3 免疫成長
腹立たしいくらいに痛く、体と地面の境界線が分からない。
腕が、足(?)が、頭が、割れるように痛い。
一向に収まる気配がない。
吐き気がする。
目が回る。
目がちかちかする。
疲労感が半端じゃない。
泥酔。
混乱。
意識が保てているのか、いないのか。
【個体:シャドーのLvが2に上がった。体力少回復、紋「不屈の影」を取得】
どうなった?
どこだ?
あの厄介なゴブリンは?
あのビーバーたちは?
トカゲたちは?
体がまだ痛いな。
なんか明るい。
でも、苦ではない。耐性が利いているのか?
うっすらと目を開く。
目の前には本当に小さな明かりがある。
恐らくこの洞窟で、あえて大きい獲物を呼び寄せる虫なのだろう。
嫌でも小さな光は目立っている。
そう、蛍のよう。
虫の光に惹かれて、多くの魔物が集まる。
来たのは、炎が実体化した何か、ゴブリンのシャーマン、バビリアフラッシュカスター。
彼らは、足元の影には目もくれず、虫を追いかける。
しかし、大物3体を相手に、虫は羽音を立てずにぶんぶん飛び回る。
蛍とは思えぬ高速で。
炎は燃え、魔法の光が放たれ、ある魔物の頭部は光った。
うるさい。
マジで静かにしてほしい。ホントに。
精神鋼じゃないんだから。
……踏んずけられてない?
でも動けん。辛い。
【免疫が一定になった。スキル「火耐性」を取得した】
【スキル「光耐性」はP300を使い「光無効」に出来るようになった。実行する はい:いいえ】
はいはい。わかったから静かにしてくれ。
響くんだよ、あんたの声。
うううう。
いてえ。
誰か医者呼べえぇ…
病院…
あああれ?
痛くない?
いやいや、いてえわ。
はー。
なんでこんな思いしてまで、転生しなきゃならんのだ。
これなら断然、自堕落してたほうがマシだわ。
ゲシゲシと岩と影が一体になった地面を蹴る音がする。
相変わらず、虫と魑魅魍魎の戦は、その激しさに幕を下ろすことがない。
しかし、急に、ズシンという音と共に、その場が鎮まる。
虫は逃げた。
本能か何かで、悟った。
たとえ、1億匹いようがそれには敵わないと思ったから。
「グルルエエエ!?」
三者三様に驚く。
しかしそれしかしなかった。
いや、それ以外できなかった。
「ボオオグウルウルルルル!!」
その巨体から放たれた延焼は、辺りを覆うというよりは埋めるという表現が似つかわしいほどに、熱と光を含んで広がり、万物関係なく吹き飛ばした。
【スキル「火耐性」はP300を使い「火無効」にできる ようになった。実行する はい:いいえ】
もう体は動かない。
今も、徹夜状態で稼働できているのは脳、もとい精神のみ。
しかし、耐性を持ち、それが進化するために「はい」を選べたことは、正しく人事を尽くして天命を待つというべきか。
シャドーの体力はもう無いに等しいところで、待ったをかけた。
神が味方したか、奇跡か。
息切れすら聞こえず、影は洞窟の暗闇に同化していた。
ズシン、―シン、――ン、と音は小さくなって行く。
大きな足音は、濁声というか含み声というかを漏らしながら、洞窟の奥へと去っていった。
辺りには、魔物の物と思わしき残骸が灰となって散布し、生命の息を感じられなかった。
□□□
どんくらい眠ってたかな。
感覚では死んでいないことはわかってたんだけど、イマイチ思い出せない。
確か…そう、ゴブリン、シャーマン(?)に魔法打たれてそれで。
あれれ、思い出せん。
視界が悪い。
そもそも眼球とか器官ってもんがあんのかは知らんけど、なんかぼやけてる。
ゴミでもついてんのか?
いてててててて。
身体がズキズキしてら。
痛覚軽減とかないの?
って脳内クエスチョンしたところで、ただ静寂しか残らないってことは、無いってことなんだろうけど。
そういえば苛烈に能力査定さんの声が聞こえてた気がするけど…
えっと、ステータス。
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ステータス シャドー Lv2
攻力0
防力2
体力8
魔力19
精力23
俊敏18
紋:不屈の影
スキル:認識阻害・物理攻撃無効・能力査定・光無効・火無効
P400所持中
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!?
なッ!?
光無効?
火無効?
紋?
え、こんなん取ってたっけ。
もう何が何だか。
でも、幸先良きか?
あ、なんかPが減ってんな。
まさか……盗まれた?
スティールされた!?
はあ、そんなわけねえ。
こんな運営企業しかイジれない設定上の通貨みたいなの、譲渡できたとしても、取られる可能性は低いだろ。
思考が、もとより体が疲れてるなこれは……
ん?
また眠くなってきちゃった。
おいおい。
こんな魔物が往来する道路で、無防備に寝転がってたらカツアゲされるぞ……
待て待て待て(3回m)。
ま…て……
ああ…たの…む…
誰も来ないでくれ。
祈りは、届くのか。
それとも届かず、永遠の眠りにつくのか。
それは誰にも予測できない。
しかし、洞窟は暗さを心なしか増していく。
一体化した影は、その傷を直実に癒していくのだ。




