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60 過去ノ礎

『ガチャッ』

「「「!?」」」


 地下に向かう前に、何か動く音がした。

 みつりは動いていなかったはず。

 それを刹那で思い、三人と一匹は反射反応。


「ア、あはははははははははははっはっはははっはは!!」

「な!?」


 一同は見た。

 強き一手に沈んだはずの顔が、みるみる元の艶を取り戻すその変容を。


「はぁぁ……楽しっ」

「テメェ、さっきは不意打ちしやがって」

「待てギェリヴ。……進むなそれ以上」

「賢い判断。流石は集団の頭ね」


 勘について上から目線な頌詞(しょうし)を残し、彼女は胸元を大きく開ける。

 咄嗟に幻は目を覆った。

 彼女の露わになったその皮膚に、青く光る立方体が埋め込まれていた。

 装飾はシンプルかつ古めかしいが、どこか歴史的な重みがある。


「……箱?」

「私たちはこれをキューヴと呼んでいる。この遺跡で取れたものだけど、主人を選んでその者を守ってくれるの」


 胸元にめり込んでいるそれ。

 そんな便利アイテムが一人の魔王の手に渡ってしまった現実。


「この遺跡は私でも知らないような過去に大きな物事を起こしたのでしょうね。今は乗っ取らせてもらっているけど、これが楽しいのなんの。罠も多いし、入ってきた冒険者皆殺しよ。最悪私が戦ってもまず死なない」

「本当に死なないか試したのか?」

「これは直感よ。わかるもの」

「そうか……」


 カゲハルは床を見つめる。


「どうやら、お前は勘違いしている」

「え。いやどういうことだよ、カゲハル」

「何かわかってんだな。ボス」


 屈み、床を拭う。

 そこには日本語で「ワナベル保管庫」と。


「俺はそれを知っている。『デスター』って奴が最近吐いた証言なんだが、そのキューヴ、どうやら俺達みたいなノミには到底制御できた代物じゃないらしい」

「……?」

「……それはテーマ『SF』の世界線の、ワナベルっていう「保管装置」だ。既にお前は、囚われている」

「……せかいせん?……わなべる?」


 デスターは元々、世界線を旅する異端な存在だった。

 その中で、彼も過去に同じものを見ていた。


『君にはこのワナベルを授けよう』

『こ、これは』

『……私の発明品だよ』

『うがッ!?』

『ある一定量の力を持つ者を特定し、その者に死が近づけば不定期に作動して回収、私のもとへ帰ってくる』


 授けた者、搾取された者の事はわからず、ワナベルについても詳しくは理解し難い。

 だが、まともな神経で使えるものではない。

 カゲハルは床の文字を見て、その証言から予測する。

 誰かが、裏の更に裏くらいで何かやっていると。


「こ、これがッ!? 嘘だッ」

「多分、一番強くなったところを根こそぎ奪う算段で作られたんだろうな。そいつの力とか質量がどこへ消えるのかはわからんけど」

「SFってそういうもんだっけ?」

「それを、誰かがここに持って来て、“厳重に守っていた”。俺たちまだ見てないけど、その罠も多分ワナベルに触らせないために置いてたんじゃない?」

「ギタタッ! 自分で罠にかかってやんの。俺より馬鹿っているもんだなぁボス」


 顔を赤くして笑うギェリヴ。

 対してカゲハルの言葉に、顔面蒼白になるヴィル。

 彼女は自分の胸元が急に寂しく感じる。

 その色を正にその立方体が表しているかのようで。


「この場所をどうやってお前は知ったんだ?」


 その問いに、彼女はふと、魔王「プロット=ユーズ」のすまし顔が浮かんだ。


「くッ」

「あ」

「こうなりゃこの猫も道連れだッ!」


 ヴィルは血走った眼で、伸ばした爪をドラゴンの喉に突き立てる。

 か細く鳴く猫を、カゲハルは至って真面目に見ていた。


「か、解除法をそのデ…何とかに聞け!」

「言ってなかったか? 死が近づけば、不定期に作動すると。鼓動が消えかけたのを俺聞いたような、どうだったかな」

「ヒッ―――」


 急にワナベルが光り出した。


「――――ッ――――ッゥッッ――――………」


 そして肉体があらぬ方向へ吸い込まれ、瓶に押し詰められるようなヴィルはその場から忽然と姿を消した。

 ワナベルと共に。

 明らかに、今度はもう取り返しがつかないほど確実に仕留めた。

 仕留められたというべきか。


「……お前らには言ったよな。オーナメンタルの事」

「ああ」

「そうだね」

「ただの物語で済むほど、この世界甘くない。覚悟が俺自身もっと必要だと常日頃感じている。だから肝に銘じておいてくれ。本当はこの旅から降りる方がまともなんだと」


 神に抗う、それが抽象ではなく、現実であり、この肉体がそれを成すビジョン。

 全く見えないが、見えないモノとももっと戦わなければならない。

 自分たちがこの世に生まれたこと自体シナリオ通り。

 魔物とか人とか、些末。


「……今は魔王すら救いたい気分だ。世界線が今の俺達を破壊するのを俺は食い止める。ギェリヴも楽しいからって、鳩羅も守ってもらえるからとはいえ、覚悟はしておいてくれ」

「そんなもん言われなくとも出来てるぜ。だがよ?……とりあえずはワナベルってやつもねえし、辛気臭いのもその戦いに向かねえ。今考えても仕方ねえし、さっさとあいつら追っかけてこっから出て、俺と遊んでくれや」


 ギェリヴは平常運転。

 だがそれが、かえってカゲハルの肩の荷を下ろす。


「……わかってる。今の俺じゃ何にもできない。そうだな、嫌だけど、地上に出たら相手するよギェリヴ」

「やりぃ」


 ガッツするギェリヴを放置し、幻が一言。


「……カゲハル。どうせ世界規模の話なら、どこにいても危険だからな? 俺もどうせ這ってでもついてくさ」

「あんがと。マジ心強いよ」


 三人は進む。

 みつりはというと。

 相当怯えていたから、どうにか安全な場所で心を休めてほしいと、暴食に収納―――




 □□□




「はぁ、はぁ、はっ……くッ」

「待てよぉ。この先にゃもっとキツいトラップがわんさかあるぜ?」

「寧ろここで糧になった方が互いに楽ってもんだよお」

「ギチチチチチチ」

「うっさい! べーだッ」


 ミレメル達はひたすら階を下っていた。

 フロアごとに数体魔物が住んでいたり、針や矢が飛んで来たり、火の粉が降ったりと多彩な場所だが、その道中の魔物が追って来ていて中々留まれない。

 魔王が自分たちの手に負えないと悟ったミレメルは、マギーの手を引き、気付けば足を動かしていた。

 魔力切れが一番不味いと考え倒していない魔物が、如何せん多くなってきた。

 マギーは腹が立ってきたのか、食って掛かろうとするので、静止して引っ張るだけで体力が持って行かれそうになる。


(何階あるの。長すぎる。引きこもり生活続けてた体力も、移動続きでもう……)


 ミレメルも、実はマギーも限界が近かった。

 遺跡の上で少しの休息をとったが、ほぼ不眠の状態。

 走れているのは魔力と根性が理由の大部分を占める。


「きゃっ」

『バタッ』


 ミレメルの足は流石に熱血でどうにかなるレベルではなかった。

 とうに限界は来ていたのだ。

 コントロールで操っていても、衝撃を防ぎきるには更なる保護、緩衝がいる。

 そこまで気を回すことはできず、顔を地面に強打し、舌に鉄の味が広がる。


「っ……おねえちゃん!?」

「いッ……は、早く行きなさいッ」

「やだよっ、おねえちゃんおいていけないよぉ……てきもいるよきっと!」


 ミレメルは迷ってしまった。

 思考力と共に、行動と通行許可も止められた。


「キャッチ!」

「うっ」


 口がハサミのように発達した「ジャミー」という蜘蛛の魔物が、倒れた彼女を上から捕らえる。

 刃先が地面に刺さり、いつ挟んでも彼女が真っ二つにされかねない。

 追い付いた異形が次々と包囲し、ついに足場も殆どなくなってしまった。


「……やだよぉ」

「嬢ちゃん、そう怖がるな。私たちはあなたのような美人を殺すだなんて真似はしない」

「グタグタ。ゴガア」

「どこがだ。得物や牙を見せつけておきながらよく言う」

「まぁまぁ。あまり口は利かない方がいい。うちの魔王様はそういう奴嫌いだからよ」


 魔王。

 そう、まだ脅威は依然残っている。

 それも、この現状を三乗しても足りない程大きな妖しい危機。

 暗く砂臭く、先人が散っていったその腐臭佇むフロア何層か。

 彼女なら階段を下りる感覚だろうか。


「……いや、大丈夫。彼が来てくれる」

「は? 彼?」

「あら、ご存じない? 魔王を倒した人の話」

「何を言い出すかと思えば、戯言(たわごと)戯言(ざれごと)。虚言。妄言」

「だがよ、聞いたんだが、そいつ、白髪の女と幼女、金髪の冴えないガキとヤバい男、連れてたらしいぜ」

「こやつらがそうであると?」


 どうやら相手は油断しているらしい。

 そして確認も雑。

 だからこそ生まれる隙がある。


「無い無い。あり得な―――」

「マギーッ!」

「あいあいさー!」


 少女が天高く何かを飛ばした。

 それは紙。

 文字、模様が刻まれている。


「はつどうッ」

「「「「な!?」」」」


 光って、天井に当たり……それは消えた。


「……え?」

「カッカッカ! 脅かしよって」


 不発を装うその物は、事実不発なのだ。

 しかし、それは不発と言うより、失敗。

 だからこそ、いい。

 それこそ彼女の狙い。


「近くにある何かを寄せる魔法。ランダムが故に私は粗悪品を掴まされたと決めつけていた。でも、捨てなくてよかった。ゴミは磨けば富になる」


 鼓膜に声が来る位置がおかしいと感じ、一帯の魑魅魍魎がジャミーの口先に視線を寄せる。

 そこは空。


「いつ逃げた……ッッッ!!」

「アナタたちの方が見覚えあるわよね」


 彼女は手を宝箱に添えていた。

 あからさまに年季の入った木製の地に、錆が不自然に残っている金属の縁。

 手が加えられていることが、ベテランには判然。


「大体、こんな堅っ苦しい箱を開ける人がいるのかな……ま、私には関係ないか」


 彼女はその白い手で三回ノックする。

 木製の箱は怪しい音と共に跳ね上がった。

 同時にコントロールで敵の中心へと投げ飛ばす。

 その内側は何寸先も闇。

 口には鋭く不規則な牙が生えそろっていた。


「ミミックッ!?」

「ギャァアアぁアアあアア」

「ひぃぅおおおおおお」

『バズン、バズン。ガチッ』


 食べるというより飲み込む仕草が荒く、みるみる内に部屋が広くなっていく。

 掃除とも言うべきか。


「ははは、私にその歯は通らぬぞ意思無き箱風情が」

『ギギギギ、バグン』

「――――」

「掃除用にミミックを改造できないかしら」


 言っている合間にまた一人消えた。

 たった数分で部屋はきれいさっぱり。

 そういえばあの子はどこへ行ったのか。

 それはもう既にミレメルが保護していた。


「すごぉ」


 残った魔力でコントロールした。

 それが楽しかったのか、マギーはやはりワンモアを願って来てしまった。

 今はそれどころではない。

 難はそれだけにとどまらない。


「だぁめ。今は遊べないの」

「ぅ……たしかに」

「えらい子。また街に行ったときは美味しい物あげるからね。……さて」

『ガチッ。ガチッ』


 ひとしきり暴れた後、疲労で静まったわけではない。

 猛獣は息をひそめて、確認するかの如く噛み合わせる。

 その気配、ネコ科が低くなり、イノシシが片足で地を蹴飛ばし、人がクラウチングする時と瓜二つ。


「下がって。ゆっくりね」

「う、うん」


 箱はニジリニジリと寄ってくる。

 その度に硬い物が打ち合う音が、段々とクライマックスを強調する。

 すり足で下がっていくと、ふと息が苦しくなる。

 背の肉が既に壁を触れていた。


(横に避けたとて、あの機動力には勝てない。マギーの世壊魔力も私には多すぎて暴発の恐れあり……)


 そうなると、残るは道具だが、殆どこの場を打開できる物はない。


「詰み……ってまぁそうよね」

『ズゴゴゴゴゴ』

「なんかきてない?」


 それは地震でも崩壊でもない。

 単なる救世主の登場だった。


「ミレメルぅ!」


 まるで雨漏りかのよう。

 天井付近から人影が現れた。

 そして二人の目前でミミックに向かって壁を生み出す。

 その半透明の強化障壁の向こうで、ミミックは崩れ行く瓦礫と何かに押しつぶされていった。

 床が抜け、さらに何層も罠ごと粉砕していった。


「待て待て待てッ!! 行き過ぎだって」

「みつりちゃん止まって止まって止まってええええええ!?」


 五階分が一つのフロアに変形し、下の方では黒いドラゴンに二人の男が乗っている。

 一人は今世紀一番だったと言わんばかりに笑い、一人は余りある衝撃に目を回していた。

 そして、目の前にいる人物もまた、自分たちがよく知る者だった。


「やっぱり来てくれた。ありがと、カゲハル」

「マジごめん! 遅れちった」


 こうして五人と一匹は合流した。

 砂塵が徐々に晴れると、そこはむしろ先程より清々しいほど生気に満ちていて、自分たちと脅威の位置関係を暗に示しているようだった。


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