59 美ノ魔王Ⅱ
「……けほッ、命知らずにこの遺跡を荒らしに来たんでしょうけど、あたしに傷は付けられないわよ」
「あぁ、別にあんたの墓荒らしに来たわけじゃないから気になさらず」
「やる気満々じゃないの……好きだわぁ。好戦的なのは」
同じ日本人かよこいつ、と幻が呟いたことにカゲハルは気づいていない。
光も何も宿っていない彼の魔物の目、対して先走る昂奮に身を置いて行かれそうな魔王。
両者の合間にある炎々。
そこで猫耳の生えた黒い竜が咆哮をあげる。
「ミャアアアア」
「……? 猫?」
カゲハルは意識しなかった。
別に何の気はなかった。
自分に「相手の魔力から感情などが読める」という特技が備わっていることも、普段から思い出したりしない。
スゥウウウウ―――――
呼吸した、魔力が流れる、体をめぐると想起する。
嫌な記憶ではなく、懐かしい思い出。
どうしてこんな温かい気持ちが芽生えたのだろう。
ザァ――
チャン……チャン……
ボツッボツッ。
パァー。ブロロロロロ……
カァンカァンカァン―――
俺は、あの猫を、苦い雨の降る日に見た――――
その日は俺が親父の訃報を聞いた帰りだった。
親父のいる会社から連絡があり、俺は急いで病棟へと向かった。
母親が既に故人となり、親父も日に日に表情が鬱に寄って行った矢先。
知らされた病名は、よく聞く「くも膜下出血」。
確率的には半数以上が後遺症を残すか、死をもたらす厄災。
正直まともに異世界で戦場に身を落としたとしても、魔物よりずっと恐ろしい。
当時の俺は打ちひしがれた。
理由は確かに、男手一つになって丸一週間以上休みなく働いていたことへの感謝と無念もある。
だが何たって言葉を失ったのは、親父が母の墓参りに行けていなかったという事実に因る。
母の火葬は可及的速やかに行われた。
葬儀も派手ではなく。
特にあのブラック企業も働く駒が欲しかっただけらしく、墓に何かしら冒涜を働くなんてことはしなかった。
穏便かとも思われたが、父親は転職をしなかった。
墓参りに行く暇も無かったか。
今変えても何か間に合わない事情があったのか。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺は無意識だ。
無意識で会社に盗聴器を設置した。
機械に通ずる知り合いがいたことが幸いし、特に理由は話さずに譲ってもらった。
本当に、悪運には恵まれているのだろう。
そこには親父を罵倒する声、その他諸々。
中には死んだ母を否定するものも。
聞いていておかしくなりそうで、途中で聞くのを止めた。
大家にそれを渡したが、その後特にそのことには触れず、次の日からは笑って話しかけて来た。
何か起こったのだろう。
翌朝のニュースでその会社は、労働基準法違反など何か多くの案件で裁判沙汰になり敗訴したと報告された。
俺は自分でヤバいことをしたと自覚はしていた。
不法侵入もしたし……
でも何とか周りのバランスは崩れなかった。
多くの支えがあったのは事実だろう。
だが空白になった心には、周囲を拒絶する力があった。
家まで送るという大家の提案を払い除け、その病棟からの帰り道、そとは雨が降っていた。
傘を忘れた俺は、躊躇うことなく帰路を“ゆっくり”歩いた。
肌に伝わる感覚が無かった。
冷たさと、怒りか後悔から来る熱の区別もつかなかった。
俺は踏切を越え、路地を彷徨った。
上を向いて目と口に雨水を喰らい、喉を押さえた。
(苦い)
幸い味は感じた。
地を舐めても多分貝殻のような味がするだろう。
草を齧ってもビニールを隠喩する味なんだろう。
妄想が進むくらいには理性もある。
そして、聴覚もまだ存在した。
「ミャァ……」
俺の足元に、猫が突っ伏していた。
雨に打たれて毛は溺れ、白く艶やかな色も薄汚れていた。
だが、俺はその子に惚れた。
別に恋という種じゃない。
同じような窮地にいる、と勝手に断定したことによる同情。
拾いあげ、命あるうちに動物病院を目指した。
結果適切に検査してもらい、飼い猫で無い事を推定し、今後の飼育法を教わり、雨が奇しくも止み、家に持ち帰った。
それが、新しい家族との短い共同生活の始まりだった。
―――何故、過去の俺が居る?
自分を拾ってくれたのは、優しい青年だった。
部屋はゴミ屋敷とは言わずとも、趣味嗜好が散乱してはいた。
大半が蜥蜴みたいな絵の描かれた薄いケース。
中には小さな舐めると苦いものが入っている。
家の主はいつもその小さな物を光る板に入れて、黙々とボタンを押している。
何が楽しいのか、邪魔を入れると、苦笑いして優しく撫でてくれる。
決して嫌なわけではないらしい。
触り方には人の特徴がよく見える。
主人は寝坊助だ。
朝に逆立った髪を一所懸命に水で整えている。
自分の食事と私に食べさせてくれる分を一瞬で作り、そそくさと身支度をする。
私に手を振り、戸を開けて鍵を閉める。
私がついて行っては駄目なことは承知している。
だから私は言葉にならない言葉で。
「ミャア」
とだけ。
―――動物ってこんなに色々考えているのか、はたまたただの本能か。何しろ、今この視界から見えるのは過去に死んだ自分だ。
その日は夜景が綺麗だった。決して高くない二階のアパートだが、都会と呼ぶには粗末な街で、建物は視界から謙虚に下がる。
窓の明かりや照明が光るのはいつもながら、何故か見つめられる。
コウモリが宙を舞うが、それもまた幻想的で。
「みゃー」
私は柔らかく声をあげる。
主人が部屋に駆け込んできたからだ。
あのぼてっとした顔が、凄く落ち着くのだ。
タイ缶詰を開けてくれた主人は、私を撫でながらゲームを始めようとしている。
これがいつまでも続くといいな、と心のどこかで思っている。
しかし。
≪ゴオオオオオ≫
「ミャッ!?」
私は声を漏らしたはずだが、気付けば自分の声すら聞こえなかった。
私の意識はそこで――――
――――気が付けば、私は暗くて冷たいあの日のような場所にいた。
水はない。
ただ、ロボットがうごめいている。
そして、そんな中に異様に似合わない女性が一人。
「まぁ! 可愛いわぁ……ん、何この札」
みつりの部屋を生前……主人は用意していた。
空き部屋があったからだろう。
その部屋の扉はほぼ常に開けているのだが、そこに主人直筆の「みつり」の文字が書かれている札を貼っていたのだ。
女性は私の横に落ちていた、それを拾いあげ、図々しくも私に名前を付けたのだ。
「み、つ、りって読むのね。あなたの名前? ちょっと短すぎる気がするし、名付けてあげる。『ミッチェリー』なんてどう?」
言葉は話せないが意識はある。
だからこそ嫌だった。
名を貰った途端、自分の力は増し、同時に喉を掴まれるかのような支配感。
私はそこから、多くの人を殺した。
――――そんなまさか……
「まさか、みつり?」
「え、みつりって。言ってた猫か? 確かに耳生えてっけど」
「……あら、名を知ってるって事はあなた飼い主? 不思議なものね。運命って奴?」
くすくすと笑う魔王にカゲハルは問う。
「テメェ名前なんだ?」
「『ヴィル=チェリー』よ。聞いた事くらいあるで――――」
「知らん。もう喋るな」
目の前が黒一色に染まる。
正体はシェドラ。
無数の蛇が声も無く襲ってくる。
ミッチェリーが魔王ヴィルの前で庇うと、攻撃は止まった。
「ヴー……」
「みつりちゃん……マジであいつ卑怯すぎねぇか?」
「そのうえ……みつりをこんな姿にしやがって」
「こんな姿って、私がこの子を拾った時には、既にこの見た目だったわよ?」
そう、みつりは転生してドラゴンとなった。
種族名は
――――――――――――――――――――――――――――――――
ステータス キャドラーゴ ミッチェリー Lv310 属・竜 体質無し
※魅了※
攻力
防力7010
体力4025
魔力7685
精力3229
俊敏1050
紋:魔王の僕・しなやかな硬鱗
スキル:軟体・魔力即時回復・体力即時回復・咆哮・突進・炎息
P50所持中
――――――――――――――――――――――――――――――――
キャドラーゴ。
この世界において、このような種の魔物の存在は記録されていない。
どこか世界の果てで生まれたとしても、今はその姿を人里に下ろしていない。
だが、その世界の果てというのが、この遺跡に該当した今世紀。
「返せよッ!」
「嫌だといったら?」
「お決まりの文句を垂れてんじゃねえよ、このカゲハルさんが黙っちゃいねえぞ!」
「あなたは弱いから黙ってて」
「ひっ」
幻がはやし立てると、ヴィルが静止した。
シュッと縮こまり、生まれたての小動物のようになってしまった。
対する元野良猫は、威勢よく吠え、猫とは程遠い大型犬の風貌を誘引する。
「あなた、あれよね。多分魔王を屠ったっていう人よね」
「なんでだ?」
「見ればわかるのよ。魅了だって効いてないしね」
「……魅了って、別にあんたがブスだからじゃあねえの?」
爆弾発言だと、そう幻は横で感じた。
誰がどう見ても、特に日本人から見れば、ヴィルの美貌は次元が違う。
彼女の容姿は掘り深い整った顔に曲線美しいボディ、そのラインが出やすい服に身を纏う美に、対峙したとき幻が惚れかけたくらいだ。
それを直球に卑下。
流石に魔王と言えど、女性に向ける言葉じゃない。
「ふふ、いいわ。強情な男ほど、あとで達成感があるし」
「へぇ、男ってわかるんだ。皮肉なもんで、容姿がどうも男子らしからぬ美少年だそうで」
「クールでいいわよ?」
「褒めるくらいだったら、その気遣いをどーかそのペットに注いでほしいもんだ」
「冗談」
カゲハルが走って、手を変形させた爪で切りかかる。
魔王はその柔軟な脚を上げて、ヒールで止める。
しかし、カゲハルの掘削の能力が影響することはなく、ただ弾かれた。
「本当に気に入った子に、気遣いなんて不要でしょ?」
「その言葉、関係性が違えば美徳なんだがなぁ。台無しだよッ」
再び走り出したカゲハルを迎え撃とうとヴィルは駆ける。
ふと瞬きをすると、目の前からカゲハルが消えた。
「!?」
(この真霊化……天敵に対してバレたときのリスクが大きいから使いたくはないけど、仕方ない)
その声が背から聞こえたかと思うと、自分の影から針が腹に伸びてきた。
その鋭利と速さに物を言わせた一撃は確かに腹を貫いた。
だが、それはただの錯覚。
ように見えた、だけ。
「うーん。折れてるわよ? 弱いけど、世界中で強い位置にいるのは確かね。現に今あなたが居る場所がわからないし」
「そうか、それは上々」
「……?」
「カゲハルどこだよ………って、あ!」
二人はミッチェリーの上空に、光る目を見た。
暗闇から一直線に、頭を触りに降りる。
「詔、解除できそう?」
【問題なく。スキル「キュアルン」を獲得しております】
以前、もう誰も残っていないが、妖精女王が土属性の盾役から、呪詛を取り除いた魔法だ。
「確実にやりたいからな。アレをやろう」
【はい。……光蘇の陣】
「『キュアルン』」
ミッチェリーの目に光が灯る。
それはただ魔法の光が反射して目にハイライトを付けただけに留まらず。
「か、解除だと!?」
光属性の方が、回復系の能力は力を増す。
だからこそ闇との親和性は低く、使う者は滅多にいない。
「まあカゲハルに、お前みたいな能無しの常識は通用しないわなぁ」
「なッ」
「俺“達”は、転生者だからな」
そう言い、幻は帽子を脱いだ。
煽りに苛立ち、背中から羽根を生やして飛び立つ彼女は、無防備な人間を仕留めようと試みる。
しかし叶わず自分の手には目が大量に添えられていた。
「それはバビリアって所によく出る蜥蜴から目ん玉くり抜いて作る、マッドな装置だ。レジストしたとて、必ずどこか一部の石化は防げないよん☆」
「き、さま……」
ヴィルの腕から、徐々に顔に向けて灰色一色に染まっていく。
だが、流石に魔王。
すぐに石化は止まり、添えられていた花ごと装置の目を干からびさせた。
「あたしの魅了で上塗りすれば、抵抗は訳ない。それに植物をも対象にできるし、それを極限まで惚れさせて枯らすこともできる。独特な製法で作られたこの目、鮮度のお陰か、あたしの範疇よ」
得意げに幻を見下ろす。
万能と化した自分の「得意技」は磨くほどその応用力を見せる。
だがそれはカゲハルにも誰にでも、当てはまる。
「俺っちが能無しと言ったのは、このアテンションにホイホイ乗ってくることを見越していたからだよん☆」
「……はっ!」
「ナイスだ鳩羅。良いものが練れたぜ」
カゲハルが振り返った彼女に、先ほどとは打って変わってただ一匹の蛇を放つ。
「キャッ」
悲鳴のような息と共に、壁に打ちつけられる。
だが、そこは魔王。
どうにか回復が追い付いて、体勢を立て直……
(――せない!?)
どうしてか、地面に張り付いた体が起こせない。
重く刺さった腹の後は赤く腫れ、今も痺れるような痛みが居残る。
(な、なんで急に力が増した!? 蛇が何か違うスキル……ではない。あれも針も同じものだ。……じゃあ何でよ!?)
ヴィルは消えていく蛇や針といった魔力の産物を見渡す。
しかし、考えるだけわからない。
頭が地に反発する動きをしようと、結局胴を重力が話さない。
「カゲハル、何か強くなってない?」
「……そういえば確かに。なんでだろうな?」
本人すら自覚がなかった。
誰にも触れられたことのない紋の存在を。
それは遠い遠い宇宙を越えた、白紙の世界からの救済。
『死ぬことは許さない。精々楽しませてくれたまえよ、カゲハル=オーナメント。』
(うーん。今は夜じゃないし。解析変化体の分しか火力は出ないはずだけど……)
見られていることは知っていても、声は聞こえない。
カゲハルは知らず知らずのうちに、自己の内臓する力の増加を果たしていた。
そしてそれは割と以前に施されていた。
「ま、とりあえず出し惜しみせず。魔王成敗と行こうか」
魔力をあらゆるスキルに投じる。
残る精力を、脳超加速・防御・影操作に。
モード狂乱となり、しかしMPの方の魔力が尽きれば、夜ではないため即アウトだ。
細かく調節しつつ、とにかく横暴に。
「フゥウウウウウ………」
「や、やめッ……!?」
深く息を吐き、その吐息が冷めた空気によって白くもやる。
その眼は鋭くこちらを見つつ、かつ左手を添えた右手には、魔力はなくとも恐怖があった。
魔王は思った。
本当にこいつは人間なのかと。
そう仮説を立てたとき、彼女は納得し、同時にまた新たなる者を見た。
(誰、だ……?)
美青年の背後に、一際巨大な人型の何か。
マントのような物を着ているのか、手が何本あるのか。
でも確かにそれは“人”に近しい。
だが、遥かに自分など滑稽で。
何をしてももう既に、触れてはいけないものを踏みつけてしまっていたのだと。
「怒りを受け取れッ、この不細工がッッ!」
「ブッッッ」
ただ単純で、純粋な、ミレメル、マギー、ギェリヴ、そしてみつりへの思い。
それをけなされることへの憤怒。
拳が一直線に顔へ走り、間接的に相手の脳を叩いた。
衝撃で鼻血を吹きながら、また一人の魔王が倒れた。
意識はもう既に無く、赤の巡りも止まった。
「お、おおおおおお! スゲェええええ! さすっがカゲハルだなぁ!」
「いや、鳩羅にも助けられた。あのチャチャ入れはよかった」
「そう? 頼りになったのならこっちも満足だよ」
満面の笑みで対話する幻。
倒したことへの喜びもあるが、多分生きていることへの感謝が大きいのだろう。
開けてきた入り口はまだ明るい。
短期決戦で決着を付けられた証拠だ。
それで得られたのは時間だけではない。
「さて、おいで……みつり」
「ゔぅるるるる」
ドラゴンとは思えない声を出しながら、カゲハルの方へ頭を擦りつける。
小さなふさっとした毛が、クッションのようで気持ちがいい。
その色は黒く。
目は橙色に輝いていた。
「にしてもスゲェよなぁ。まさかみつりちゃんがこっちに来ていて、しかもドラゴンになり、元の飼い主と会うなんて……運命ってやっぱあるのかぁ」
幻が目を輝かせていた。
「……どした?」
「え、ああ、いやああ。ぼ、くにも、運命の人とか現れないかなぁと」
「……いないの? その容姿と生業で」
「居ると思ったの? この人格と性格で」
こんな美青年を放っておく世間もどうかと思うカゲハル。
多重人格と言えど、どちらの幻も人を思いやる人物だ。
それは戦っていた人が共通して認識している。
(どうか、マギーとかといつか幸在ればいいが、あの子を鳩羅に渡すのはなーんか癪だなぁ。ってうるさい親父みたいなこと考えてんな俺)
とはいえまだ子供。
マギーが彼に抱いているものは、あくまで遊具で遊ぶそれと同じ。
恋路に至っては彼らが決めることだ。
「ま、頑張ってくれ」
「そういう君は居ないのかなぁ?」
「俺は、特にそういう感情は無いかなぁ……」
「あら……目だけじゃなく、心もドライだな」
「あ? なんか言ったかパーティー野郎」
「急に口わりぃな、強面魔物!」
ぎゃあぎゃあと言い争っている傍で、ミッチェリーは点目。
二人を制するがごとく間に割って入り、鳴こうとする一匹だったが、その必要がなくなった。
「ググググググググ………」
「お前だいたいなぁ……」
「グオオオオオオオオオッッ!!」
壁に頭がめり込んでいた彼の囚人が目を覚ました。
石壁から目が正体をあらわにしたと同時に、壁を蹴って飛んでくる。
その着地点はまず見ていなかったらしい。
「ギタタタタタタタタ! 俺復活!」
「待って待ってまぁああってええ!?」
思い切り踏みつけられる。
カゲハルでもミッチェリーでもなく。
狙ったかのように。
「お、折れる……てか多分折れてるうぅ……!?」
「あ? すまんすまん」
「キュアルンも聖水もあるから心配すんな」
地面に半ば埋まり、どこぞの栗坊みたいになってしまったマジシャンを、丁重に起こす。
ミッチェリーも驚きに目を丸くしているが、途端に辺りを見渡し始める。
「どうした?」
「ヴウウウウ……」
「下気にしてんじゃねえのか? ボス」
ハッとして、カゲハルは急ぎ下層の階段へと足を進める。
「みつり……いや、こっちではミッチェリーか。ここで待機していてくれ」
その頼みに、理解したのか彼女は一つ鳴いて、おすわり。
「……いいのかカゲハル? この世界の名前って書き替えられるんじゃないのか?」
「そうだけど、何となく契約とかで束縛するって言うよりは……」
「心で通じ合いたいんだろ? そんなこともわかんねえのかよこのガキは」
((ぎ……ギェリヴが真面目に察しやがった!?))
二人して浮世離れした現実に放心。
だが鳩羅も黙ってはいない。
「でも、家族を名前で呼べないってのも、それは酷な束縛じゃない?」
「ま、それは俺も思う。ボスってボスを呼ぶのは俺の勝手だけどな」
「……」
カゲハルはみつりを見上げる。
「みつ……ミッチェリーちゃんも、それを望んでると思うよ?」
「……そうだな。ごめんな、辛い思いさせた……『みつり』ッ!」
「ミャァア!」
屈託ない満面の笑みで、みつりが少し光る。
カゲハルに擦り寄る愛くるしい行動に、鳩羅はドラゴンであることを忘れてメロメロに。
ギェリヴもなんとも言えない顔で笑い、その旧交を眺めた。
そんな四名の座標は徐々にマイナスへと向かう。




