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46 ラルシア王国戦Ⅲ

「ガッ!?……カラダガ……オモ、タイ……」


 事もあろうか、自分より圧倒的に小さく、プチっと潰せる蕾のように弱弱しい存在が、今やこの場の誰よりも強力かつ膨大な魔力で覆って来ている。

 それどころか、何十倍も大きい自分が手足を動かすのをためらっている。

 サイクロプスは異常な現状に四苦八苦していた。


「……オ、マエ……ナゼソンナ、チカラガキュウニ……」


 問う。しかし無回答。


「……」


 黙りこくってしまい、一切攻撃すらしてこない。逆にそれが恐怖となり、一層攻撃したくなる。


「サイクロプスゥウウ! 今すぐそいつを()レェエエ!!」


 お助け要員であり、お助かる要因の魔法術者が、声高々に命令する。

 その使役される側。つまり従者は、言われるまでもないと、武器を振り下ろした。

 ゴウッという風を切る音が、空中の鳥たちを粉砕してなお止まらない。そのまま地面へと、堅い木はぶつかっていく。思い切りよく、カゲハル目掛けて。


『バアアアアゴオオオオオオオオ!!』


 音とすれば、こんな表記か。

 大砲を打つ、火山が噴火する、隕石が降ってくる。これらのような凄まじさがあったため、どう考えても必殺の一撃だった。

 必ず殺す、そう書くはずだ。


 しかし……


「へぇ~。棍棒の中って木で埋まってんのな。てっきりハリボテだと思っていたんだが。ジワるねぇー。……いっそエモいかな」


 そんな声が聞こえ、一瞬幻聴かと己の耳を疑った。だがそれは嘘とか夢とかではない。棍棒からニョキっと生えているのは、ついさっき潰されたはずの少年だった。

 さっきまで土の上にいたのがもう目と鼻の先。当然ながら声も聞こえるはずである。

 だが何よりも、武器から“生えている”ことがおかしいのだ。


「グガッ!? オ、オレノカラ、ハエテイルダトオオオオ!?」

「何。俺が人だとでも思ったか? 固定概念に縛られるって、超バカ丸出し(超BM)じゃん?」


 口をへの字に歪ませ、たった一つの目をヒクつかせ汗をかいているのは、見ていて面白い。そう感じるカゲハルだったが、ミレメルを危険に晒したこいつを許す根拠がどこにも見当たらなかった。

 よって、レッツ処刑と洒落込む。


「とうっ!」


 生え元である棍棒に乗る。


「はあああああああああああ!!」


 そのまま夜闇に交じって、腕、肩、頭、と登っていく。


「よっと……さて、言い残したことは?」


 映画の決着がついた瞬間さながらで、カゲハル自身、優越感が湧いてきてしまった。

 屈辱と恐怖に視界がくらみ、脳天にいる敵を見ることすら敵わない魔物は、ハエを叩きにかかる。

 頭を思いっきりビンタしたため、凄く痛くなる。


 しかし、それは皮膚の痛みだったのだろうか?

 額に液体を感じ取り、サイクロプスは叩いた右手を目の前に。


「………ガアアッグアッッ、グオオオ!?」


 手首から先がなかった。

 棍棒を離した時、握っていた感覚が残るはずなのに、それがないのはおかしいはずだったのだ。今まで負けなし。自分は強いと(おご)っていたのが仇となり、結果、死を目前にするだけで、言葉では表せない絶望に自暴自棄。

 どうしてこうなった?

 答えはカゲハルの前に現れたことだ。

 そこでラックは尽きたのだ。


「お前をフォローすることはない。リムらせてもらう。……そもそもフォローしてなかったら、リムーブすることすらできんけども」

「…ァ……ィャ……」

「死が確定、略して『死確』……」


 特に意味はない言葉だが、言ったと同時に下へと足をピストンする。重力だけでなく、攻撃力も含み、圧倒的な破壊力を誇る足。

 だが、カゲハルは当てるのを止めた。


「……出血死、か」


 サイクロプスは白目を剥いていた。出血もあるが、そもそも片手が飛んだ時点で、HPを殆ど削られていたのだろう。

 魔物は、核以外を攻撃してHPを削り殺した場合、死体が残る。こいつの死体は風化する様子はない。つまりはカゲハルの予想通りであり、もし蹴り潰してしまったら、一瞬で粉砕してしまう可能性があった。

 粉砕すれば、もはや素材は使い物にならない。それはカゲハル自身よく知っている。よって、そっと腹の中にこの巨体を仕舞うことに。


「た、倒しちゃった……」

「え? いやそりゃ倒すっしょ?」

「うん、まあ……」


 ミレメルが困惑している。当然だ。サイクロプスは勇者でもなければ、ほぼ一撃で倒すことなどできない。あの堅い皮膚と防御と回復を、削るというよりは消してしまったという現状に、何が起きているのかと疑い始めてしまう。


「その強さ……まさか、命削ったりしてないよね?」

「……あるの? そんなごみ並に使えない能力」


 その返答に、胸に手を当て一息つくミレメル。

 カゲハルは特に気にすることなく、目を違う方向へ向ける。


「じゃ、あいつに尋問するか」


 そう言った、というより思った瞬間だった。


「ア゛ア゛ア゛ア゛!? マ、魔王様、おやめくださ、あッ、あがッ……カヒャッッ!?」


 遠くの方にいる術者が、耳を塞ぎたくなるほど汚い呻き声を突然上げた。

 何という事でしょう!

 男が倒れてしまったではありませんか。


「わ、ワッツ!? 何やってんだあああ!」

「……これは!?」


 二人は走った。とはいえもちろんカゲハルの方が速く、ミレメルの方が遅かったため、若干のタイムラグがあったが、向かうとそこにはもう、衣服一つすら残っていなかった。


(さっき一瞬。一瞬だがなんか……全身紫の女の子? が、魂を持って行ったように見えたけど……なんで俺はあれを魂と思ったんだ?)


 カゲハルは白いオーブのようなものを見た。もちろん、急いでいたために見た幻覚かもしれない。だが、何故かそれが魂であるという確信があった。何故なのだろう。そして、あの紫な奴を自分は知っている気がする。

 気が気でないカゲハルは気づかないことだが、隣にいたミレメルも、彼の真剣な表情に何かあると受け取っていた。


「……敵が口をそろえて魔王と呼ぶ野郎が気になるが。ま、死んだ者に聞くことは出来んし、しゃあないわな」


 頭を使いすぎるのは好きじゃないカゲハル。

 後頭部に両手を置き、くるっと回転。王国へ向いて、再び歩き出す。


「デスターになら聞けるんじゃない?」

「無理だ。試してはいるんだが、どうもそこだけは譲れんらしい」


 ミレメルの提案に無駄を知らせる。

 デスターが倒せないだけに、忠誠心の固いこの者の口を割らせるのはキツイ。

 こればっかりはどうすることもできないので、一旦は保留することとした。


「……そう。じゃあ、向こう側を見に………?」


 ミレメルが、黙っている彼に気付いて疑問符を出す。

 すると、カゲハルがどうして黙っているのか、それを起因するものは何なのかを、聞くまでもない展開となってしまった。


『ズドンッッ!!』


 太鼓を千個同時に叩くほどの激震。地面が泣いているようだ。

 そして、二人は気づいた。王国の城壁の向こうから途轍もない存在感が溢れ出ていることに。それは魔物よりも遥かに恐ろしい感覚だ。


「……人族、なの?」

「ああ。どうやら暴れているらしいな。警備員たちが恐れていた囚人(プリズナー)が……」



 □□□



 サイクロプスは二体出現した。

 城とその城下町を取り囲む壁、その付近に、王国を挟み込む形で二体。そのうち一体はカゲハル達が戦う事となるが、もう一体は違う。


「邪魔だ邪魔だ邪魔だアアアアア!! ギタタタタタタタタタタタアア!!」


 騒ぎに駆け付けた民衆を一気に吹き飛ばし、道を切り開いて瞬足で走り抜ける男。

 衣服はボロく、全体的に茶色がかっている。動物の毛を集めた、飾りか防寒用の部分が、襟や袖についている以外は特に変哲がない。

 しかしながら、その性格は他の人間と隔絶している。一味どころか五味以上は違う。


「ギタタタタタタァアア!! もう戦い足りなくて、自殺しちまいそうだッ」


 サディストでもマゾヒストでもない。サイコパスでも、ましてや一般人では到底ない。

 戦闘狂―――それがこの男。


「さあ、獄時代の飢えを晴らして貰うぜぇ…魔物さんよぉ? ギタタタァ……」


 門の前で足を止め、裸足で大通りの石畳を鷲や鷹のよう握り潰す。

 門は「ギチチ」と鈍い音を立てている。同時に「ダダン」と高い音もすることから、どうやら攻め立てられていることはよくわかる。


 ここからは彼にとって、久しぶりのメインステージ。もう目前に控えた食事に速くありつきたい犬のごとき興奮で、腕を鳴らし、首を鳴らし、口から熱い息を漏らす。


「ッッシャアアアアアア!!」


 木製の門に向かって横っ飛び。木の繊維が「ミチチ」と足に押されて、圧に耐えきれずにひび割れる。

 扉にくっついていた魔物全てが吹き飛び、木片の餌食となる者も多数出現。それだけでもう、一般兵士が一日平均で討伐する魔物数を、遥かに上回っていた。


「ギャアア!」

「キーッキッキッキ」

「ナンカデテキタゾ」

「マテ」

「マテ」

「マテ」


 数十匹やられたところで、勢いが止まるわけではない。しかし、全ての魔物が城に行かずに男目掛けて襲ってくることに、彼は納得できなかった。


「はぁ? 雑魚は引っ込んでいやがれッ!」


 地面に降り立ち、敵が集まるのを待つ。ギリギリまで、引き付けて。ギリギリまで、ギリギリまで。

 敵―――骸骨の剣士「スカルソルジャー」の剣の刃が、彼の髪の毛に当たる寸前。目の前から男が消えた。

 瞬きよりも速く、常軌を逸した動体視力と運動能力で、地面擦れ擦れでしゃがんだのだ。

 それも驚くこと無かれ。男は腕を亀のように低く保ち、その力だけで脚まで浮かせ、開脚180度で真横にいた魔物二匹を突き飛ばしていたのだ。

 何が起きたのかを理解するには恐らく5秒あっても足りないだろう。だって、怒涛の勢いで攻撃が流れてくるのだから。


「GIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIITATATATATATATATATA!!」


 悪魔的な笑いと同時に、空中静止していた足がファンのごとく回転しだした。攻撃範囲に近づいてしまった魔物全てが、まんまと嵌められたわけで、脇腹からへし折られていく様子は「粉砕」という文字が良く似合う。


「フッッッッ!!」


 一頻り回転し、敵が距離を置き始めた瞬間、バネのように肘が伸縮する。緩和するタイミングで力が一気に入り、地面にクレーターができたため、想像通り周囲が風で弾け飛ぶ。


 砂煙から飛び上がる姿はさながらロケットだが、それは徐々に斜め上へ進んでいく。目指す大物を狙って。


「さァアア! 来い!」


 浮遊感を体験しながら地上に足を向けて、サイクロプスを視認する。

 相手も気づいて目と目が合う。


 バチバチと火花か電撃が通った途端だった。巨漢の剛腕が華奢に見える男へ迫る。

 指の中へと男は吸い込まれ、音をなくす。

 魔物は捉えたことに喜びを噛み締めた。不安の芽は潰すに限る。


 だがしかし、握り拳が抵抗を感じ、一つ目がそれに釘付けになってしまう。


「ぎ、たたた…………ギタタタタタタ多多多多多多多多多多多多多多多多多多‼‼」


 手の甲を下にしていたサイクロプスは実に愚かだった。何故なら、剛脚をもつ彼の男に逃げる隙を与えるだけだから。

 腕で指を持ち上げ、足で(てのひら)を蹴り、魔物の頭上に飛ぶ。男はそのまま、かかと落としをお見舞いする。


「俺の、勝ちだアアアアアア!」


 脳天から股にかけて、一本の釘を差し込まれる程の激痛が(ほとばし)る。首の骨は折れ、膝も持たず、前に向かって思い切りよく突っ伏してしまった。

 男は細く見えて、実は筋肉が詰まっているだけの化け物だった。筋繊維の塊は、凶器となる。


「ギ多多多多多多多多多多多多多多!!」


 日が昇り始め、遠くの地平線に嗤い声が流れていく。

 魔物は主戦力を失ったため、不安に駆られて逃げだし、火の光に焼かれる者も続出し、全てが消え失せた。何の目的でここに来たのか、それは今彼にとって重要ではない。何物にも代えがたいのは、その優越感に他ならないのだ。


「さてと。ここで終わり……と言わせねえのがシャバの良い所か。どうやら反対側にもっと面白そうなのがいると、そう俺の勘と感覚が呼んでいる……」


 彼の感覚神経及び器官は、犬などの動物のそれよりも優れていると言ってもいい。

 数キロ先のものも見落とさないその能力。それは生まれ持った幸運であり、そうなるべき所に還る、いわゆる運命だったのかもしれない。


 くるぶしの堀が深い足が、魔物を一蹴する。同時に日にさらされた影が一つ、城の中へと消えていった。


※カゲハルの能力メモ


ステータス シャドー カゲハル Lv187 属・闇霊 体質無し


攻撃力0(人間時25)

防御力8300

持久力10270

俊足力31000


紋:不屈の影・欲張り・殺戮加護・夜魔多のオロチ


魔法:シェドラ


スキル:解析変化体・知恵の詔・真霊化・生力即時回復・痛覚耐性・掘削・影操作・魔吸収・防御・浮遊・脳超加速・強化障壁・腕力

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