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すずめとみやこびと

作者: きむら

むかしむかし、あるところに

傷ついた雀がいました。


それを見つけたおじいさんとおばあさんが

傷を手当てしようと、連れ帰ることにしました。



雀は、おばあさんの手に揺られながら

たどり着いた家を見て、驚きます。


おじいさんたちの家はボロボロで

今にも崩れそうでした。


他に家はありますが、誰も住んでいないようで

おじいさんたちだけが住んでいるようでした。


よく見ると、おじいさんたちの

着る物はツギハギだらけです。


「雀や雀。少ないが、これを食べなさい」


おじいさんたちから差し出されたのは

欠けたお皿一枚に、わずかばかりのお米がありました。


腹を空かせていた雀は

むしゃむしゃとお米にありつきます。


おじいさんたちはその様子を

嬉しそうに眺めています。

どうやら、おじいさんたちの分だったようで

他に食べる物もそう無い様でした。


雀は何だか申し訳ない気持ちでいっぱいでした。


* * * * *


おじいさんたちが一生懸命に

看病してくれたおかげで

雀は元気になりました。


「助けてくださり、ありがとうございます。

 何か、お礼をさせてください」


雀はおじいさんたちの前にして

改めてそう話します。


しかしおじいさんたちは顔を見合わせ

お礼されるほどではない、と答えます。


それでは申し訳ない、と

雀が言うので、おじいさんたちは

「代わりに誰かを助けなさい」と伝えます。


真面目な雀は分かりました、と言って

おじいさんたちの元を飛び立ちました。


* * * * *


雀は都へたどり着きました。


雀はおじいさんたちの言葉を思い出します。

誰かを助けてやりなさい、と。


たくさんの人がいるところであれば

助ける人がいるに違いない、と

雀は思ったからです。



都はおじいさんたちの家よりも

大きくて立派な家が建ち並び

人々の服装は、きれいで新しいものばかりです。


雀は何よりも、人々が笑っていることに驚きます。

誰もが互いに話しながら、楽しんでいるようです。


都は巨大な壁に囲われています。

その壁の外には、住む家や衣服がボロボロで

まるでおじいさんたちのような人たちが

そこに居ました。


そんな都の内外の違いに圧倒されていると

そこに住む雀たちと出会いました。


雀は尋ねます。


「ここに来る前、おじいさんたちに助けられた。

 誰かを助けなさいと言われて、ここまでたどり着いた。

 それがどういうことか、分かる雀は居ないか?」


すると都の雀の一匹が答えます。


「それなら、私たちと一緒に神様の使いになればいい」


都の雀たちは言います。

この世にいる人々を、天に住む神様の元へ

送り届けることが、誰かを助けることになる、と。


* * * * *


雀たちは、人々について話します。


彼らいわく、この世の中には

裕福なものと貧しいもの

のふたついるそうです。


貧しいものは、いつも自分たち雀がくると

ぱらぱらと米粒を地にまいてくれます。


それが着るものや住むところが

ボロボロであるほど、間違いないと言います。


また、貧しいものは身なりが良くありませんが

誰もが心優しい者ばかりです。

何より都の外にいるから分かるだろうと言います。



一方、裕福なものは

雀を見つけると、大きな声を出したり

手や棒で追い払ったりと

あまり雀たちを良く思っていないようです。


身なりがきっちりしていて、立派な家に住んでいる。

どんなに着飾っても、心優しくない者ばかり。

一目見ればわかる、と都に住む雀たちが言います。



そうして貧しいものたちがぐったりした後、

彼らを天に昇らせるように、と神様から教えられたそうです。


代わりに、裕福なものたちは案内などしないし

天へと昇らせないようにする、といいます。


雀はこれを聞いて、そうすることにしました。


* * * * *


雀はしばらく都に居ました。

教えてもらった手伝いは、しばらく無いらしいのです。


それまで都を見てはどうか、と勧められました。

雀は都の人々を眺めることにしました。



ある時雀は飛び疲れ、また空腹だったので

近くの家に降り立ち、休んでいました。


よく見ると、そこは裕福な者たちが住む屋敷でした。


「しまった。ここは裕福なものの家だ。

 大きな声や棒なんかで追い払う、と

 言っていたから、すぐに離れなければ……」


しかし雀は疲れていて、すぐに飛び立てません。

仕方なく雀は、木の枝に隠れるようにします。



その時、家の中から一人の人間が現れました。


その人間は、身なりがしっかりしています。

どうやら都の雀たちが教えてくれた

裕福なものに違いありません。


しかし、そのものの顔ですが

なんだか浮かない様子です。


雀には、貧しいものと同じような顔に見えたのです。


雀は急いで逃げようとしますが

隠れた木の枝に邪魔され飛ぼうとするも

ガサガサと大きな音を立ててしまいます。


枝にぶつかり、そのまま地面に落ちてしまいます。

目の前には、裕福なものが居ます。


「しまった! これは追い払われるかもしれない!」


慌てた雀は、バタバタと翼を羽ばたかせて

急いで飛び立とうとします。



しかしその様子を見た裕福なものは

家に引っ込んでしまいます。


すぐに戻ってきた裕福なものは

一枚の小さなお皿を、大事そうに持ってきたのです。


そこには、わずかですがお米が入っていました。


裕福なものは、お米の入ったお皿を地面に置き

雀に差し出します。


「どうぞ」と言われている気がした雀は

おそるおそるお皿の方へと進みます。


都の雀たちから聞いた話とは違い、戸惑いましたが

雀はそのお米を、ひとつひとつ食べます。


雀は内心警戒しますが、裕福なものは雀に対して

大きな声を出したり、棒や手で追い払ったりしません。

むしろ雀の姿を、楽しそうに眺めていたのです。


「雀や。私の言葉が分からないだろうが、聞いておくれ。


 私はもうじき死ぬ。はやり病にかかってしまった。

 ゆえに、身内はみな、そんな私をここへ取り残して

 そそくさと、どこかへ出て行ってしまった。


 遠くにいる母上に、何の孝行も出来ておらん。

 小さいながら官職についたものの

 これでは何の孝行にもならん。


 それどころか、誰かを助けるなんて

 ひとつも出来やしなかった。


 何の孝行が出来ない私を

 神様はお救いしないだろう。


 ……せめて何も知らずに

 こうして訪ねてきたお前に

 残された最後の米を与えてやること。

 それがいま私に出来る精いっぱいだ。


 ……すまない。分かるハズが無いだろう」


そう言って、裕福なものは

とぼとぼと家へと引っ込んでしまいます。


雀はこの言葉を聞き

どうしてそんなことを言うのか

分かりませんでした。


裕福なものがしてくれたこと

間違いなく神様の元へたどり着けるほどのことです。


雀は思います。

自分は、この人を神様の元へと送り届けねばならない。

お米を与えてくれたことは、紛れもないことです。


* * * * *


――やがて、雀に米を差し出した裕福なものは

家の中、自身の寝床でぐったりします。


その者が天へ昇るとき、都の雀たちに阻まれてしまいます。


「裕福なものだ! 神様の元へたどり着かせるな!」


雀たちに阻まれた裕福なものは

元の寝床に戻ってしまいます。


自身の身体に戻ることが出来ず

うろうろするしかありません。



そんなとき

雀が裕福な者の元へとやってきます。


裕福なものの裾を引っ張り

どこかへと案内していきます。


それは神様の元へ続く道です。

ひっそりと雀は、都の雀たちから聞き出して

裕福なものを連れてきたのです。


しかも都の雀たちも

あまり使わない道ですので

他の雀一匹いません。


雀は道半ばまで案内します。

そこからは彼らが自らの足で向かう

と決まっているからです。


裕福なものを見送った雀は、都へと戻ります。



しかし戻ってきた雀に、都の雀たちは怒ります。


「あいつは裕福なものだ! 話を聞いていたか!

 神様の元へ案内するのは、貧しいものだけだ!

 裕福なものを案内したのは、お前が初めてだ!

 お前など仲間ではない! 出ていけ!」


どうやら雀のしたことは、都の雀たちに

知られていたようでした。


都の雀たちから猛然と怒られた雀は

身体中つつかれ、大けがを負います。


雀は困惑し、命からがら都を出ていきました。


* * * * *


「(どうして怒られたんだろう?

 お米を与えてくれた、追い払わずにいてくれた人を

 神様の元へ、送り届けるはずなのに……)」


自然とおじいさんたちの元へと

雀は飛んでいきました。


おじいさんたちに、都でのことを伝えます。

するとおじいさんたちは、雀にこう言います。


「お前が良いと思ったからそうしたのだろう?」


「誰かを助けるとは、姿形や身なりなど問わず

 相手を思いやることができるということだ」


雀はハッと気づきます。

ようやくおじいさんたちの言葉を

理解できたからです。


雀は涙を流して

おじいさんたちに感謝しました。


* * * * *


その後、都の雀たちから受けた深い傷のため

雀はその命を終えてしまいます。



雀が天へと昇るとき、神様へ続く道の入口に

あの裕福な者が待っていてくれていました。


裕福な者は雀に頭を下げて

ついてくるように促します。


「あの時、ここまで案内してくれてありがとう。

 名もない雀や。今度は私が案内しよう」


雀は裕福なものに連れられて

共に天へと昇りました。



おわり


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


評価・感想いただけたら幸いです。


他にも数本、投稿させていただいてますので


よければご覧いただけると、作者は喜びます。

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