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 その瞬間、アイルの頭に過去の思い出が駆け巡った。


 兵士時代、尊敬していたライディンに特別贔屓にされ誇らしく思っていたこと。自分のエゴでライディンが死んだこと。除隊して家庭教師をしていた時、忘れ形見のドーシュが孤児院に行くと知って、引き取ることを決意したこと。何も知らない無邪気なドーシュがとても懐いてくれて、人生で一番楽しかったこと。ドーシュの笑顔が、一瞬だけ罪を忘れさせた。許されたような幻を見ていた。でもそれは一夜にして崩れ去った。


 これが走馬灯なのかと思った。銃を構えていた男がライディンの面影と重なる。


(あぁ、やっぱりあなたは私に呪いをかけたんですね。あなたの息子を育てて送り出したからもう用済みですか?もう誰かと笑って過ごすことは許して貰えないんですか・・・・・・?)


 アイルは奇しくも自分が微かに笑っていることに気付き驚く。そして銃剣を下ろした。自分の死に場所はここだと悟ったから。


 本当に一瞬の間だった。どうしてこんなに多くの思考と、決意が、瞬く間に出来たのか分からない。


 やがて発砲音がした。撃たれたのは銃を構えていたライディンの幻影──男は頭を撃ち抜かれていた。


「アイルーーーっ!!」


 声の方を振り向くと、遠くの建物の屋根に人影があった。メルトだ。幻影を撃ったのは彼だ。


「メルト・・・・・・」


 彼は出会った時に着ていたあの軍服を着ていた。とうとう彼は兵士に戻ったのだ。逃げ出して放り出していた使命に向き合った。


 メルトは叫んだ。


「お前は『監察官』だろ!!」


 そう、アイルも自分と向き合わねばならない。目の前にあるのは過去ではなく、今すべき仕事なのだから。


 アイルは銃剣を振り上げ地面を蹴った。


「誰か止めろ!!」

「アイルを殺せ!!」


 怒号が飛び交った。しかし向かい来る敵はメルトが援護射撃してくれている。だから一直線に神官長に向かって走ることが出来た。


 アイルは叫んだ。


「謀反人に粛清を!!」


 首に銃剣が突き刺さって、血が空高く飛び散った。返り血が顔に飛ぶ。神官長は苦しむ声すら上げずに息絶える。


 そしてようやくここへ軍の兵士が辿り着いた。驚いたことに兵士達の胸には緑色のブローチと、治安維持部隊の腕章。


 アイルはメルトの方を見やった。どうやったのか彼はダリア支部だけでなく、王都の精鋭も動かしたようだ。いくら腕利きの傭兵部隊が居ようと、彼らが動いたのなら鎮圧は時間の問題だった。



 ***


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