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51 延長戦Ⅰ

 やらかした。やらかしちまったー。

 これはマジで終わった。オワタ。尾張。

 あのギェリヴとかいう無鉄砲が酒を飲むのを阻止し忘れてしまったのは、明らかな失態。

 店に戻った瞬間、俺の何かがヤバいと叫んだんだよなぁ……


 とりあえずミレメルを魔吸収に入れたまま走っては来たものの、大丈夫かな。放っておいて。


(あのぉ……)

(すまんミレメル。狭いか?)

(ううん。そんなことはこれっぽっちもないんだけど……大丈夫?)

(うーん。まあ、一応?)


 何となく、鳥かごを持ち歩いているような気分になる。

 護るためには致し方ないが、申し訳ない。

 心配されたことによどみつつ、町の中央に向かって走った。そこには大きな広場があり、ここからだとラルシアの城がよく見える。更にはそこが避難場所にもなっていて、町の人間の殆どが集合していた。その数は数千か。正直、外に頻繁に出なかったゲーマーの俺には人数を正確に見分ける(すべ)などない。まあ一般人なら誰だろうと無理だろうけど。


 俺が走ってくると、大量のまなこが俺を視認する。

 なんだろう、今凄く脚が竦んだぞ……


「あ、あんたは!」

「紫色の髪、美しい容姿……英雄様!」

「え? ほんとに?」

「ええええ! 凄い凄い!!」

「本物?」

「アレが?」

「かっこいいい」

「かわいい」

「あれがえいゆうさんなの?」

「我らにも救いの手が」


 口々に自由に俺のことを喋り始める。

 褒めたり疑ったり…

 うん、一言いいか?


「あの、ちょっ…」

「ちょっと待ってくれ、あいつなのほんとに?」

「お前、どっからどう見ても証言と一致すんだろ」

「そんなことどうでもいいよ~」

「あの魔物の群れから生き延びているんだから、ほんもんだろ」


 う、大きな声を出したくない。内気なこの少年にどうかお慈悲をぉ……

 ま、オーナメンタルはこれを楽しんでいるんだろうけど。


「え、魔物?」

「は?」

「私たち死ぬの?」

「え、なになになに!!」


 俺の言葉なんかお構いなしだ。

 というか、俺の言葉どこ行った?

 見えねえなぁ。あ、言ってねえわ。

 まあ、小心者だしな。陰キャゲーマーだしな。


(……)

(カゲハル?)


 俺の味方はミレメルだけか。


 はぁ……

 しょうがない。ここで一丁声張らにゃいかんわな。


「……ピュイッ!!」


 正しくは声ではなく指笛で、犬を呼ぶように呼び掛ける。高音は低音よりも聞こえやすいため、俺が地声で言うより効果的だろう。

 予想は正しく、大半がこちらを向いた。

 手を叩いて強制的に注目度を上げると、瞬く間に声は静まった。


「えっと……とりあえずそこの顔見知りに聞くけど、ここは避難所?」

「そうだぜ。カゲハルさん」

「え、なんで俺の名前を……」

「そりゃお前、連れの嬢ちゃんが喋ってたじゃねえか。そういや、どこ行ったんだ?」


 ああそうか、と納得。

 だが、ミレメルを今ここで出すのも、手の内をばらすみたいでちょっと気が引ける。

 今は平凡な人を装って、ってそれも無理か。

 俺は今、持ち上げられている。


「まあ、彼女のことはひとまず。そんなことよりも、とりあえず言っておきたいことがある」


 俺は騒ぐなよと念を押し、溜めてから報告する。


「魔王が来た」


 それを言った途端、皆慌てふためいてしまった。言わんこっちゃない。

 だが、今喋っていた衛兵の男がみなを鎮めてくれた。

 いやあ、ありがてえ。


「で、どういうことだ。カゲハルさん」

「あっちの門が破壊されたのは何人か知っていると思うけど、そこから来ているんだ。魔王『フローネ=ロムペンダ』が」

「フローネだと!?」


 男が驚く。

 魔王に驚いているのではなく、その名に驚愕しているらしい。


「あいつについてなんか知ってるの?」

「……フローネは確か、魔王『ルー』の側近で、一回勇者に倒されたはずなんだ」

「魔王『ルー』?……勇者?」

「知らないのか? ルーっていうのは支配欲の強い魔王の一人で、勇者にもよく攻撃を仕掛けてたんだ。その勇者って言うのが『ケーリー=バレンシア』。でも彼はルーの攻撃なんかもろともしなかったんだ。そこから予想できると思うが、フローネもケーリーに戦いを挑んだんだが、負けて死んだんだ」


 言葉が濁る。


「……死んだ、はずなんだ」


 つまりは蘇生したか、その勇者が仕留め損なっていて気付かなかったか、嘘をついたか。こういったことが予想できるわけだ。

 とはいえ、ぶっちゃけどうでもいい。

 今はその者本人が来ているということが重要なのだから。


「まあ、事実の追及はどうでもいい。あと聞いて欲しいことがもう一つあってだな―――」



 ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!



 ……ドンッ―――――



 俺が口を止めたのは、驚いたからではない。

 体の芯に響くような激震が来たため、反射で口が閉じたのだ。

 何があったのか、俺には一瞬分からなかったが、方角から見てまずあの二人が関与していることはわかった。

 そしてもう一つ奇妙なことが。

 知恵の詔が知らせてくれたこともあり、しっかりと認識したのだが、何だこの魔力の量は。広範囲に広がりすぎていて違和感がなかったか、魔力を必要とする俺にとっては害になるレベルじゃなかったからか。割と気づかないものだ。


 ガス入り瓶が割れたなんて規模じゃない。霧みたいになってる。

 ここら一帯どころか、城壁の外にまで広がっているし。スゲェな…

 薄まっているからか普通に濃いと感じる程度だが、これが濃かった場合や、魔物じゃない人が吸い込んだ場合、人体には影響あるんじゃないのか?

 魔力過多で酔ってたあいつみたいに。


「あ!」


 来た方向、さっきまでいた場所。そこから上に向かって流れ星が見えた。


「へ?」


 俺は信じられなかった。

 一瞬あのフローネがアイビームしたのかとも思ったのに、なぜか俺の感知システムに、思いっきりその本体が映っていたからだ。


「ナニコレ!?」

「う、変な感覚…」

「これ魔力か!?」


 幾人かが魔力に反応している。

 というか、今気づいたけど、魔力って使えない人と使える人がいるんだな。能力査定が搭載されているからわかるが、体内に魔力がほとんどない人が大勢見える。恐らくそういった所で就職先などを決めているんだろう。

 だが俺が言いたいことはそれだけじゃない。

 なんで、その魔力が見えて使える、いわゆる異世界モノお馴染みの「冒険者」みたいな人達が、こんなところでぬくぬくと避難しているんだってことだよ。


「あの、なんか冒険者がいると思うんだけど、何してんの?」

「……え、いや、報酬ないし、それに魔王もいるんだろ? 俺たちゃ勇者じゃねぇ」


 がめつッ!?

 こいつら金しか見てねえ……

 え、マジで?

 皆こんな感覚で魔物退治したり、薬草採ったり、いわゆる冒険してんの?

 もっとこう主体的に、意欲的に行動しないのかよ。


「……あと、あの城に避難しないのは何で?」

「あそこには王さんがいる。この状況じゃあ、兵は王さんに外部の者が近づくのは危険だって判断すっから、俺らを避難させてくれねえのさ」


 冒険者の一人が答える。

 つまりは、戦えない一般人、やる気のない臆病な冒険者、警備程度の実力しかない衛兵。

 それらが開けたステージに一堂に会していると。

 うん、詰んでね?

 魔物が人を食べて凶暴化するとしたら、ここはただの給水場。レーシングゲームで言うところのブースター。

 不味い状況だ。実にバッドなシチュエーションだ。


(……まあ、ギェリヴは気絶はしていても死んではないらしいし、心配は潰えたのか?)


 詔の能力でこの町全体の状況はある程度把握できる。

 だが、かえってそれが、更なる問題を見つけ出す。


「ッ!……まずいな」

「え、どうした。まさか、俺達が働いてないことが……」

「それも実にフールなことだけど、そうじゃない」


 ノリツッコミ的な、肯定からの転換。


「じゃ、じゃあ何が…」


 不安顔になる一同。

 不安なのは俺の方だ。


 強くなるのは望むところだが、俺の周りで被害が出るのは好まない。


 家族となってくれたミレメルを侮辱するこの町の者達は許さないが、やはり血は見たくない。


 英雄と誤解され胸糞が悪いが、異世界初めての記念の町であり、ソースや塩があるこの町が消えるのは嫌だ。


 それなのに…


「魔物が来ている。それも、全範囲から囲うように」

「「「「「「!?」」」」」」


 反応は変わらず良くない。どころか、うるさかった全員が、もはや黙りこくってしまうほどの事の重大さ。

 流石にもう皆、余命を悟り始めた。


 俺は考えた。

 英雄と呼ばれることは、オーナメンタルを楽しませるだけだし、恥ずかしい。

 だけど、俺の小さくも多い望みを全て叶えていくためには、英雄と呼ばれそうな行動をするしかない。

 なら、答えは一つだと。


「そこで、皆にはここで待機していてもらいたい」

「え?」

「それってどういう……」

「つまり、俺ができる範囲で敵を迎え撃つってこと」


 それを言うと、全体の顔色が良くなった。

 心に宿る黄色が原因だろう。

 泣いたり泣いたりはしゃいだり。

 とにかく、まあまあうるさい。


「ありがたい。俺達、もうどうなるのか心配で……」

「責任逃れするわけじゃないけど、守れるとは言ってないからね? ただ、俺もこの町には色々と用がある。自分の中でベストは尽くすから、あなた達にも頑張って欲しいんだ」


 それから俺は、どう動くかを考えた。

 そして導き出した動き方に必要なものを揃えていく。

 まずは、


「ええと、冒険者だと自分で認識している奴は立って!」

「……」


 起立者がいない。声は聞こえたはずだ。だって、遠くの方の人もこっちを見ているんだもん。

 責任を逃れている俺も俺だが、この人たちはもっとひどいな。


「ああ~あ。なんか、守る気が失せてきたなぁ……。もう一般人だけ守っていこうかなぁ」

「ああ待ってくれ!! オレ! オレオレオレ!!」

「私もです!!」

「あああ僕もぉおお!」


 おっせえよ。

 何だこいつら、マジで現金か。チキンからのがめガエル。

 溜息を漏らすのは許してほしい。


「ようし、今立っている数十人で、この場を守れ。もちろん、全力で」

「はぁ……なんかやる気でねえな……」

「そういうと思って、俺はこれを用意した」


 そう言って俺が出したのは、まごうことなき魔石だった。

 これは洞窟で倒した魔物が持っていた物で、それなりにいい形と手のひらサイズの程よいサイズをしている。


 だがしかし、俺は企んでいた。

 その証拠に、この魔石は金色をしている。

 普通魔石は赤や紫に近い色をしているのだが、これは色が違う。

 そう、この金色は塗装。掘削で掘った金を、薄く叩いて砕いてを繰り返し、水などと一緒にこねて出来た金箔(仮)を張ったため出来た色。

 見せかけで、同じ体積の純金と比べたら遥かに価値が劣るものだ。


 それを俺は大々的に、


「これは魔石だ。正直俺も拾ったものだからよく知らないけど、まずこんな色の魔石は普通に考えて貴重だとは思うぞ?」

「き、金色の魔石だと!?」

「何それ! 欲しいイイイイ!!」


 冒険者諸君の目の色が変わる。それも$型に。


「あげても良いけど、魔石はこの一つしかない。そこでだ。今日ここに滞在して人々を守ったうえで、一番多く魔物を倒した人には、これを進呈しようと思う」

「「「「「おおお!!」」」」」


 まあ要するに、詐欺による煽りだ。

 自分でもこんなにせこいやり方したくは無かったけど、この人らの性格に比べたら可愛いもんだ。

 でもほんと、持っててよかったハリボテアイテム。


「じゃあ、みんなの護衛を頼む」


 俺の呼びかけに大勢が呼応する。

 その燃えるような闘志には、習慣化してほしいという俺の願いが伴う。


「衛兵にはしっかり者が多いからいいとして、あとは……パフォ―マンスとか出来る人はいる?」


 俺がそう聞くのは、一般人へのヘルスケアがいると思ったからだ。

 別に、魔物が蔓延る世界に何求めるんだって話だが、何故だか必要な気がした。


「ひっ、うっ。一応俺マジシャンだけど……」


 えらく怯えた様子の、ザ・マジシャンという感じのスーツに高さの無いハット姿の男子がいた。

 中三か高一、大体前世の俺と近い年に見える。


「不安が募り過ぎないように、この人たちの心を落ち着かせてあげてくれないか?」

「今ッ!?」


 凄く慌てている。

 どうしたのだろう。

 疑問が募るのと同時に、俺には一つ感じたことがある。こいつの顔、どこかアジア系を彷彿とさせるような、という。


「うう、やるのぉ………?」


 思い出したことだが、この世界における俺の日本語翻訳は、完全に知恵の詔(能力査定)任せである。お陰で会話しているとき、ほとんど俺に違和感はない。

 だが、この少年の声を聴いていると、どうもそれ以上に自然に感じられて。


「これ頻繁にしたくないんだけどなぁ……」


 渋々と言った様子で、彼は深くかぶっていたハットを取る。

 すると、萎縮していたのも束の間。声色がガラッと変わった。

 背筋が伸び、クラップによるゲットアテンションが激しい。


「………さあさあ! この『(まぼろし)』のマジックショウ、とくとご覧あれぇ!!」


 暗い空間にその正体を秘匿していた、黄金の繊維。

 そのキューティクルは一切の傷が無いように艶やかで、爽やか。エンターテイナーとしては最高のコンディションのように見える。

 スゲェ。

 今の今までこの状況に対する不安からか、絶望したような暗い表情だったのに、急に営業スマイルのような、光ある笑顔が張り付いた。


 というか、幻?

 パフォーマンスやマジシャン、マジックショウなんて単語を知っていて、この流暢で耳に馴染む自然な日本語……ということは。


(この人、日本人か)


(……俺のマジック、魔法だ何だって言われて、いっつも客が集まらないんだよなぁ。でもこの機会は、もしかしたら運が俺のことを好いてくれているんだろう。全力でやってやる! 多重人格二人目の俺っちが!)


 この少年の事を、俺はまだ侮っていた。決して、見下すという意味ではなく、純粋に彼のほんの一部しか見えていなかった。


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