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償いの旅路はいまだ遠く  作者: 藤宮ゆず
1.過去の罪
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7

 旅の道中、メルトはアイルに銃を買い与えられた。丁度腕の調子も良くなり、銃を扱えるようになっていた。


「少し重いかしら?」


 手にしていたのは長身の旧式銃。重くて扱いづらい面もあるが、その分安価だった。メルトは彼女に世話になっている為、少しでも余計な出費を減らしたかったこともあり、それを選んだ。


「いや、慣れる。丁度肩が軽くて不安だったんだ」

「職業病ね」


 しかしそう言うアイルも肩に銃を担いでいる。すると隣に居たドーシュが羨ましそうな目でメルトの銃を見た。


「いいなぁー。僕にも銃持たせてよ」

「あなたは銃じゃなくてペンを持ちなさい。まだまだ勉強が足りないわ」


 アイルは時間があると常にドーシュに勉強を教えていた。狩りや料理などをドーシュにさせないのは、彼に少しでも多くの勉学の時間を与える為だった。ついでにメルトも怪我人という立場に甘えていたが、そろそろ働き手として役に立てそうであった。


「では道具も揃ったことだし、行きましょうか」

「次はダリアか。遠いな」


 次の目的地は三大都市ダリアであった。ダリアまでは船に乗ることが出来、港に着いてその後また別の船に乗り継ぐ。着くまでにそう日数はかからない。


 船着き場へ向かうと、近くは露天商と旅人で賑わいを見せていた。特にここは多種多様な食べ物が売られており、美しくカットされたフルーツや、タレを塗って香ばしく焼かれた肉が旅人の空腹を誘っている。ドーシュも例外ではなく、ある店に目を止めてアイルの袖を引いた。


「あのフルーツの串美味しそう。買ってきていい?」

「いいわよ。私とメルトの分もお願い」

「分かった!」


 ドーシュは貨幣を渡されるとタタッと駆けて行く。安易に送り出したアイルにメルトは眉をひそめる。


「次の船まで時間が無いんだぞ」

「じゃあ船を一つ遅らせましょう」

「おい」

「いいのよ、まだ時間に余裕はあるし。こういう時は今出来ることをしておこうと思うの。だからそうかなくても大丈夫よ」


 まるで一時一時を惜しみながら過ごすようだった。フルーツ串を嬉しそうに持つドーシュを見て、アイルは愛おしそうに目を細めた。それから他にも団子や焼き菓子を食べ、本当に船を遅らせてしまった。あまりにも満足そうにしている二人を見て、メルトはもう何も言わなかった。段々とこの旅の流れに順応してきている。


 そうしてようやく船に乗り、国で一番大きな河川を船で下る。船はいくつかの港で立ち止まるが、三人が乗り継ぎをする為に降り立ったのは交易の要所パトレイであった。様々な土地の人間が集い行き交い、活発に商売が行われていた。出立した港とはまた違う雰囲気を纏った土地だった。


 パトレイに着いた頃には太陽が頭の上を通り過ぎており、いくら船が早くても今夜中にダリアにたどり着くのは無理だった。メルトは船乗りに船の時刻を尋ねて来た。


「ダリア行きの船は明日だな」

「丁度良かった、ここの聖堂に手紙が届いているかもしれないの」

「王都の監察部からか?」

「ええ。手紙のやり取りは行き道の聖堂に預けるのがやり方なの」


 アイルは王都にある監察部という部署に所属していた。十二ある聖地の宝物を管理し、神官を見張る役目も持つ。だがこの部署には普通の手順では入ることは出来ない。誰かツテのある人間に取り立てて貰わなければならない。いまだアイルが多くを語ることはないが、メルトはただ彼女に導かれるまま進んでいた。


「じゃあ聖堂に行くか」


 メルトがそう言うと、アイルは頷きかけて、何かを見て咄嗟に背を向けた。


「どうした」

「いえ、やっぱり先に宿を探しましょう。この辺りの宿はすぐに埋まって探すのが大変なの」

「確かに、前に来た時も大変だったもんねー」


 ドーシュは何も疑わずそれに従うようだった。二人は前に一度ここに来たことがあるようだった。


 メルトはそっと後ろを見やる。そこで彼女が何から顔を背けたのか気付いた。


(王都所属の兵士か)


 少し向こうに小分隊ほどの兵士が居た。遠征の途中だろう、そして彼らの胸元には王都の兵士のみが身に付ける緑色のブローチが光っていた。あのブローチは王都に配属された優秀な兵士の誇りであり、勲章だった。向こうまで距離は遠く、まだこちらに気付いていないがメルトは脱走兵だ。生きていると知られないよう用心するに越したことはない。自然と足が速くなった。それはメルトだけではなく、アイルもだった。彼女も除隊した身で居心地が悪いのだろう。一向に振り返ろうとはしない。


 するとドーシュが「あ」と声をあげた。


「アイルさん、僕ナイフを研ぎ直して貰いに鍛冶屋に行きたいんだけど」

「ここじゃないと駄目なのか?」

「一日で研いでくれるのはここの鍛冶屋だけなんだ」


 そのナイフはドーシュがいつも肌身離さず持ち歩き、大切にしていた。だからどうやらどうしても行きたいようで、アイルに目で訴え掛けた。アイルは懐中時計を見て、遠く離れた兵士達の方をもう一度見やった。


「・・・・・・鍛冶屋と聖堂への道は覚えているわね?」

「うん」

「じゃあ私達は先に宿を探して聖堂に向かうから、そこで合流しましょう」

「分かった!」


 ドーシュの背を見ながら、メルトは心に不安が募った。


「一人にして大丈夫か?」

「パトレイには前に来ているから大丈夫よ。でも鍛冶屋には兵士達が居る方向へ行かないといけないの。明日の朝受け取りたいなら、店仕舞いする前にナイフを渡さないと」


 しかしその表情はやや曇っていた。兵士達の横を通って行くのが気掛かりなのだ。


「お前はあいつらを避けなければならない理由があるのか?」

「私は正式に除隊したわ。あなたの避ける理由とは違う。でも、探られたくない腹はいくつかあるのよ」


 アイルはそれから口を閉ざしてしまった。また歩き始め、メルトは別の話題を切り出した。


「ドーシュのナイフは護身用か?」

「育てた祖父の遺した物らしいわ。あの子は本当の祖父だと思っているから、形見みたいなものね」


 アイルはいつもあれほど親しげに話し、慈しんでいるのに、何故本当のことを嘘で塗り固め偽っているのか。だがそれは欺こうとしているようではない。


(本当のことを言わないのは、ファーノに居たカロ神官への気遣いと同じなのか・・・・・・)


本当のことが人を救うとは限らない。アイルはドーシュを救おうとしている。ただドーシュが彼女の偽りに気付いた時どう思うかは、メルトには分かりかねた。



 ***

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