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other バビリア洞窟

 水面。

 そんな何かに浮いている感覚。

 冷たい空気。

 高い天井。

 強張る雰囲気。

 漂う煙。

 少し広まった空間は、凛とした空気を離さない。

 とにかく今は、暗い。

 真夜中の裏路地など比ではなく。

 そこにあるのは純粋な闇。

 モノであるが、恐怖心すら煽ってくる。

 ここは「バビリア洞窟」という世界屈指の未探索エリア。

 最近では、ここからの魔物の発生が活発化しているとの報告が近辺で上がり、探索が始められている。

 しかし、出てくる魔物はピンからキリまで勢ぞろい。

 Lv1の人間基準で下の下とされる昆虫型魔物や、Lv25などの中の中の爬虫類型魔物。

 中の位までくれば、魔物は一般に強いと認められ始める。

 だが、普通の洞窟では奥にいけばいくほど、強力な魔物が出てくるものだが、ここはそのルールが利かない。

 神出鬼没な魔物が多く、上級戦士を多く呼ばないと命取りになりかねない。

 正に古今未曾有の迷宮だ。

 迷宮は迷宮らしく、とっても広い。

 そして長い。

 魔物の発達ぶりに比べ、鉱石などの生成も目まぐるしい。

 ある個所では、珍妙かつ強固なミスリル、超可燃性の爆弾石、奥の奥にはこれまた珍しい神秘の薬(別称 回復水)がある。

 この水に至っては、地下水であるにも関わらず、光の属性を帯び、触れたり飲んだものにたちまち栄養を行き届かせる品物だ。

 これにより、この水の湖の周りには新鮮な草花が育ち、暗い環境でも強くなる。

 それがこの洞窟の糧となり、多くの命を支えてきた。

 そして、この洞窟で取れる資源はたちまち人間に搾取され、地上で高値で売買される。

 品質次第ではオークションに出されるほどに。

 それらと調査結果を求め、今日も懐を空かせた上機嫌な探索者が、この闇に吸い込まれていく。

 何とも、悲しきかな、嬉しきかな。


「おー。噂通り広いなあ。こりゃあ皆血眼になって宝探しするわけだ」

「もうこの辺りは探索された後だから、その分広く感じるのよ」


 洞窟の出入り口から一線を超える。

 入ってきたのは四名。

 これは冒険者。

 万能職で、この世界でも、魔力を扱える者が主になる職だった。

 だが実際、熟練その末に己の力だけで魔物が仕留められるのなら、それでも就職可能だった。

 そして、この四名、その内二人は有数の武闘家だった。

 魔力は扱えるが、基本攻撃は物理のみ。

 その攻撃力は尋常ではないが、非物理の魔物には相性が悪いため、実質この洞窟では盾だ。

 この洞窟で確認されている非物理の魔物は、現時点で……

 ゴーストや、その進化系の変異種であるフレイム。

 物理が余り通用しない小型の吸血虫、いわゆる蚊だ。

 それらが割と頻繁に確認されている。

 あと、スライムや神秘の薬付近に住む妖精なども見られている。

 彼らも物理が通用しないが、如何せん弱い。

 とにかく弱い。

 そう、見られている。

 酸性の毒などの奥の手があることも知らない素人は格好の餌食になるのが土定番だが。


「お、カスターいるじゃん。結構いい素材落とすよなアレ」

「確かにそうだな」


 メンバーの二人の男が意気揚々と目の前のバビリアフラッシュカスターを認識する。

 相手は未だ彼らに気づいてはいないらしい。

 その証拠に頭部が光っていない。

 その様はまんま間の抜けた表情のただのビーバーだ。

 そして、そのステータスはLv10位と想定される。

 あくまで予想だ。

 彼らを含め多くの者は、相手のステータスを見る「能力査定」を持っていない。

 精々、自分の能力を見る「自己顕示」というスキルが基礎として備わっている程度だ。

 そしてそのスキルは、数多くの物事を経験した末に段階上昇、つまりレベルアップし、「能力査定」へと至る。

 そもそも、この能力自体貴重で、これのレベルが上がるのは行商人や探検者位だ。

 経験が物を言うこのスキル。

 残念ながらこの四人は持ち合わせていない。

 メンバーの一人、魔法使いが躊躇なくビーバーに魔法を放つ。

 風を巧みに操り、暗闇でそれは全く視認できず。

 頭部が吹っ飛んだ。見事に切れたそれは、血を晒すことはなかった。

 言わば刺身状態。

 反応すら許されず、カスターはそのまま倒れた。


「おっかねえよなぁ、お前のその魔法。風殺」

「また、興味出てきた? 打ち込んであげよか?」

「いらっねえよ!」


 その場に微笑が起きる。

 一般体格の破天荒系武闘家のケビン。

 魔法使いで少しS気質のサーリア。

 一番背が高く温厚な武闘家、盾役のスワイフ。

 日常的に静寂な隠密のペルシ。

 性格や体質、何もかも違うこのパーティーは、そこそこ強く、なんだかんだトラブルはあるものの、今じゃここら一体の上級パーティーだ。

 彼らが出会ったのは、数十か月前。

 それぞれが学びの場で教養を積み、冒険者になって団体となり、依頼をこなすうちにその名は轟く。

 旅と仕事の中、親友、ひいては命を預ける同士となり、今まで頑張ってきた。

 彼らは重要で有用な知識を埋め込まれ、初めの戦闘以来すぐに、メキメキと成績を伸ばしていった。

 強さで言えば上の中程の、カルデラヒートを名にするドラゴンに勝ち。

 まとまれば上に匹敵しそうな鬼と呼ばれる魔物、いわゆるオークやオーガといったものの群れを撃退。

 探し物の依頼や素材の回収、小さな依頼も分け隔てなくこなしてきた。

 そんな楽しくも激しく、いわゆる青春を味わっていた。

 首が落ちたビーバーの長いこぶのような頭部、毛皮、齧歯、豊富な肉。

 それらを綺麗に仕分けていく。

 今回は頭部の質が良かった。

 まあ使うまでもなくお陀仏ったので以下略。


「よっし」


 ケビンが荷物をまとめ終え、また一歩洞窟に踏み出す。

 それに後も続く。

 道中、正しくは洞中を、当てもなく散策。

 目印や地図に書き留めていくなどして、マップを把握。

 途中途中にバビリアフラッシュカスターは居たものの、呆気なく駆られ、そのまま回収される。実に大人げない、と言いたいところだが仕方ない。

 彼らの平均レベルは40くらい。つまりビーバーの4倍くらいだ。

 実力が確かに付けば、この世界で生きていくのはそこまで苦じゃあない。

 そんなこんなで、洞窟を大分進んだところで、彼らはとあるものを見つけた。

 それは、明らかに異質な大量のバビリアフラッシュカスターの足跡。


「ん? 一直線に駆けた後か?」

「そうらしいな」

「なんか気味が悪いわね」

「なんでこんなものが…」


 一同は一抹の不安に駆られたのだった。


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