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71 飛行船

 乾いた空気。

 誰も寄せ付けないという威圧感さえ感じる。

 魔力で形作った足がひたひたと鳴り、その地面の冷たさは己で知覚できない。

 それでも、この地響きだけは、何の間違いも無くその危険を知らせる。

 リューネルを越え、いよいよワダが居そうな場所へ。

 魔物が幾つも襲ってくるが、流石に構っていられない。

 というか完全に進む方向が逆で、衝突している感じだけど。


「うっとおしいけど、あくまであいつらは逃げてるだけだな……」

「都合がいい。意思のない魔獣レベルならむしろ厄介だった。……そして、そろそろ」


 開けた場所に出たが、まだ廊下という感じがする。

 そして、そこに終止符を打つように大きく堅牢そうな扉。

 もはや門と言うべきか。


「さて、結構堅そうやけど……」

「手、掴んで」

「え? ああ」


 ジョークはいくらか察した様子。

 二人で握手し、俺が引っ張る様に大扉に向かって直進。

 慌てる奴を他所に景色が一変する。

 顔を引きつらせているジョークをひっぱたき、また向き直す。


「いてて。いや、普通鍵とかさぁ」

「脱出ゲームじゃないんだ。あえて言えばRTAだよ」


 リアルタイムアタック。

 ゲームのクリア速度を競うものだが、この夢現でも要求されるとは思わなかった二人。

 何せ、目の前で、天井が崩壊し、元の世界の飛行機と遜色ない飛行船が垂直に上昇を始めていたからだ。

 真霊化で門を抜けて正解だった。

 えっちらおっちら鍵なんて探していたら、それこそ手遅れだ。

 飛行船は楕円球の上に操作室らしきものが乗っているような構造で、地球のそれとはちょっと形が違う。

 そして、その窓には大きな人影が。


「ワダッ!」


 駄目だ。

 俺の声は元より、うるさすぎて聞こえてもないらしい。

 だが、一発撃てば乗っているであろう危険物が動きかねない。

 どうしたものか。


「カゲハルっ。あっち見ろ! 階段だ!」


 そこらのビルよりも天井が高いこの空間に唯一ポツンと隅にそびえる階段が見えた。

 飛べるけど、足場があるのはありがたい。

 蹴るだけで浮遊による魔力消費が抑えられるからね。

 それに、お陰様で飛び乗れそうだ。


「行こう。俺はあれに乗るけど、ジョークは上で村の安全確認頼めるか?」

「おうよ、任せなカゲハル。誰一人死なせへんでぇ」


 別に天井……上から見れば地面だが、それが崩れてんだから無事かも怪しいけど。

 まぁ、正直助けられるなら助けたいだけで、流石に限度ってものがあるし。

 全員に気を配ってはいられない。

 急ぐだけだ。

 二人で螺旋状になっている階段を飛び移っていく。

 途中で分かれて俺は気球の側面にへばりつく。

 ジョークは階段の終わりにあった戸を開けて進んで行ったが、恐らくあの村のどこかに通じているんだろう。


「……さて、どうしたものか。振ってきた瓦礫を弾き飛ばすくらい結構頑丈な作りっぽいし」


 とりあえず、と俺は浮遊しつつ、ゆっくりと上昇する船の側面を移動。

 魔力障壁のような壁があり、真霊化で通れない。

 俺らみたいな魔物用に対策されているようだが、ちょうどそれがない窓のようなものを見つけた。


「お邪魔しまぁす」


 そっとすり抜けると、中は案外シンプルだった。

 中にあからさまな装置がある以外は物資やパイプが通っているだけ。

 だが、これはあくまで船の一室だろう。

 こんなのが幾つもあると考えると、背筋が改めて凍る。

 装置にはでかでかと核爆弾に似たマークが。


「うーん。言語はやっぱ読めねぇ。せっかくいい機会だしに聞いてみるか」


 言語を読めない内は、某有名インターネット関連企業みたいに、翻訳。

 毎度詔に多くの面から助けられているが、こればっかりは覚えたい。

 この世界に来て、逆に勉強が恋しくなる。

 別に嫌いではなかったが故に、より一層このドタバタが憂鬱にもなってくる。

 奴は倒すが、人として失いたく無い平穏を好む感覚は捨てたくない。

 そんなこんなで翻訳完了。


【製品名:KDヴィルス 効能:植物―立枯病、動物―腐敗病】


 細かいことは書いていなかった。

 てっきり解毒法やら装置の停止法なんかが分かると思ったが的外れ。

 ただ、恐ろしいのはやっぱり病名だろう。

 読んで字のごとく植物は枯れ、動物は多分ゾンビになるか、ミイラになる。

 たまったものではない。

 こんなバイオハザードされたってねぇ……


「村の襲撃、兵器、拷問、その全て。俺の旅を邪魔した報いは必ず受けさせる」


 我ながら八つ当たりだけど、いいよね?

 だって世界終わるかもしれないし。

 そうこうしていると窓の外が明るい。

 どうやら地上に出たらしい。

 急いで俺は次々と戸を開け放ちつつ、上へ向かう。


「誰だッ!……ってなんで扉が勝手に開いたんだ?」

「それっ」

「ふごっ!?」


 危ない。

 やはり見張りがあちらこちらにいる。

 障壁で感知も所々届きにくいから、殆ど視覚と勘頼り。

 と俺が汗を拭う……仕草をすると、角を曲がってきた見張りの人間が声を漏らして立ち去った。


「あ」


 警報が鳴り響く。

 まずい。

 バレてしまった。

 とりあえずは真霊化で消え去り、先ほどの人間を気絶させる。

 そのまま胃に仕舞って、上へと走った。

 そして、赤く光る船内で、遂に操作室と思しき舵マークの付いた部屋へ。

 半開きの戸をそっと開けると、戸が勢いよく後ろへ飛んでいった。


(霊化してなきゃ俺ごと飛んでいったな……)


 死なないだろうけど、飛んでいった戸は、くの字に折れ曲がっていた。


「誰かと思えば、噂の野郎か。いや、嬢ちゃんと呼ぶべきかな?」

「野郎で結構。さ、いったん船止めてもらえるか?」

「ふんっ。もう地上に出たんだ。目的地はあるが、ボタン一つでとりあえずはこの大陸が終わるんだぜ?」


 人質ならぬ、地質?

 字だと「ちしつ」と呼びそうでややこしいわ。

 って言ってる場合でもない。

 間違いなくミレメルやマギー、ギェリヴにジョーク、そしてみつり、皆射程圏内だ。

 人質であってる。


「……目的は?」

「兵器実験だが、ま、金も欲しいのは事実。魔王倒すのが趣味の化け物なんだろお前? なんなら何も邪魔してねえと思うが?」

「邪魔だよ。何? 俺そんな印象で通ってんだ? それに、どこから……」

「さあな。アングラな場所にゃ情報屋がわんさかいんだよ」


 納得できないことがまた増えたが、それはどうでもいい。

 のほほんとこの状況で操縦しているワダが、俺はただ許せない。


「隙があるように見えるが?」

「ふんっ。小僧の攻撃なんざ意味がねえんだよ」


 言葉と同時にワダの足元から黒い蛇が飛び出す。

 それが、半裸にマント風の服を着た筋骨隆々のその肉体に噛み付いた。

 だが、同時に金属音が鳴り響く。


「っ!」

「体はサイボーグ。そして、お前が噛んだことで、緊急装置作動、『KDヴィルス』……」


 俺は咄嗟に腕で顔を覆い、背を向けた。

 だが、目の前が真緑に染まる。

 そして、身体が震え出した。


「動物とはいえ、この兵器は核を侵食する。いくら実体ないお前も、これはきついんじゃねぇか?」


 咳き込む俺を他所に、嗤うあいつは機械の体で効かないのだろう。

 サイボーグなんて初めて見るのに、ちっともワクワクしない。

 だが、俺もやられてばかりじゃない。


「闇集の陣、『暴飲』……」


 辺り一帯の景色が一瞬で澄む。

 初めてワダの表情が曇った。

 そして、身体が徐々に崩れる俺は、いらない部位を切り離す。

 黒い靄はブクブクと泡立ち、再び元のサイズへ。

 俺の体は元通りになり、浸食もおさらば。


「ガハハハッ! さっすが、魔王倒しただけあんなぁ」

「改めて思った。お前もこいつも文字通り腐ってるわ」

「褒め言葉だっ!」


 怒りも通じない。

 こいつがチーガフ爺さんの今を形作った元凶。

 あからさまな悪人面だが、どこか策士という印象。

 油断できないし、真霊化が通じない障壁を持つこの船を見るに、この世界線の物じゃない気もする。


「さて、次は何をしてやろうか……ブッ!?」

「機械……つまり、この世界の法則「外皮」「生物的領域」がないってことは、体内の暗闇は、当然陰の判定だ。内側だと力の逃げ場ないし幾分壊しやすいだろ。こっちだって手札がないわけじゃない」


 ワダの体から無数の黒く太い荊棘が生え、本人の口から血ともオイルとも取れない液が垂れた。


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