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74 次なる目的地

 その羽根は透き通っていた。

 比喩なんかではなく、本当に羽根の羽弁にかけて奥がより透けて行っている。

 全体はトルマリンやアクアマリンを思わせる鮮やかな水色。

 その一枚に、民衆が屈するような力強さというか、尊さを感じる。

 しかし、鳩羅が言ったこと、彼が持っていること、何も理解が追い付かないんだけども。


「雨燕?」

「俺は一応ボロボロの身体でカゲハル達追っても戦力にはなら無そうだったから、ひとまず戻ろうとしたのよ。そしたら急に目の前にあの人らが現れて、喉元に刀突き付けられるわ、何故いるのかとか根掘り葉掘り聞かれるわ、散々だったんだわ」


 どういう事だ?

 転移してきたのはあの村が初めじゃないのか。

 一度来た時がたまたま鳩羅の下で、そこから村に?

 っておい。


「鳩羅、お前どこまで話したんだ?」

「ん? いや、俺はただ穴に落ちてきただけでって怯えながら言ったさ。別にそれ以上のこと何も言ってないぜ? あんな奴に俺がまともな会話できると思うかぁ?」


 何となく腹が立ったが、立派だとは思う。

 多分、半分本当で、半分は嘘。

 鳩羅は相手が間違いなく俺の敵対勢力だと悟り、すかさず演技に入った。

 彼自身が感じる恐怖を味方につけ、特に疑われること無く事なきを得つつ、時の流れに身を任せることが出来た。

 多分洗いざらい吐いた場合、あの飛空艇を含む地下諸共俺は消されていたことだろう。

 それをするだけの実力と冷徹があれには備わっていたし、それだけにこれはファインプレーだ。


「で、あいつらが空中に出た異空間みたいなところに入って消えていく途中で、雨燕の方が落としていったんだよ」


 青い羽。

 動物由来ではないとも考えたが、その線は低い気もする。

 何でもありなこの世界で、青い鳥なんて珍しくもない。

 この輝きは異常だから製造品も考えうるが、伝説の鳥みたいな超浪漫なものかもしれない。

 正直胸躍る気持ち半分、世界線の事を思えば不気味さ半分というところ。

 まさに鳩羅みたいな状態。

 笑えねー。


「魔物が寄るでもなく、ただ綺麗な羽……ふむ、持っておくだけで罰は当たるまい」


 チーガフ爺さんも食い入るように眺めた後、報酬の一つとしてしまうことを勧めた。

 これが何なのか、何かに使うことができるかは誰にも分からないが、今後何かしら考古学者や有識者が居ればそこを頼りたい。

 最悪本人に聞くか……なんてそんな機会は一度と訪れてほしくは無いが。


 それと、他のワダの置き土産については、そもそも施設自体崩落に飲み込まれてしまい探りようが無いという理由から、断念。

 家屋内に設置されていた設備や村人が持っていた情報など、使えそうなものはいくつか拝借した。


「あれ? そういやみつりちゃん達は?」


 辺りを見渡した後そう尋ねた鳩羅に答える。


「暴飲の中で全員匿ってる。みつりはそもそもワダの攻撃を食らわせたくなくて、半ば奥の手程度に隠していたんだけど、あの二人に存在を知られなかったのは幸運だった」


 ミレメルとギェリヴは差はあれど怪我が酷かったが、どちらも回復水やミレメル自身の魔法等で命を繋いでいる感じ。

 ジョークも包帯を巻いたりと手を貸してくれている。

 本当に自分の危機感知が甘いというか、あれに気づかないというのはどうなのか。

 実際その場にいても、見てから死にそうになるほど気配を消すのが上手だから今悔いても仕方ないのだが。


「ま、メンバー全員無事で何よりだよねほんと……」

「ああ、生きた心地がしなかった」


 こうしてバルパドルの幹部ワダが文字通り消え、世界の危機が人知れず減った。

 胸をなでおろし、次の目的地を相談する俺たちを他所に、世界は大きくうねって動いていく。

 バビリア洞窟、ラルシア王国、遺聖堂、ロンの村と進み、俺達は次訪れる地を決定。

 川をいくつも超え、進んだ先のその場所は、水と古代兵器を象徴する水工都市「ヴァ―トゥム」。

 世界でも軍事力に長けた国の中枢だとか。

 古代兵器と言うくらいだし、世界線やオーナメンタルなんかについて少しでも関わりがある物や人に会えそうと淡い期待を持ちつつ、歩みを進める。




 □□□




 水工都市ヴァ―トゥムの中でも最高権力を持つ軍部「ヴァ―トゥム盾衛団」の駐屯地。

 その司令部のある部屋に向かう、上等兵の青年二人がいた。


「はぁ、緊張する。今から会いに行くのってほんとにここのトップ、元帥だよな?」

「だからそうだっつってんじゃん。俺たちが平気な顔して会えるような御人じゃないから、礼儀には特に注意しないと駄目だぞ。というかただの近況報告なんだからそんな緊張しなくてもいいんだけど」

「いやだってさ、あの人があの地位についてから、訓練でしごかれた隊員が九割逃げ出しただの、大将三人がかりで格闘試合しても圧勝しただの、人じゃないエピソードばかり聞くんだぞ」


 完全に及び腰になっている一人をもう一人がなだめている状況。

 事実、今のような噂がいくつも流れるほど、その存在は大きい。

 雲の上のような人に対し、ただの上等兵。

 真偽は確かめようがない。

 二人は元帥のいる執務室の戸を前に唾を飲む。

 厳格な焦げ茶の木の素材に加え、金で枠や動物が彫られた装飾も凝っているため、増して大きく見えるその戸の奥からは物音ひとつしない。

 防音がしっかりしているのはあるだろうが、元々話しているところをあまり見ないため、無口なのも原因と思われる。

 二人は目を合わせ、決意を固めてノックする。


「クレマチス元帥殿、失礼します。今朝の報告に参りました」


 戸を伝って音がこちらには響いたように大きく聞こえる。

 だが、対して中からは一切の音がしない。

 不安になり、弱気な青年がもう一度戸を叩こうとしたその時。

 内から勢いよく戸が開き、あわや顔面を強打しようかと言うところで避けて難を逃れた。

 中からは長髪黒髪で前髪が切り揃えられたいわゆる「ぱっつん」スタイルの端麗な女性が顔を出した。


「どうぞお入りください」


 無表情も良い所。

 石像かとさえ思える冷ややかな顔と態度が、より青年達の身を固くさせる。


(ルースレス軍事参議官っ! 元帥の忠実なる補佐……こぇぇ)


 顔に出ていたのか青年は相方に肘で突かれて我にかえる。

 ルースレスに導かれるままに部屋の奥へと進むと、そこにはデスクと誰も居ない椅子が置かれていた。

 いや、居ないというよりは、こちらと反対を向いていたかららしい。


「リディ元帥、報告が」

「あぁ、君たちか」


 そう麗しい声が聞こえたと思ったと同時に、椅子が回転する。

 背を大きくもたれていた姿勢から、机に前のめりに身を乗り出したその女性は、服も含めて白く軍帽を深々と被っており、その眼光は鋭い。

 元帥リディ=クレマチス。

 この都市の最高権力者に次ぐ上、実力ではトップに君臨する。

 彼女に相対した敵はみな帰らず牢へ放り込まれた。

 そんな彼女が両肘をつき手を組み、青年たちの言葉を静かに待つ。


「が、がが」

「何をしているのですか」

「……ええと、落ち着いて?」


 壊れたロボのようになる青年に対し、目が怖い参議官と優しく言葉をかける元帥。

 咳ばらいをし、改めて上等兵は報告を始める。

 昨夜起きた市内外の事件事故とその推移、解決数。

 各部隊の訓練内容や警備巡回路とその進捗。

 戦闘機の整備状況、修理が必要な点、新しく仕入れた機器の内容とその支出。

 今期の国から降りた収入や戦利品とその分配についてなどなど。

 挙げればきりのない内容がある程度まとめて伝えられて行く。

 内容ごとに頷くクレマチスとルースレス。

 特に疑問点は内容で平穏と言ったところ。

 だが、ある時を境に内容がおかしくなる。


「ええと、あとは南方のラルシア王国にて、魔王フローネ=ロムペンダと思われる人物や多くの魔物との大規模な戦闘があったそうで、国が動く前に複数名の者によってそれらが無力化されたと」

「……無力化?」

「というよりもいくつかは姿が消え痕跡が辿れていないようです」


 魔王に何か問題があったというのは大きな衝撃がある。

 流石に目つきが変わった元帥と参議官を他所に、話を続ける。


「その後遺聖堂にて見られた崩落、以前もお伝えしたラルシア王国の更に南西に位置するバビリア洞窟での崩落といくつかの旅団が聞いたという奇声など、各地で最近妙な動きが見られています」


 口に手を当て、一点を見つめるクレマチスは、ふと。


「……何か匂う」


 そう呟いた。


「この都市も私がいる限り危機は阻止するが、それは決して安全というわけではない。怪しい動きがあれば、例え勘違いでも探りを入れろ。謝罪ははっきりわかった後に存分にくれてやればいい」

「は、はい。承知しました。……それでは以上が報告となりますので私達はこれで」

「あぁ。ご苦労。訓練は怠らず、休息を十分に取ってくれ」

「はいっ! 忠告ありがとうございます!」


 そう言い残し、扉をそっと閉めて去る二人。

 ルースレスは元帥の方を振り返り。


「同一犯、と言うのは野暮でしょうか」

「いいや、いい線じゃないかぁ? 私もそう感じた。バビリア洞窟、ラルシア王国、遺聖堂、そして私の耳には更に北の村落にも大きな動きがあったと噂が来ている。波が徐々にこちらへと近づいている。意図的にしろ、偶然にしろ、明らかに歩みを感じるんだよね」


 急に椅子に体重をあずけ、口調も増して穏やかになっているクレマチス。

 その態度に吐息を軽く漏らした右腕たる彼女が忠言。


「毎度言っていますが、素が出すぎでは?」

「いいじゃないか、私達の仲なんだしさ」


 さっぱりしているというか、公私混同が無い器用な性格。

 ルースレスは文句は言いながらも、その様子を嫌に思っているわけではない。


「ルーも探っておいてね」

「えぇ。……ってだからそういう所が」

「なんか言った?」

「いえなんでも」


 ルースレスは濁しつつ、元帥のために新しく紅茶を入れる。

 軽く礼を言いそれを堪能し始めるクレマチス元帥は机の背後にある窓の側に立つ。


(……その進路にて目撃情報のあった白髪の少女。魔法がかかっていた足は不自由に思われた、か)


 伝手からの貴重な情報に乗っていたある人物。

 記憶と触れ合う彼女に、引っかかるものを感じたクレマチスは、一つ紅茶をすする。


「空似だと良いが」


 彼女はただ祈る。

 平和を。


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