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カンナギ  作者: ルンド
第一章
18/18

カンナギ十五話

今までで一番の難産でした。

部屋に戻ったエルネスタは自分の席に腰かけると部屋の出入り口に固まったままの自分の側近や幼馴染たちに席に着くように促す。

まるで何もなかったかのように振る舞うエルネスタに風矢と三紫紅たちがしばし顔を見合わせた後、四人そろって頷き、風矢が代表して、エルネスタのそばにやってきた。

「エル・・・・・・・」

エルネスタの名前を呼んだのと同時にウィーンと言う低い音が部屋に響く、音を発していたのは部屋の中央、会議の様子がよく見えるように備え付けられた姿見だった。

「父上が来られた。

全員、席に」

「エル!!」

それを見たエルネスタが短くそう告げるのを聞いて、風矢は声を荒げてエルネスタの名を呼ぶが、しぶしぶを席に着く。

それを見て、他の者たちもそれぞれ、自分たちの席に着く。

最後に、カルファスがついっとエルネスタの顔を見た後、自身の席に着いたのと同時に姿見に閻魔の姿が映し出された。

姿見に映ったのは白い髪に青白い肌青い瞳をした、エルネスタとは親子と言うよりも兄弟といったほうがしっくりくる様な若々しい外見をした閻魔の姿だった。

閻魔は美しい顔立ちをしているものの、日の光の差さない霊界とその青白い肌も合わさって、一見すると幽鬼のようにも見えた。

「ふむ、ワシが最後かと思ったが、どうやらルファールナの王子がまだなようだな。」

室内を見回した後、閻魔はそう言った。

その声は若々しい見た目とは裏腹に、低くしゃがれた老人の様な声だった。

姿を見ずに声だけを聴いたものは厳めしく、気難しい老人を思い浮かべるようなそんな声だった。

「父上、今回の会議に招集したのはこれで全員です。」

「何?

エルネスタよ其方(そなた)、今何と言った。

今回の会議に呼んだのはこれで全員だとそう聞こえたような気がするのじゃが、ワシの聞き間違いかのう?」

閻魔は息子であるエルネスタの言葉に眉を寄せてそう問い返した。


「いいえ、聞き間違いなどではありません。

今回、招集した者たちは全員、唯一人欠けることなく揃っています。」

父である閻魔の問いかけにエルネスタはこの上もなく、美しい笑みを浮かべて返事をする。

「ほう、つまり『ルファールナの王子は最初からこの場に呼んでいない』と、其方はそう言うのだな。」

閻魔は自分の息子であるエルネスタの言葉に僅かに目を細めてそう問いかける。

「はい」

エルネスタは閻魔の言葉に美しい笑みを浮かべたまま短く、そう答えたがその浮かべられたこの上もなく美しい笑みは明らかに作られた上辺だけの笑みだと言うことは今この場にいる誰もが理解していた。

それに対して、閻魔の細められた目に剣呑な光が浮かぶ。

しばし、室内に沈黙が広がるが、これ以上時間を無駄にできないと判断したのだろう。閻魔が物憂げに目を伏せ、一つ息をつくと自身の息子から次期蒼紋天守であるカルファスへと向き直り、問いかけた。

「それで、次代の蒼紋天守よ、この集まりは一体何のためのものだ。

本来ならば決して神界より出ることのない貴殿がこの場にいることも含めてお聞かせくださるのであろうな?」

閻魔のその問いは今この場にいるカルファスとエルネスタ以外の全員の思いを代弁していた。

「むろん、最初からそのつもりだ。


今回、私が天界に来たのは、理に干渉する咎人がこの天界にいることがわかったからだ。

その咎人については初代の頃から理に干渉していること、そして天界にいることしかわかっていなかった。

昨日までは、な・・・・・・・」

カルファスの言葉に、桜花を除く全員がカルファスを見つめていた。

その中には、昨日先んじて話を聞いていたエルネスタもいた。

唯一人、魔族である桜花だけは事の重大さをよく理解できないでいた。

「風矢、理に干渉することはそれほど驚くようなことなのですか?」

「お前、何を・・・・・・・

って、そうかお前は魔族だから俺たち(天界人)と理に対する認識が違うのか。」

側近である桜花の言葉に思わず『何を言ってるんだ。』と言いかけて天界人である自分たちと魔族である桜花の認識の違いを思い出す。

「奥羽花、お前は理をどういうものだと認識している?」

「自然法則全般を指すものだと認識していましたが。」

『違うのですか?』という桜花のと言いに風矢は

「桜花のその認識も間違っちゃいねぇんだけど

うーん、なんて言うか理っつーのは・・・・・・・・」

ああでもない、こうでもないと頭を掻きながらうまく説明する言葉が思い浮かばずにいる風矢に助け舟を出したのは三紫紅たちだった。

「桜花殿の認識は間違っていると言うわけではありませんが、正しいと言うわけでもございません。」

一人がそう言ったあと続けてもう一人が言う。

「理は確かに自然法則を意味する面もございますが、それ以上に、その自然法則の、いえこの世界に存在する命すべての調停者といったほうが正しいですかの。」

「すべての命の調停者ですか?」

「まあ、生き物ではないので、調停()というのは少々違うか、理の持つ役割からすると命の調停というのは間違いではないな。」

意味がわからないとでも言うような桜花の言葉にそれまで黙って聞いていたカルファスも加わる。

「そうですのわかりやすい例でいえば食物連鎖ですかの。」

最後の三紫紅がそう言って言葉を続ける。

「食物連鎖の仕組みはよくできておりましょう?

肉食の獣が増えすぎてしまえばその糧となる草食の獣が減ってしまいます。

しかし、草食の獣が減ってしまえば肉食の獣は食べるものがなくなり、その数を減らしてしまう。

そうなると草食の獣が減った分、それまで草食の獣の糧となっていた草木などが増えていきます。

すると今度は肉食の獣が増えたことで数を減らしていた草食の獣が増え、それを糧とする肉食の獣が増えと言うことを繰り返すことで食物連鎖は続いております。

理と言うのはその均衡が崩れてしまわないようにするものなのです。

他にも・・・・・」

パァン

三紫紅たちがさらに説明しようとするのを遮るように部屋の中に手を叩く音が響く、音を鳴らしたのは姿見に映し出された閻魔だった。

閻魔はその姿には似合わぬ、しかし、その役目に相応しい死霊たちをも恐怖で震わせるような低くしゃがれた声で言う。

「桜花よ、其方が我等の常識に疎いことは存じておる、だがこれ以上の説明となれば時間が足りぬ、理に関する詳しい話は会議を終えた後にしてはもらえぬか?」

そういうと閻魔は『其方等もそれでよいな。』と言ってギロリと睨みつけた。

閻魔に睨みつけられた三紫紅たちはビクッと体を震わせて『『『もっ、もちろんです閻魔大王様!!!』』』と全く同じ動きとセリフを同時に発する。

その図らずも同じ動きとセリフ、さらには三つ子のように瓜二つな顔を見て、本当に血のつながりがないのかと桜花はついつい疑ってしまうのであった。



「先程も話したが、理に干渉しているものがこの天界に潜んでいることがわかった。

ここまでは昨日エルネスタ殿にも話したことだ。」

閻魔からの催促にカルファスは念を押すように同じ説明をする。

「そして、昨日の深夜に当代から急ぎの知らせがあった。

そこには理に干渉するものが接触してきたとあった。」

新たにもたらされたその情報にこの場にいるものがざわつく、接触したではなく、接触してきたとカルファス入ったのだ、それはつまりーーーーーーーーーーーーーーーーー

「敵、御自らが出てきたってことかーーー

チッ、舐めやがって気に入らねぇ!!」

捕まえられるものなら捕まえてみろという相手からの挑発だった。

その真意にいち早く気づいた風矢が忌々しげにそう吐き捨てる。

「まったくだ」

風矢の言葉にカルファスは頷きながら同意し、話を続ける。

「本当の名かどうかはわからんがそやつは自分のことを()()()()と名乗ったそうだ。

全身を覆う黒いローブと・・・・・・・・」



『カンナギ』今、この方はそう言ったのか。

その一言が出た瞬間、エルネスタは周囲の音が遠ざかっていくような錯覚に襲われた。

カルファスの説明が聞こえていないわけではない。

現に脳はカンナギと名乗る相手が全身を覆うローブと顔の半分を隠す仮面のせいで銀の瞳をしていることしかわからなかったということを理解している。

でも、いやだからこそ心が拒んでいた。

今、カルファスが言った『カンナギ』という名を・・・・・・・



だって、それは彼が・・・・・・



アルヴィが・・・・・



初めて会った時に歌っていた歌の中に出てきた名前じゃないか!!


だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ


こんなことのためにアルヴィを突き放したんじゃない!!


だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ


アルヴィを突き放したのは


だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ


アルヴィをこの場に呼ばなかったのは


だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ


彼をーーーー


だめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ

だめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ










だめだ、光輝天守としてその選択をしてはいけない























アルヴィ・・・・



愛してるよ・・・・・


大丈夫、君のことは何があっても守って見せるから・・・・・


「・・・・・ん、エルネスタ殿、顔色が随分と悪いが一体どうされた?」

エルネスタの異変に気付いたのだろう、カルファスが心配そうにそう問いかけてきた。

「・・・・・・いえ、何でもぁ」

その問いかけに答えようとした時、突然地面が揺れた。

とっさに目の前にある机にしがみつき、(くずお)れそうになる体を支える。

その直後、今まで感じたこともないような禍々しく、おぞましい気配に姿見越しに参加している閻魔以外のその場にいた者たち全員が同時に気が付く。

その禍々しい気配の正体を真っ先に察したのは気配の主と同族である桜花だった。

「この気配、まさか・・・・

天守様!!

結界をこの光輝塔全体にはってください!!」

鬼気迫るような顔で桜花はそう叫ぶように言う。

「桜花、お前何か知っているのか!?」

「そんなことよりも天守様、早く結界を今ならまだ間に合うはずです!!

早く、手遅れになる前に!!」

風矢の問いを無視して、桜花はなおも天守のほうを向いてそう叫ぶ。

「・・・・・・あっああ、わかった」

その普段の桜花からは想像もできないような剣幕にのまれそうになりながらもエルネスタは光輝塔すべてを包み込むように結界をはる。



「さて、それでは説明をお願いいたしましょうか桜花殿」

自分たちの主が結界をはをはるのと同時にそれぞれが、自分たちの持つ道具で示し合わせたかのように光輝党全体に指示を出し、非戦闘員を落ち着かせるもの

兵士たちに指示を出し、討伐準備を行うものと非戦闘員の警護をするものとに分かれるように指示するもの

桜花の持つ情報と、現在の光輝塔の現状を各国の王と側近にも共有すべきだと判断し、閻魔が使っている姿見とは別の姿見を用意するもの

それぞれが、それぞれの役割を話し合うまでもなく瞬時に行う。

そして、示し合わせたかのように自分たちの主が結界をはり終えたのと同時にそれらすべてを終えて、三紫紅の一人が桜花に向かってそう問いかけた。

引っ越しと重なった上に満足いく話かかけず随分と遅くなりました。

理に関する説明で食物連鎖を例に出したけどちゃんとわかりやすく書けたかどうかか不安です。

他にも最後の三紫紅たちの行動はパソコンに掲載するにあったて急遽付け足したものです。

さすがに襲撃を受けた上に避難指示などのもろもろがなく即桜花の説明に入るというのはどうかと思い、エルネスタが結界をはってるすきに指示やら各国との情報共有、応援要請を出していたということにしました。


おそらく次がその次あたりで戦闘シーンに入るかと思います。

初めての戦闘シーンなのでうまく書けるか不安です。

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