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66 策謀見ゆ

「随分とっ。やってくれる」

「……?」


 カゲハルはギェリヴを避けつつ、玄関が粉砕された家を見やる。

 そこからはボロボロになった衣装を纏う、気性の荒そうな女性が。


「……ええと、うちの犯罪者がすいませんホント」

「おいおい冗談よしてくれこいつ敵だぜボス」

「……あ、そう……いやなんか話も聞かず突っ込んだのかと」


 女性が目を開閉させながら寸言する。


「え、そいつ人質も気にせず突っ込んで来たけど……」

「…………は?」

「い、いやッ!? だって人質取るような奴だから少なくとも敵だろ? ほ、ほら気配りだよ、捕まってる奴助けたろ!?」

「人質取られてるときは迂闊に相手に近寄るなァアアアアア!!」


 パァアンッッ――――


 ほっぺが二重に腫れあがったギェリヴ。

 敵の女は要領を得ない感じで、茫然としている。


「いでえええええッ!?」

「そしてお前もぉおおおおッ!!」

「ひっ!?」


 パァアンッッッ――――


「人質取んなぁアアアアアア!!」

「いだああああああああああ!?」


 ギェリヴを叩いた勢いのまま一回転して、女の頬も叩いた。

 存外どちらへの威力も高く。

 ギェリヴは納得いかないと頬をさすり、女に至っては数分前ののダメージもあり気絶。


「ほら、行くぞ。こうしてる合間にも敵は動き出す。相当派手にやったろうからな」

「ハァイ……」


 情けない声で返事する囚人の後ろから、三人と一匹がついてくる。

 カゲハルは女を、暴飲内に持っていた紐で縛った。


「すげえ光景……」

「で、カゲハル。村の人助ける? 井戸に行く?」

「もちのろん、人助けだ。チーガフさんとの約束に必要だ」


 そう言い、次々と家を回る。

 ギェリヴ、カゲハル、他四名に分かれて。

 大抵の家は皆が対処できる程度の魔物しか配置されておらず、住民の命は比例的に救われてゆく。


「………グガッ!?」

「ギタタタタタッ。そんなに人間の血を混ぜて何作ろうってんだァ? その考え読んでやる。その血で一杯やんだろ? 違うか?」


「ビビビ………ビィ!?」

「うわっこの人片腕がもがれてるッ!?」

「酷いっ……私のキュアルンでは損傷部の治療しかできないけど……」

「みつりちゃん! あっちにもまもの!」

「ミャアアアアアア!!」


「ナ、ナニヤツッ!?」

「その糸繰りしてる人、何日労働? 過労は労働基準法違反だ。断じて許さん」

「ジャマダテスルナッ!……グッ、ナンダコレ……ハリガササッテッ!?」

「光を遮る体を持ったことを後悔しろッ!」


 誰も彼も魔王討伐した集団に敵うはずもなく。

 この辺りに巣くう「中の上以下」程度では話にならない。

 一人は転生し神に喧嘩を売る者。

 一人は先祖の血ゆえ多くの技術を扱う者。

 一人は未曽有の天災囚人。

 一人はただのマジシャン。

 一人は魔力のダム。

 一匹は純粋にドラゴンと言うだけでは飽き足らない。


「地上、平和に制圧。人権はイクーアル……とも言えないなぁ」

「何人かは既に殺されてっぞ、ボス」

「だろうな。申し訳ないけど、俺の反応速度でもこの民家の全てをカバーするのは無理だった」


 ミレメルの傷を再生させるキュアルンも、蘇生には至らない。

 力量で勝ったとて、救えなければ後味が悪い。

 数が多いとて、叶わぬ現実に歯を折りそうになる。

 それどころか、気味の悪い策略も垣間見えた。


「血を基本集めてたね、どの家も」

「なんか鍋釜に混ぜてたぜぇ?」

「……魔女なん? 怖すぎっ」


 ワダが何を売ろうと不思議ではないと思っていた一行だが、その限度が想像を幾層か超えていることを認識し始める。


「うーん。負傷者が多い。ギェリヴとミレメルとマギーはここで負傷者の治療と護衛してくれ。残りで井戸の中行くぞ」


 カゲハルの指示、それが喝となり、皆活気よく返事をする。

 ミレメルは回復を続け、ギェリヴは暗くなりつつある周囲を走り回り、マギーはミレメルに沿いながら魔力の補給担当になった。

 カゲハル、鳩羅、みつりは井戸へと向かう。


「……みつり、影…暴飲の中に入っとく?」

「……みゅ」

「首横に振ってるんだけど、賢くない? お宅の猫。てか勢いで来たけど、俺行きたくないんだけど、そのあたりどういうつもりで連れてきて***」


 カゲハルの横でぶつぶつと囁く鳩羅を無視し、みつりは急に上を向いて吠える。

 すると途端、彼女の体がみるみると縮んでゆく。

 そして、なんと、あの巨躯に可愛らしい猫耳がついていた圧のある風貌が……


「こ、これは…」

「え?」


 なんと美少女に………なんてテンプレが通じると思ったか馬鹿め、と言わんばかりに。

 変身先は四角い物体「宝箱」。

 何の変哲もないが、どこかで見たような装飾である。


「み、みつりちゃん何を」

『ガバッ―――』

「うっわッ!?!?」

「ミミックか!」


 二人して子供のように驚いた。

 なんと、あの砂漠の地下の一戦で倒していた魔物に変身できるようになっていたのだ。

 中でも彼女はミミックがお気に入りらしい。

 ステータスを見ると、カゲハル自身も持っている「解析変化体」を取得していた。

 更に何と都合がいいのか、彼女自身の大きささえも変えることが出来るように。


「おお……頼もしいけど、怖い……」

「これはみつり本人の自己防衛にもなるな……えらいぞぉ」

「ガヴッ」


 ガチャっと金具の鳴る音、木のきしむ音が響く。

 風貌は全く前世の可愛げも捨て去っているが、これで怖いのはただその見た目だけではない。

 ミミックは元々、地球におけるその語源より名前が「擬態」を意味する魔物。

 決して宝箱は一例に過ぎない。

 ランプやナイフ、バケツに桶に壺、このアースに存在する大抵の人工物に擬態が可能。

 本来生まれたミミックは初めに擬態したものに常に成り続ける。

 しかし解析変化体においては種族を変身先に登録する性質から、事実上彼女はもはや常にかくれんぼができる状態になった訳で。

 生来の強度がミミックに備わっている時点で、遭遇した場合普通のミミックよりも厄介。


「よし、もう無敵だな。鳩羅、心配いらんなよかったな」

「俺弱いのに自己防衛能力低いんだって!」

「あはは……まぁ、何となく話し相手が欲しいだけなんだ。同郷の好で」


 鳩羅は必死であがくも、最後の言葉に息を詰まらせる。

 カゲハルにとって、日本出身・同郷というのはそれだけでもうステータスなのだ。

 その重みを少し理解した。


「……し、しゃあねえなぁ。お兄さんが可愛いこの世界の後輩のために一肌脱いであげますとも」

「ワァイセンパイカッコイイー」

「おいお前絶対寂しくないだろ」

「寂しいなんて一言も言ってないよ?」

「お前ぇえええ! 図ったな! わざと連れて来たな!?」


 軽く受け流して、カゲハルは確認ついでに井戸に石を投げ入れる。

 万一察知できない罠でもあると大変だ。


「さ、ガミガミ言ってないで入るぞ?」

「よし、俺は最後だ。後ろは任せろってやつさ……みつりちゃん先行きな」

「……みゃっ」


 小型化したキャドラーゴの容姿になったみつりが、井戸の縁で震える鳩羅に猛突進。

 鳩羅は奇声を上げながら、遥か先の見えない暗い奈落へと落ちていった。

 下で先に降りたカゲハルが受け止める音はしたが、大声がしない。


「し、死んでいる……」

「ミャァ……」


 鳩羅―――死す(気絶)。

 まあ、そんなことは置いておき。

 起きた鳩羅とみつり、カゲハル一行は先の見えない井戸を即席の松明で照らした。


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