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 日が暮れて、その日は宿で食事を取ることにした。安宿だが王都の宿はサービスが良いので、頼めば食事は部屋に運んでくれる。ガリアスの部屋で、アイルとガリアスは向かい合って座る。ミートソースのペンネをフォークで刺すものの、アイルは中々食が進まないようだった。


「王都は十二都市の中で最高位の聖地と言われ、三大都市と別格とされてきた。その宝物を偽物とすり替えたら、人々は一体何に信仰を捧げていることになるのかしらね」

「信じることにこそ意味があるんじゃなかったのか」


 メルトは結露の付いたグラスを持ち、半分ほど残っていた水を仰いだ。


「あれは真珠か香木かの違いであって、そこに存在しないものを存在すると偽るのは、もはや詐欺だわ。私は人々の心を裏切りたい訳じゃない。でももしダリアで起こったように、神官の誰かが王都の宝物を使って謀反を起こせば今度こそ取り返しのつかないことになる」

「保守派と信じられていた神官が改革派として反旗を翻したからな。絶対神話が崩壊した訳だ」

「絶対、ね。絶対を証明するのは難しいわよね」


 そう言ってアイルはペンネを口に運び、ゆっくりと噛み砕き飲み込んだ。


「今回宝物のすり替えを提案したのは恐らく、中立派の皮を被った『改革派』の人間よ。ハンヌ神官達が少数派だっただけで、あなたの言った通り神官のほとんどは保守派なんだから。きっと治安維持部隊はそちらの特定を任されていて手一杯だから、宝物のすり替え任務を警邏隊に回したのよ」

「いいのか、今日の様子からして、お前は警邏隊とはりが合わないだろう。そう仕向けているのはガリアスだろ」


 ガリアスはライディンが過激派ヴェンダの一員であったこと、そして死刑の原因となった罪が濡れ衣であることも知っていた。たがガリアスはアイルを庇って釈明している気配は一切無い。むしろ何かしらの方法で煽り立てている。


 アイルはフォークを置いて、イスにもたれかかった。


「ガリアス。ここ何年も会ってなかったけど、本当にいけ好かない男だわ」

「奴はお前を殺す為に、わざとあんなトカゲの尻尾切りみたいな作戦を考えたんじゃないか」

「かもね」

「前から聞きたかったんだが、お前とガリアスの間にはどんな確執がある」

「確執?」

「ドーシュを連れて行かれたあの日、お前はガリアスに対して嫌悪を示した。それは何故だ?」


 アイルはメルトを真っ直ぐに見据える。


「どうして気になるの?」

「六年前、ライディン様を密告したのはお前だが、そう仕向けたのはガリアスなんじゃないかと思っている」


 メルトがそう言ってもアイルは動じなかった。むしろ何か思い当たったように納得して少し笑った。


「その話をしたのはエルマーね」


 エルマーはダリアで勤務しているアイルの後輩だ。


「知っていたのか?」

「確かに私が軍を辞めたことでガリアスは出世した。でもそれは、私がライディン様を密告したことと関係があるかしら。ライディン様の情報はすでに保守派議員に・・・・・・」


 言いながらアイルは言葉を切った。そしてゆるゆると目が見開かれ、愕然とした。メルトが言わんとしていることに気付いたのだ。


「リオン隊長は、ガリアスと保守派は繋がっていると言っていたな。それなら奴が六年前から保守派と繋がっていてもおかしくないだろう」


 メルトの指摘に、アイルは顔を片手で覆ってうつむいた。


「エルマーは私に何度も言ったの。全てガリアスが仕組んだことじゃないかって。でも私は取り合わなかった。いくらガリアスのことが嫌いでも人のせいにするような考えをしたら終わりだって。それにそんなふうにしてまで正当化しようとする自分が哀れで仕方なかった・・・・・・」


 部屋のガス灯がアイルの影を濃くした。やがて顔を上げた彼女は、あることを尋ねた。


「私とガリアスは出会った時からずっと相容れなかった。それはきっと考え方の違いにあると思うの」

「どんな」

「メルトはもし目の前に憎くて許せない人間が居たらどうする?」

「遠ざかって、出来るだけそいつを視界に入れないようにする」

「平和主義なのね」

「おまえはどうなんだ?」

「どうもしないわ。人と人はずっと一緒に居ることはない。いつか必ず道が分かれて離れる日が来る。その日を待っている」


 その言葉にメルトは怪訝そうな顔をした。


「それは本当に憎い人間に対する行動か?憎むということが分からない訳じゃないだろう。お前は本当に、近くに居ても平然と居られるなんてことがありえるのか?」


 アイルの双眸に憂いが帯びる。


「確かにそうね。でも例えばその憎い人間が目の前に居るよりも重要な、自分の叶えたいことがあれば、私はその程度のこといくらでも我慢出来るのよ」

「じゃあ、ガリアスはどうするんだ」

「あの男は、自分の視界から追いやろうとするわ。必ず。排除するでしょう」

「殺すのか?」

「必ずではないでしょうね。憎さによる度合いによるんじゃないかしら」


 強く憎んでいる人間なら殺す可能性があるということだ。ではアイルを軍から追いやり、今もなお追い詰めるのも、まだ憎しみが続いているということか。


 どちらにせよ今のアイルがそれについて明言することはないとメルトは確信していた。アイルは最近、都合の悪いことは話をすげ替えたり、はぐらかすことが多い。特にガリアスのことになるとそれが顕著だ。ただ嘘をつかないように努力していることはよく分かる。


「私達は根本的に考え方や生きてきた人生が違った。今も分かり合えないのはそのせいよ。そして・・・・・・私と違ってガリアスは、ライディン様を慕ってはいなかったわ」



 ***

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