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イラスト担当


「……そうだな。キャンプとか聞いただけで疲れてきた」


 悠人は深くため息を付きながら階段を登り始めた。


「そう言えば窓閉めた?」

「いや、今から」

「えっ……何してたの?」

「茶々先生の話を聞いてたんだけど……」


「早く窓閉めてよ。私いつまでロビー画面でまでばいいのよ」


 と茶々先生が急かした事でふと悠人はなぜずっと茶々先生と通話をしていたかを思い出した。


「そう言えば今ゲーム一緒にやってたな。二階の窓が開いている事に気が付いて忘れてた」

「えー。忘れてたの? 伊刈先生がマウスぶっ壊れたとか言って二階の物置にマウスを取りに行ったのが始まりなのに」


 通話口から不満そうな声が聞こえてきたタイミングで息を切らしながら悠人は階段を登りきり廊下の先を見た。


「はぁはぁ……運動不足過ぎて階段を登るのにも息が切れるな」

「あーわかる。私も階段は死んでも登らないエレベータに絶対乗る女になってる」


 そんな会話をしながら悠人はカーテンと窓が全開に開いて朝の心地よい陽射しが入り込んでいる一歩手前で足を止めた。


「光に当たったら死ぬ気がする。今二徹中だし。光に当たるとやんわり全身を包み込んでいるこの眠気が吹き飛ぶ……最終的に睡眠不足で死ぬ」


「良いじゃん。今日は始まったばかりだしあと一徹くらい死なないって。それより早くしてよ。ロビーで待機するの飽きたんだけど」


「悪い悪い。今カーテン閉めるから」


 悠人はカーテンの隅を掴むと陽射しに当たらない様にカーテンを閉めた。


「ふぅ。……なんかさっきまで深夜テンションだったみたいだな。太陽の光を見たら冷静になった」


「だよね。窓が開いてるだけで騒ぎ過ぎだったもん。──じゃあ早くゲームやろー」

「はいよ。というか茶々先生は仕事の漫画書かなくて良いのか?」

「大丈夫。あれだから……今は深夜の三一時だから。今は寝る前の娯楽タイムだし……朝起きたら作業するから」


 結局悠人と茶々先生は似たもの同士であり思考形態も大差がないのである。

 悠人は眠そうに大あくびをした後のんびりと自室に戻る。

 すると部屋に戻った直後悠人は何者かに抱きつかれた。


「うおっ……って紬か」

「悠人大丈夫?」


 と、震えた声で紬がそう問うが悠人の深夜テンションは既に終わっているので妹とのテンションの差に戸惑う。


「あー。紬。冷静になろう。日光に当たっても死なないからさ」

「そんな事無い! 日光に当たった生命体は一〇〇%死ぬ。死なない生命体は存在しない。つまり日光は毒」


 目の前で八歳の女の子が捻くれた頓智のような事を真顔で話す。


「確かに日光に当たった生命体は一〇〇%死ぬな。だけど日光に当たっていない生命体の死亡率も変わらないから日光は毒じゃないぞ。紬」


 悠人は紬の頭をぽんぽんと軽く叩くとそのままパソコンの前に腰を降ろしヘッドフォンとカメラを付ける。


「あー。もしもし。おまたせ」

「ん。じゃ続きやろ」


 と、悠人の画面には可愛らしい明るい茶髪の女の子が写り込んでいる。頭にはアホ毛が生えていて目はパッチリとした整った顔つきで肌は新雪のように白い。


 学校にちゃんと登校していればクラスの人気者になりそうなその女子は先程まで悠人が電話していた茶々先生だ。


「それにしてもこのオンラインゲームMMORPG結構面白いよなぁ」

「分かる。絵もかわいいしストーリーもいい。ゲーム性も分かりやすいからついついハマっちゃうねぇ」


 いま二人がプレイしているゲームは最近流行りの『バーチャルフロンティア』というオンラインゲームでつい先日二人が通話を繋げた時に一緒に初めて、それ以降自分の仕事を放りだして昼夜問わずプレイ中である。


 ちなみに悠人の妹である紬は悠里の背後でノートパソコンを使い箱庭運営シュミレーションゲームを最高難易度でプレイ中だ。


「それにしても……ギルドを作ろうとしたら後二人欲しいよな」

「そうだね。とりぽよ先生誘お? フロンティアの沼に一緒に浸からせよう」

「それ普通に仕事の妨害なんだよなぁ。あの人人気イラストレーターだから遊ぶ暇無いだろうし」


「大丈夫大丈夫、私仲いいから誘ったら来るって。ちょっと待ってて」


 そう言うと茶々先生の方から高速タイピング音が聞こえてきた。


「それで? あと一人は? どうするよ」

「紬ちゃんは?」

「紬はこういうゲームに興味を持たない。将棋とかチェスとかシュミレーションゲームを愛している変な子だから」


 と、悠人が考えなしにそう言うと悠人の後方から水の入ったペットボトルが飛んできた。


「痛っ! こら紬。人にペットボトルを投げるな」


 悠人は飛んできたペットボトルを手に持ちペットボトルを投げた犯人である紬の方を向いた。

 ──しかし。

「悠人が悪い」


 淡白に紬はそう言うと静かにノートPCの画面に戻っていった。


「怒られたの?」


 茶々先生が能天気な顔をしながらそう聞いてきた。


「怒られた。……ともかくあと一人どうしようなぁ……」

「まぁギルドについてはとりぽよ先生が来てから考えよ」

「──っていうか今朝だけどとりぽよ先生来るのか?」

「大丈夫大丈夫。とりぽよ先生は多分学生じゃないから。それにあの仕事量からして会社員系でもないから昼に起きるとか言う生活習慣じゃない限り来るって」


 実のところ悠人ととりぽよ先生はそこまで交流がある訳ではない。悠人の小説が出版される際に挨拶をしたのだがその際、偶然通話と繋げる機会がありそこで話をしただけだ。


「い、いつ来るのか分からなくて緊張するな。とりぽよ先生が来るまで何かクエスト回そう」

「賛成。何やる? 取り敢えずレベリングしない?」

「OK」


 と、言う訳で二人はゲームを始めた。


    *****

 悠人が使っているキャラは回避タンク兼アタッカーであり茶々先生が使用しているキャラは一撃一撃の火力が高い魔法使いだ。


「伊刈先生。もう少し陽動して! 今大技決めるから」

「ちょ、ちょっと待って。死ぬ。死んじゃう。このゲームFFありだから」


 悠人が小型も魔物相手に手こずっているとパーティーを組んだ茶々先生が魔法を唱え始めた。


「いくよー」


 茶々先生が呑気にそう声を上げた瞬間、魔法が悠人の使用しているキャラごと吹き飛ばす。


「待てぇぇぇー。あっ……死んだ」


 悠人は自分の死亡画面を眺めながら軽くため息を付いた。

 直後、悠人と茶々先生の通話しているチャンネルに誰かが入ってきた。


「あーもしもし? 聞こえる?」


 そんな可愛らしい女性の声と共に悠里のディアルモニターの一つには可愛らしいミディアムヘアの金髪キャラのライブ2Dが動き始めた。


「おー。それが最近作ったキャラ?」


 と、茶々先生が悠人のキャラクターに蘇生の石を使いながら声を掛けた。


「そうそう。すごいでしょ。私としてはよく出来たと思うんだけど……ところで今日は何の話で呼んだの?」

「ん。あぁ。今『バーチャルフロンティア』ってゲームやってるんだけどどう?」

「……私ゲーム絶望的に下手なんだけど大丈夫?」


「そ、そう言えばとりぽよ先生ゲーム下手だったね……。ど、どうする? 伊刈先生。とりぽよ先生ってゲーム絶望的に下手だよ?」


 と、ここで悠人はようやく話を振られ会話に入るチャンスを見つけた。

 実は先程まで何を話せば良いか分からずに話に入れていなかったのだ。


「お久しぶりです。とりぽよ先生」

「ひっ……だれ?」


 悠人の画面に映ったキャラクターに少しの怯えが伺える。


「あ、あれ? 以前お話しましたよね? 『静寂のスペクタル』の原作者なんですけど……」

「あっ……!」


 とりぽよ先生の息を飲む声が聞こえてきた。

 どうやら悠人の事を思い出したらしい。

(と、いうか俺の小説のイラストを描いているのに忘れられたら悲しい)


「ご、ごめんなさい。すっかり忘れてました。よろしくお願いします。伊刈先生」


 そう言われて悠人は安堵感からため息をほっと付いた。


「びっくりしました。まぁ話したのは一度キリですし一年前ですからね。忘れてても仕方がないと思いますよ」

「そうですよね! 一年前だから別に忘れてても問題無いですよね! ……あぶねぇー。思い出せて良かったぁ。一瞬変な人が入ってきたと思っちゃったもん」


 と、通話口の向こうからもホッとした声が聞こえるがそれをかき消す様に茶々先生が咳払いをする。


「あー。こんな感じでとりぽよ先生って心の声がもろ漏れな人だから伊刈先生もそこら辺に理解を持つといいわよ」

「なるほど……」


 一瞬でとりぽよ先生の人物像を捉えた悠人は深く頷いた。


「ん? 茶々さん。何のこと? 心の声?」


 どうやらとりぽよ先生は自分の心の声が外に漏れ出しているのに気が付いていないらしい。




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