六話
光輝塔の中庭にたたずむ二つの影、そのうちの一人が感心したような声を上げながら、息も絶え絶えになっているもう一人に話しかけた。
「ほう、これが天界化、あちらとさして変わらぬのだな。
エルネスタ殿はどう思われる。」
「・・・・・・わ、わたくしめには・・・・・神界におりました・・・・・・こっ、頃の記憶はございませんので何とも・・・・・・・・・」
はぁはぁ、と息を切らせ途切れ途切れになりながらも、何とかそう答えたのは、この光輝塔の主であるエルネスタだった。
「っそ、それよりも・・・・・・
護衛の方々を撒いてしまってよろしかったのでしょうか。」
そう、この二人には最初護衛として何人かの兵士がつていたのだが、今は中庭に二人だけである。
なぜこうなったのか説明するには少しばかり時をさかのぼらなければならない。
アルヴィが部屋を出たのを見送ったあと迎えに来た三紫紅と一緒に次代蒼紋天守であるカルファスをもてなしていた。
そう、もてなしていたのだ。
なのに、そのもてなしを受けていたはずのカルファスが何の前触れもなく『詰まらん。』と、言ってエルネスタの腕を掴んだかと思うと突然テラスに向かって走り出し、周りの者たちが止める間もなくテラスから飛び降りたのである。
あまりのことに茫然自失状態のエルネスタを引きっずて護衛から逃げ回るという暴挙に出たのである。
「かまわん。
私のこのような行動はいつものことだ。
護衛どももまたかと呆れこそすれ心配等すまいよ。」
はっはっは、と何でもないことのように楽しげに笑いながら臆面もなくそう言い切るカルファスにこの人には何を言っても無駄だと悟ったエルネスタはカルファスの護衛たちに同情を抱きながら深々とため息をつくのであった。
「まあ、とりあえずふざけるのはここまでにしておこう。
エルネスタ殿、すまないがどこか人の寄り付かない場所はないか?
誰にも知られたくない話がある。」
それまでの飄々とした態度を一変させて、カルファスはエルネスタに向き直った。
「人が寄り付かない場所ですか?」
「ああ、そうだ」
カルファスの真剣さにのまれながらも、エルネスタはしばし逡巡する。
しばらくそうやって考えた後エルネスタはカルファスについて来るように促した。
エルネスタが案内したのは奥庭の一角にある小さな小さな小屋だった。
鬱蒼とした木々に囲まれており、光輝塔にこのような場所があったのかとそう思わせるような場所だった。
「ここならば滅多に人が来ることはありませんし、念のために認識を阻害する結界をはったので誰かがこの近くに来ても小屋の存在には気づかないでしょう。」
エルネスの言う通り、小屋は奥庭の中でも隅に位置する場所にあり、このような小屋があると知っている者がいるのか疑わしい場所に立っていた。
仮にこの小屋の存在を知っていたとしても、まさかこんな場所に光輝天守と次期蒼紋天守がいるとはだれも思わないだろう。
ーーーーさらに、万一のことを警戒して結界をはるとは、今回の光輝天守殿はなかなかどうして用心深いかのようだ。
「少し長い話になる。
エルネスタ殿、心して聞かれるがよい。」
周囲に人の気配がないか確かめるかのように、もしくは逡巡するかのように閉じられていた眼を開いてカルファスは告げる。