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奪われた聖域


 アウトドア──それは屋外での活動を示す呼称であり、通常はキャンプやハイキングなどを示す言葉で決して、ただ単純に外に出ると言う行為はアウトドアと言う言葉に抵触はしない。


 ──しかしここには家を出ると言う行為を『アウトドア』と言い張る兄妹がここにはいた。

 突然部屋の外にいる何者かが慌てた様子で部屋の扉を押し開けた。


「紬! 大変だ。家の二階の窓が全開になっている……」


 叫びながら部屋に入ってきた目の下にクマが出来ている不健康そうな少年は伊刈悠人。彼はまるで世界の終わりを告げられた様な表情をしている。

 普段はもう少し冷静なのだ……だが彼は商業作家でもあり本日彼は二徹中。絶賛深夜テンション爆発中なのだ。


 故に話の内容は実にくだらない。話を聞いている人がいるなら揃ってそう言うだろう。


 しかしそんな少年の言葉に賛同する可愛らしい声が一つ。


「ゆ、悠人……それ本当?」


 少年の言葉を聞いた少女は拒絶反応が出たかのごとくカタカタと全身を震わせ始めた。


 彼女の名前は伊刈紬。


 少女は少年の黒い髪の毛とは違い細くしなやかな純白の髪の毛を持っていて髪の毛は腰まで流れている。

 目はルビーのような真っ赤な瞳で目、鼻、口と完璧な黄金比の美少女だ。

 年は少年より五つか六つ年が下だろう。


 そんな彼らがいるのは光の一切は入らない完璧な暗室だ。暗室の中で光を放っているのは二人の愛用している二台のゲーミングPCとゲーミングモニターだ。


 只今現在の時刻は午前七時。彼らの言う深夜三一時だ。そんな朝っぱらから大して深刻でもない問題に二人は真剣になっていた。


「ゆ、悠人どうしよう。このままじゃ太陽の光が家の中に入ってくるよ」

「ああ、やばいな。死活問題だ。ついでにもう太陽光は家の中に入ってきている」

「いやあああああああああ」


 紬が恐怖のあまり涙を流しながら悠人に抱きつくが悠人の手にしたスマホから一人の少女の声が聞こえてきた。


「いや……普通に閉めれば? 別に吸血鬼でもあるまいしさ」

「……大丈夫だ。お兄ちゃんが何とかしてみせる。任せるんだ! お兄ちゃんはたとえ死んでも紬のことは忘れないから」


 スマホから聞こえてくる音声を無視した悠人は毅然とした表情で立ち上がった。


「それじゃあ行ってくる」

「嫌だぁー。いがないで(行かないで)ぇぇぇー」


 そんなコントのような光景にスマホの電話口からは呆れたようなため息が聞こえてきた。


  ****


 悠人は部屋から出るとスマホに耳を当てた。


「ごめん。通話中に……たった今世界の終わりを知らせる事実が判明してな」


 ニヒルに笑った悠人は通話口の向こうの少女にそう言った。


「……なに言ってんの? 原稿の締め切りが近くてまともに寝てないでしょ。頭大丈夫?」

「そ、そんな事言わなくてもいいだろ。確かに寝てないけどさ……だからこそ直射日光は目の毒な訳で」


 通話口の向こうから大きなため息が聞こえる。


「どうでも良いけど健康には気を付けなよ。あんたが死んだら私も多少は困っちゃうし、とりぽよ先生も一瞬くらい困るんじゃない? あの人は人気イラストレーターだからすぐに新しい仕事見つけそうだけどさ」


「俺まだ十代だし多分大丈夫だろ。この生活を続けてもまだあと十年は舞える」

「ふん。引きこもりクソニートがそんな舐めプをしてるとそのうち大怪我するんだから」


 少女の言葉を聞いた悠人は『クソニート』と言う言葉に反応して携帯を少し強く握った。

 確かに平日の七時に家で無駄話をしている悠人はクソニートと呼んでも差し支えが無いだろう。

 ──だが。

 ここで自分がクソニートだと認めるのは社会的によろしくない。何より自分で認めたら負けだ。


「待ってくれ。茶々先生。確かに俺は学校にも行かず朝からパソコンの前で小説を書いている引きこもりだよ。でも! ちゃんと稼ぎはあるし妹だって養っているんだ。だから俺は宣言しよう! 俺は稼ぐクソニートだと!」


「うるさい。学校に行け」


「そんな事言うけど茶々先生も学生じゃないのか? そうじゃなくても確実に一日中家にいるよな? 俺の小説の漫画化が決定して数日後には一緒に作業通話してたし」


 電話口の向こうから息の詰まった様な声が聞こえる。


「うっ……わ、私は別に良いのよ。うちの学校テストで良い点取れば進級できるし」


「偶然だな。ウチの学校も同じシステムだ。故に俺はニートじゃない」

「はいはい。分かったわよ。そこまで否定しなくても分かってる。それより二階の窓閉めるんじゃないの?」


 と、その声でなぜ自分がわざわざ部屋から出たか思い出した。


「そうだった……はぁ。日光に当たりたくないなぁ」

「家から出ない者の宿命よね。この間久しぶりに家から出たら太陽が眩しくてサングラス、マスクそしてフードを頭にかぶると言う最強装備で家から出た」

「不審者だな」


「うん。職質されたし、平日だったから学校休んでるのばれて面倒かった」


 通話口の向こうの茶々先生のだるそうなため息の声が聞こえてきた。


「確かに平日に学生が街を歩いていると高確率で職質されるから俺も何か事情が無い限り平日に家から出ることはないな」


「へぇ。伊刈先生って外に出ることあるんだ。家から出るだけでアウトドアとか言う頭のおかしい発言をしてるのに」


 茶々先生が少し驚いた声をあげる。


「待て、アウトドアとはアウトドア・アクティビティの略で特に屋外での活動を指す総称だろ。つまり普段から外に出ない人にとってはちょっとした買い物ですら屋外での活動になるんだと俺は思うんだ」


「ふん。それで?」

「つまり一般人が釣りとかキャンプとかするような感覚なら俺も外に外出するって事だよ」

「……別にそう言う考え方は自由にしてくれて良いんだけど、その狂った価値観をあんたの小説内で語らないでよ? 小説にそんな事書いたら駄目だからね」

「はいはい。分かってますよっと」


 悠人は眠そうに大あくびをしながら適当にそう返事をする。


「ねぇねぇ。なんなら今度本当のアウトドアしようよ」

「ん? ネット上で? 釣りゲーのオンラインとか?」


 全く脳内に外に出ると言う選択肢が無い悠人の脳裏に過ぎったのはオンライン釣りゲーの存在だった。


「違う。リアルでオフ会。紬ちゃんも連れてきなよ。あの子も学校に行ってないでしょ? 暇じゃん」

「まぁ紬は頭が良いから学校には行かないし毎日ゲーム三昧だな」

「でしょ。じゃあ行こうよ。私の漫画に一区切り付いたらさ」


 その話に少し悠人は心が弾む。


「確かに楽しそうではあるけど、茶々先生どこに住んでるんだ? 遠かったら無理じゃないか?」

「千葉だけど伊刈先生はどこに住んでるの?」

「俺も千葉だな……じゃあオフ会できるのか……って言ってもアウトドアって何するんだ?」


「そうだねー。キャンプ……は面倒いから嫌だしスキーは今春だし……釣りは嫌だし、海水浴は日焼けするから嫌だし……ねぇ私達ってアウトドアに向いてないよね?」


 いつくか例を上げた茶々先生は浮かんでくる活動の全てを真っ向からぶった切った。



100%趣味で書きます。投稿頻度は多分遅いです。

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