、アタイのお爺様の情報網を舐めないでもらいたいわ!」
高らかに笑うカメリア。
「ストロヴェル、事故に紛れて『ラピス・ラズリ』を脱柵した挙句、スパイを招き入れるなんて!
バミューダ様の懐刀は、とんでもないアバズレだったわね!」
「裏切ったのはそっちじゃないかッ!」
ルージュを押し退けて、ストロヴェルが前に踏み出す!
ローブの胸元に手を伸ばし、取り出したのは――”記録結晶”。カメリアが、”タイタンフェイド魔動炉”の暴走事故に見せかけて、ストロヴェルを事故に巻き込もうとした、あの”記録結晶”だ。
「アンタはわたしの魔導石をすり替えて、魔導石移植術式を失敗させた!
そして、それが思った以上の騒ぎになったから、今度は”魔動炉”を暴走させてわたしの命を奪おうとしたんだ!」
「まだ、そんな戯言を言っているワケ? アタイがアンタの魔導石やら”記録結晶”やらをすり替えた証拠があるんなら、今すぐ出して見せなよ!」
「それは……っ」
痛いところを突かれ、ストロヴェルは押し黙ってしまう。
その様子を見て、ニヤリと笑うカメリア。
「まぁ、そんな事はどうでもいい話だわ! まさかアンタを遠慮なくぶちのめせる機会が巡って来るとはね! このあいだみたく、手加減はしないわよ!」
円形の”魔動炉”をぐるりと取り囲んだ”青眼の魔女”を睨み、ルージュは笑みを浮かべた。
「ふん! 大きく出た割には、五人ぱかししかいないじゃない!
その程度の人数で、アタシたちを拘束出来るとでも思っているワケ?」
上級魔導師と、中級魔導師の実力差はルージュでも良く分かっている。だが、カメリア率いる”第十一世代”は新米の若い娘で構成されている。”青眼の魔女”と相まみえるのはこれが初めてだが、逃げる隙くらいは、作れるハズだ。
「ヴェル! ここはアタシに任せて貴女は逃げなさい! コイツらの狙いは貴女なんだから!」
ストロヴェルに促すが、彼女は逃げる素振りすら見せない。
「冗談でしょ!? せっかくカメリアと顔を合わせられたって言うのに!」
……まったくもう!
ルージュは内心で地団駄を踏む。
言っても聞き分けがなさそうなストロヴェルの説得を諦め、身構えるルージュ!
彼女の周囲に、”マギ・コード”が展開され、魔力と紡ぎ合わされて脚の”魔導装甲”に集約されて行く!
”魔導装甲”の魔導石から紅蓮の炎にも似た光が溢れ出し、ルージュの両足に絡み付いた!
「そうこなくてはね! 魔導師同士の決闘なんて、滅多に出来るもんじゃないわ!」
ルージュの動きに満足げに頷く”青眼の魔女”のリーダー。
「アタイはストロヴェルと遊べればそれでいいわ。アクア、その赤毛の魔導師に”青眼の魔女”の恐ろしさを教えてあげな!」
「そ……そんな……っ!」
指名されて、困った様に狼狽える銀髪の少女――アクエリアス。最年少らしい小柄な少女は、躊躇う仕草を見せる。
周りを取り囲む他の”青眼の魔女”たちも、自分に厄介な指示が飛ばなくて安心した様に傍観していた。積極的に闘う気があるのは、カメリアだけらしい。
それならば――ルージュでもどうにかなるか?
「リーダーのアタイがやれって言ったら、やるんだよッ!」
カメリアに凄まれ、アクエリアスは止む無くルージュの前に出る。
目の前に立ったアクエリアスに、ルージュは優しく微笑んだ。
「手加減しなくていいわよ。貴女を恨んだりはしないわ」
「あの……ごめんなさいっ!」
大きく頭を下げて謝るそのアクエリアスの周囲に、瞬き程の一瞬で”マギ・コード”が展開される!
速い!
やはり幼くても”青眼の魔女”は”青眼の魔女”である。単純な魔力量だけでなく、術の展開速度もルージュとは雲泥の差だ。
「発現せよ! 爆ぜろ、”光弾”!」
まずは初手と言う事か、シンプルな火球を一撃、撃ち放って来る!
それに向かって――ルージュも走った!
そして空中で一回転! 勢いに乗せた回し蹴りで、その”光弾”を弾き飛ばす!
的を外し、床に炸裂した”光弾”の爆風に乗って、ルージュは勢いそのままアクエリアスの腹に熱線を纏った蹴りを撃ち込んだ!
が――!
ルージュのつま先を、アクエリアスは片手の手のひらだけで受け止めた!
「嘘でしょ!?」
思わず叫ぶルージュ!
普通こんな事をすれば、手首から先が炭化する。しかし――よく見れば、アクエリアスはその手のひらに、手鏡の様な大きさの”魔法障壁”を作り上げていた。
ここまで小さく凝縮された”魔法障壁”は、そう簡単に撃ち抜けるものではない。確かにそうなのだが、驚くべきはその攻撃をピンポイントで合わせて受け止めた、アクエリアスの反射神経だろう。
「これならどうだ!?」
受け止められた右足をそのまま軸にし、左の回し蹴りをアクエリアスの顔面に見舞う!
だが、この攻撃も、アクエリアスは手刀であっさり弾いてしまった!
身体が完全に空中に浮いてしまったルージュを見据え、開いた両腕を胸の前で交差させる!
ローブの胸元が、妖しく蒼く輝き、彼女の胸元に再び”光弾”が灯った!
「ヤバイッ!」
咄嗟に”魔法を編み上げる!
「発現せよ! 妨げろ、”魔法障壁”!」
「発現せよ! 爆ぜろ、”光弾”!」
ほぼ同時に、ふたりのあいだに魔法が展開され――間一髪で先行したルージュの”魔法障壁”が、アクエリアスの”光弾”を受け止める!
狭い空間で爆裂した炎がふたりを弾き飛ばす!
難なく後方に飛び退いたアクエリアスの姿を眼で追いながら、ルージュも空中で反転。着地より先に、魔法を組み上げ、標準する!
「「発現せよ! 乱れろ、”連光弾”!」
連射型の”光弾”が、アクエリアスを襲う!
だが――少女は、微動だにする事無く、自身への直撃弾だけを的確に見極め、無数の火球の一発だけを指先で弾き飛ばした!
成すすべなく着地するルージュ。
アクエリアスから目を離したその一瞬の隙に――背後から鋭い閃光が、彼女を包み込む!
それは、巨大な氷塊!
「……凍て付け、”氷雪崩”」
既に勝利を確信したかの様に、ぽつりと呟くアクエリアス。
巨大な氷塊が、ルージュの姿を押し潰す! ――寸前で!
そのあいだに張り巡らされた光の盾が、ルージュを護る!
本当にギリギリで、氷塊は”魔法障壁”のかたちに沿って固まり、止まった……。
「大丈夫ですか、エンバーラスト!?」
振り向けば、錫杖を掲げたパプリカ。この”魔法障壁”は彼女のものか。
氷の向こうで、本当にほっとした様子でアクエリアスがため息をつく。
ルージュを傷つけたくない……、そんな心情が読み取れた。
「ルージュ、大丈夫!?」
「大丈夫よ」
ストロヴェルに支えられて立ち上がり、ルージュは歯ぎしりした。
「ちっくしょう……! 確かに手加減無用とは言ったけど!
少しは空気読みなさいよ、あの子も……!」
逃げる隙くらいは作れるかと思ったが……甘かった。
悲し気な眼差しのアクエリアスを――睨みつける。
少し垢抜けない素朴な感じだが、整った可愛らしい顔立ち。手入れされた滑らかな銀髪。一見、箱入りの貴族令嬢だと言っても信じてしまいそうな程、容姿の整った少女。
だが――強い。
魔力量やその習熟度だけではない。ルージュの蹴足を手先のみのピンポイントで受け止めた、格闘家もびっくりの身体能力。
そして何より、アクエリアスはルージュを気遣って、全然本気ではない。
カメリアも含め、闘いを見守っている他の”青眼の魔女”も、タイプは違うがみな、それなりの容姿の持ち主で揃えられている。
才色兼備とは、正に彼女たちの為にある言葉だろう。
正直、羨ましい程だ。
羨ましがっている場合ではない。何とか策を考えて、窮地を脱しなくては!
身構えるルージュ。その彼女のジャケットをストロヴェルが引っ張る。
「ヴェル、危ないからパプリカさんの傍にいて」
「ルージュ、わたしに考えがあるの!」
「?」
ジャケットの袖を引っ張られるままに、ストロヴェルに耳を貸すルージュ。
ごにょごにょと、耳元で囁いた彼女の言葉に――
「……うまく行くかしら?」
――ルージュは、訝しげに表情を曇らせた。
「大丈夫! 自信あるから。わたしを信じて! ……けど、アクアに優しくね?」
アクエリアスを気遣いつつも、自信満々に頷くストロヴェル。正直、気を遣う程、こちらに余裕などないのだが……。
「よーし、それじゃあ貴女の策に乗ってみようじゃない!」
片手のひらに、ぱちん! と拳を当てて、”青眼の魔女”を見据える。
こちらを観察していた彼女らも、険しい顔で警戒心を露わにした。
変に対策される前に――先手必勝!
「行くわよヴェル!」
「うん!」
アクエリアスが身構えるより先に、ルージュが走った!
その背後で――ストロヴェルが”マギ・コード”を組み始める!
次回 3-5:精鋭部隊の敗北




