表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/87

68 殺しの船

 水路は村の範疇を超えて、どこまでも広がっているようだった。

 明かりが一切なく、所々井戸で繋がっている個所は光が漏れているが、それ以外は視覚に頼れない。

 走り続けてある一点、そこでマンホールのような扉を発見した。


(……降りようか)


 カゲハルは「腕力」を用いて、片手で錆びた鉄の戸をこじ開けた。


『ギギギギギ』

「ミャァ!?」


 下は薄ら赤い。

 血やネオンと言うよりは炎に近い熱のある赤さだ。

 先からは鐘の鳴るような切れ味の良い音もする。


「うーん。ちょっと熱いけど、この体だし、まあ汗も出ないわけで。お前も問題なさそうだし、行こうか」

「ミャミャ」


 梯子はあるが、垂直に落下する。

 風を受けながら、背景は徐々に明度を上げる。


「ほっ……ん?」


 着地は静かに、しかし辺りは騒がしかった。

 見ると、中は水路とは比べ物にならないほど更に広かった。

 SF映画さながらのスチームパンク的工場が、辺り一面に広がる。

 パイプやコンベア、コンテナにメーターなど、明らかに文明色が強い。

 金属を溶かして何かを作っている様子もある。

 なるほど、赤みの正体は確かに熱だった。

 しかし、作っている者は体の小さな埃のような生物。

 腕が少し太く、足は虫のように細い。

 それとはまた別に、全身に肉がない者達がせっせとコンテナのような荷物を運んでいる。


「なんだあれ……。人体模型みたいな骸骨……スケルトンか?」


 せっせと作っては運び、作っては運び、奥の方は蒸気でもう見えない。

 ガコンと音がすると、天井から大きな瓶のようなものが降りてくる。

 中にはたっぷりと黒ずんだ赤い液体が。


(……血か)


 その液体はある透明なクラゲのような生物が吸い取って、解けた金属にスプレーのように吹きかけた。

 変に発光し、粘性を持ち、それを他の者が粉を入れて形成する。


(……うーん。ま、とりあえずは放置かな。厄介なのが来ても面倒だし。気配を消して、ワダを探そう)

(ミャォ)


 そのまま、高い足場を進む。

 薄暗い廊下を抜け、透化で抜けられる壁を抜け、身をひそめてやり過ごす。

 騒ぎにならない程度に職員を葬り、進んでいく。

 徐々に数ある部屋は研究室と言った風貌になって来た。

 そして、ふと、薄く開いた戸を見つける。

 二人はそっと中を覗いた。


「うーん。これも違う……設計図はどこやねんな」

(誰だ? 明らかにここの職員とは服が違う……)


 影となり、小物の陰を伝って、当人の背後に立つ。


『ガタッ』

「うぐおっ!?」

「動くな、脅すの下手だから、そっちが下手すりゃ怪我させちゃうかも」

「ぜ、全然気づけへんかった……」


 みつりは戸の位置で辺りを見張っている。

 その男はカゲハルに羽交い絞めにされ、全く動けずにいた。

 褐色の青年で、話し方に独特の訛りがある。


「まず聞きたい、ここはどういう場所だ」

「……あ、あんたここの人やないんか。なら、話少し通じるんと違うか?」


 一呼吸おいてから男は喋る。


「ここはバルパドルっちゅう組織の兵器開発支部。支部ったって、本部が企てちょる作戦の一つのほぼ中枢を担うような場所や。で、俺はここで開発されよる秘匿兵器の設計図探しに来てんねん」

「目的は?」

「その兵器は、俺にとっても世界にとってもまずヤバいの一言で済ませられるような奴やから、壊す、それが目的や」

「……お前の名前は?」

「それはそっちから先名乗って欲しいわ命かけてんのに」

「……カゲハル」

「オーケー気が合いそうやな、俺はジョークっつうもんや」

「冗談は名前だけ?」

「おっほぉ言ってくれんねえ。好きよそういう奴」


 恐らく世界線を越えた、そして、元地球の住人の可能性が高い。

 その常識観念と利害の一致、戦闘能力の点から、男を釈放した。


「はぁ、この解放は勝てるという自信かい?」

「別に。で、その兵器はどういうものなんだ?」


 カゲハルは部屋に付いているモニターを見つつ問う。

 蛍光的に光るその画面には、曲線の美しい飛行船が映っていた。


「ここは監視室の一つって感じやから、ついでにこれで話したる。これがその兵器。名前を『キルパドルMark1』。新兵器でこの大陸丸ごと一つを一日で崩壊させられるっつう触れ込みで裏社会じゃ専ら話題の渦中にいてはる。その具体的な効果は知られてへんけどな」


 曰くバルパドルと言う名も、「バル」が飲食店、「パドル」が小舟を表し、その組織的な名として定着、そこから殺しを意味する「キル」を加えてこの船に名付けたという小話まで。

 その話はさておき、カゲハルは不思議に思う。


「……血とか使ってたし、禁忌的なことかな……道中魔法陣的なのも無かったし、錬金術とも違うのかな。契約して悪魔呼び出すとか?」

「……なんかその発想、サブカルみたいやな」

「まぁ、実際そんな漫画とかから俺は知ったんだろうけど」

「……え?」

「あ、ジョークなんて言葉知ってるくらいだし、やっぱ地球……日本からかな?」

「……お前もなんか?」

「奇遇だねぇ。こんなに早く二人目の地球人に会えるとは」


 そういうと、彼は目頭を赤くし、膝から崩れ落ち、腰を落とす。

 初めての同郷らしく、彼の気の緩みが冗談でなくとも目で理解できた。

 相当嬉しいらしい。


「……信じられへんわ。マジか、お前日本人か。なんかこの世界の人の言葉が何となくわかるのに、お前の日本語はえらい鮮明に聞こえるもんやから……」

「てことは関西的な訛りかなそれは」

「いや、これはこんな喋りが好きやからや」


 そうして、みつりも交えて互いの身の上を少し話した。

 曰く彼は普通の会社員で、呑気に休日カフェで寛いでいたところ、強盗が現れて刺されたのだとか。

 何とも奇矯、エキセントリック。

 そのまま気が付けばスパイの養成所といった所で、スパルタな訓練に弱音を吐きつつも身を置き、今に至るそう。


「ま、魔物かぁ……しかも学生の身で。俺なら逆に怯えてもうて、飢餓で死んじまうかもしらんなぁ……偉いよ、カゲハルは」

「………」


 はっとし、少しうつむくカゲハル。

 しかしその面持ちは柔らかい。


「ん?」

「いや、なんでも。まぁお互い第二の人生落ち着くところに何とか落ち着いて……もいないけど、そろそろ行こうか。モタモタしてられない」

「せやな。そのお仲間も心配やしな」


 三人そろって部屋をそっと出る。

 青白い明かりがさり気なく照らす暗い廊下に、幾人か警備員がいる。

 全て異形。

 だが、辺りは光の粒子が少なく、全体がもはや陰と呼べる“暗み”を持っている。

 雨漏りのように上から幾つもの蛇が降りてきて、音もなく見える者の首を締め上げる。

 厳密には目の無い蛇のような形をした何か。

 口は存在し、睨んでいるというのが形式的に理解できる。

 それに対して無意味な悲鳴と嗚咽を上げて、散っていく。

 骨が折れたか、意識が飛んだか。

 いずれにせよ、使役者の胃の中に放り込まれていくという未来。


「……あら、なんかステルスゲーはカゲハル君の方が向いてるな?」

「バレちゃ負けだからね」


 技にも慣れたもので、もはや目で追わずとも位置が分かり、操れるようになってきた。

 もちろん独自に改良を重ねてはいる。

 中々新しく力をつけることが出来ないでいるのは、ステータス機能を改変してきたあの者の影響か。

 はたまた知恵の詔が強化統合しすぎたせいか。

 まだまだ宇宙の果てまで行く力が無い事を感じつつ、コリダーを進む


「……ちょっと待ってて」


 カゲハルは完全に透明となり、壁伝いに進む。

 戦闘時以外は壁を抜けると相手に効果てき面だが、ただの移動では壁や天井はただ隣の部屋を透視するくらいにしか役に立たない。

 それでもそこに無かったかのように消えたカゲハルにジョークは焦心する。

 そして急に目の前に再び出現した彼に、大の大人が腰を抜かして尻餅をつく。

 しかもそこに毛は鱗のみつりが居たのは不幸としか言いようがない。


(許せ……うちの可愛い愛猫の顔に免じて)


 そっと見つめつつ、カゲハルは悶えるジョークに話す。


「柱や壁が何個もあって、複雑に入り組んでるし、扉がなくて進み方が分からなかった。別に壁抜けて船探してもいいんだけど、居た敵は狩っておきたいから、効率重視で進路探しておいてくれない?」

「おっけい任せな。援護が必要な時は叫んでくれ」

「みつりはついてきて援護頼む」

「ミャアッ!」


 駆けだす三人。

 真霊化で気づかなかった時点で力の差が目に見えたため、圧倒的な速度に物を言わせてカゲハルはキックをかます。

 立っていた骸骨は粉砕され、見るも無残な大粒の粉になった。

 背後から降ってくるもう一体を、そのまた後ろから飛んで来たみつりのブレスで塵と化す。


「ひゅー。かっくいい~!」

「ミャァッ」


 我が子の成長を見るような感覚で褒めて撫でて。

 だが、敵は他にもいる。

 後ろから骸骨が更に二体襲ってくるのを、一人のシャドーは認識してはいたものの。

 気が付くと、骸骨の頭骨に綺麗な円形の穴が開いていた。


「ふーっ」


 当然その現象には音があった訳で。

 その音を出した張本人、ジョークは手に持った小型のピストルのようなものにそっと息を吹きかける。


「か、かっくいい~」

「どうも、叫び声と褒め言葉を間違えてもうたようやなぁ」

「ふふっ。伊達に鍛えられていないな」

「もっと褒めてもええんやで」

「片すから、早く探してくれ」

「つれねえなぁ」


 そう言い闇に消えたジョークを背に、カゲハルは骸骨に振り返る。

 ジャラジャラと音を立て、全ての骸骨が目に光を灯す。


「……ま、どこぞの亀と同じだとは思ったけどよ」


 顎を鳴らしながら、ただ無機質に近寄ってくる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ