長いタイトルには飽きたと思いましたので
「編集さん編集さん」
人の少ないカフェとは一体どうやって営業しているのか。このカフェに呼ばれる度に思います。
窓際のいつも通りの席。私が担当している作家先生は私が店の扉を開くなり、ニコニコと手招きして来るのです。
「で、先生。次の作品のタイトルについてですが」
「ええ、実はそれについてなんですけど、最近多いでしょ、長いタイトル」
まぁ確かに多い。多いが、それが流行りというものだし、実際調査でも読まれてるのはそういうタイトルの作品なのだ。
「その言い方は長いタイトルが嫌って事ですか」
「さすが編集さん! 私の編集ですね!」
はぁ…深くため息を吐く。
この変わり者の先生、締め切りは守るが我が儘で無駄に頑固なところがあるからクセものだ。納得するまで曲げないのだろうこれからされる提案も。
「長いタイトル…もはやあらすじがタイトルなの、わかりやすいところは私好きですけど、読むの面倒じゃ無いですか?」
「小説読む奴がそんなこと気にしますかね」
「うぅ……!! 一理ある…」
作家先生はあーとかうーとか唸り、声を潜めて周りを警戒しながら話し始めた。
人少ないし、そもそも人に聞かれて困る話はしてないんだからそんな事しなくて良いじゃん…とは一応口に出さないが。
「私の作品もほら、タイトル長いでしょ…? ネットとかで表示される時に、タイトルの最後が表示されないの…めちゃくちゃ嫌なんです!」
「はぁ……それで、どうするんです? 四字熟語とかにするんですか?」
「いえ。それも割とありふれてますし。もっと削ってみようかなって」
そう言って先生は懐から一枚の紙を取り出した。そこには大きく一文字のひらがなが……
「え?」
「一文字でいきます」
「いやだから……え?」
先生はまるでわかっていないな、とでも言うように大げさに肩を落とし、私の前でちっちっちと人差し指を振って見せた。
めっちゃムカつくなコイツ。
「タイトルで内容がわかるのもいいですが、この話ってどんな話なんだろって想像するのって楽しいじゃないですか。一文字だとね、それが最大限引き出されると思うんですよ」
「いや、長いタイトルだってそうでしょ。現に今は異世界転生転移が流行りですけど、どれも手を変え品を変えで多種多様じゃないですか。同じ設定でも全然違う作品ありますし」
「あとね、とっておきの理由があるんですけど編集さん」
あっコイツ話聞いてないな、と思うも何も言わない。私は大人なのだ。
「長いタイトルにはもう飽きました!」
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