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4 緊急事態

 水の中から飛び出したような、そんな妙な浮遊感。

 んー。

 よかった。死んではいないらしい。

 どのくらい寝てたかは知らんけど、無事なことをまず喜ぼう。

 というわけで皆の衆、おはようございます!

 今日も一日頑張りますので、どうにかその恐ろしい目ん玉を此方に向けないでおくれよ。

 目の前には悍ましい数の蜥蜴がいた。

 全員こちらを向いていて、目が奇怪に光る。

 シャーと蛇のような声をあちこちから花火のように放ち続けている。

 ステータス、と念じ、彼らの能力を査定してみた。

 勿論そのお陰で途方もないほどの激震と激痛が、俺の体を巡り巡って、体のどこかが切れるような幻覚を覚えた。

 詰まった配水管が裂けるように。

 実際、半身半霊のような体なので、失うものなど何にもないが。

 んでもって査定結果はこうだ。

 因みに複数いるので前後と表記しまーす。



――――――――――――――――――――――――――――――――

 ステータス バビリアリザード Lv12~26


 攻力20前後

 防力80前後

 体力100前後

 魔力70前後

 精力90前後

 俊敏50前後


 スキル:石眼


 P0所持中


――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺がこの洞窟に来て初めに見た魔物だ。

 独特の二本角から何まで、前世の世界のジャクソンカメレオンと酷似している。

 しかしそのカラーは見事な赤と紫のグラデーション。

 ラメっぽくもあり、綺麗ではある。

 言い方違えば毒々しいとも言えるその体はどうも固そうで、記憶ではあのビーバーをも防御力で上回っている気がする。

 まあ異世界の蜥蜴なんて皆固いのが基本な気がする。

 こいつらに至ってはそこに抜かりはなく。

 光と石化持ちという意味の分からない高性能さだ。

 こちとら、ステ貧弱病弱最弱と言っても過言でもないのに。

 ここは世知辛すぎる。

 蜥蜴の一体が軋むような変な音声を叩きだし、一気に走ってくる。

 大丈夫大丈夫。

 俺には物理と光も効かない。

 目?も合わせなきゃ大丈夫。

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 蜥蜴が光を放った途端、体に、まるで真夏に灼熱の太陽を裸体で浴び続けるような、そんな痛みが。

 急いで体を反転させる。

 何故か認識阻害のスキルも未発動のようなので、逃げる。

 逃げる逃げる逃げる逃げる!!


『ズドドドドドドドドドドドドドドドドドド』


 ひええええ!?

 俺を吐かせそうにするほどの量の蜥蜴が一斉に追ってきている。

 人によっては失神もの。

 俺は別に爬虫類が嫌いじゃないから良かったものの。

 って、良くも何でもねえよ!?

 今いるところは、洞窟の……どこかは知らんけど、広いとこ!

 もうそれしかわかんねえや。

 逸る足は、石に躓くことを知らない。

 この魔物としての本能か、体の構造上の問題か。

 最適かつ最良の動き方で、地面を滑らかに滑っていく。

 追ってくる蜥蜴の一角から大きな光が出た。

 それは黒い半透明物体に少なからずダメージを与えていた。

 痛い痛い。

 息切れが感じられる。

 恐らくこれは元人間だからそう感じるだけだろう。

 この魔物の体では、どうも空気呼吸してないように感じる。

 それでも何らかの生命活動はしてるんだろうけど。

 この広大な空間の壁が見えてきた。

 そこには少し幅が狭い空洞があった。

 そしてそこは奥に続いているらしい。

 一体どんだけ広いんだここ……

 急いでそこに入っていく。

 巨大空間の左右は暗くて見えなかったため、他の進路を見出せなかったけど、今は選り好みしていられない。

 少しでも余裕を残さないといけない、本当の意味で命がかかっているのだから。

 まあ余裕なんてないけどな!

 蜥蜴が小さくなった入り口に雪崩れ込んでくる。

 狭くなったため、おしくらまんじゅう、過密、寿司詰め、所狭しと蜥蜴の土砂崩れになっていた。

 その土砂蜥蜴はこの小さなトンネルの天井に届きそうなほどに群れている。

 え?

 待って何体居るの?

 いち、にい、さん、しー、ごお、ろく…

 いやいいや。多いってことを理解していられるだけでノープロブレムだ。

 まあプロブレムではあるんだけど。

 ああ、急げ俺!

 そんな悠長に考え事してらんねえよ!!

 今尚壁をゴリゴリ言わせて光と石化を打ち、突進をしてくる奇妙なウォール。

 必死で逃げる黒い何かに抱いている感情はなんなのか。

 食欲か、興味か、威嚇か、畏怖か。

 しんどぅい…

 動け俺、ちんたらしてっとオーバーキルされっぞ!

 オマエはもう死んでいる、そう言われないためにも走れ!走れ!

 右に曲がる通路が見えた。

 急いで身を捩じる。

 背後では物凄い爆音が響いたが、振り向くことはできない。

 まずいな。

 このままじゃ消耗戦だ。そうなると相手のほうが何十枚も上手。

 寧ろ逃げるのは相手の独壇場。

 集団になってるのと、俺が躓かない体だから、今あいつらが俺に追いつくことはないけど。

 どうにか引き下ろして、同じ土俵に立たせたいが……

 うお!?

 一匹が俺に噛み付いてきた。物理攻撃無効のせいで、ゴムをかじったように相手は弾かれて、こっちは0ダメージ。

 うーん…

 まだスキルとか、魔法とかの概念があやふやだし、すぐにこの状況を打破できなそうか。

 そういや、前に死にかけたとき、体感じゃ体力が一割も無かった。

 ヒットポイントバーがなくとも、この世界ではそれが確信できる。

 それで恐らく、そこまで維持してたのはあの「紋」とか言っていた奴のお陰なんだろうけど。

 もしそれの効果が、「体力が一定になったらそれ以上のダメージを一回だけ無効化」なんてものなら、結構ヤバい気がする。

 継続性の毒みたいな連続攻撃を受けたら、本当の意味で、終わるんじゃ…

 そんなことを考えた瞬間、隙を生んでしまった。

 余りにも急いでいて気づかなかったこともあるが、徐々に体から石が出始めていた。

 石化だ。

 あの蜥蜴のスキルであり、相手を見るだけで石化させるのだ。

 しかしその発動確率は低く、失敗しやすい。

 でも、今いる蜥蜴の数は軽く五十を上回っている。

 数打ちゃ当たる。

 そう、当たってしまう。

 徐々に意識も遠のき始め、遂に闇の魔物は倒れた。

 しかし、肉体と呼べるような体でもないので、出来た石は砂みたいなもの。

 バビリアリザード達は、興味を失ったか見失ったのか、そのまま引き返していった。

 そこにはいつしか見た、騒がしさを喪失した虚無だけが残る。


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