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39 挑戦ハ弱?

 自身の所持している肉だけでは、あの子と自分を満足させるには到底足りないので、見える動植物を狩り取りまくることにした。ひたすら走り、手あたり次第に影操作で食料をもぎ取りに行く。

 欲張りの紋のせいで腹が空いてきたので、植物や魔物は時々口にするつもりだった。しかしながらあまりにも焦っていたため、植物や魔物の毒性を確認するのを忘れていた。


「そろそろこの果実を頂いておくか………バリッ…………んぐッ!?」


 見事に、体に毒が回ったのだ。


 これによりカゲハルは三つの事実に直面した。

 一つ、物理攻撃無効では毒などのデバフダメージを無効化できない。

 二つ、自然影響無効では以下同文。

 三つ、能力査定は知能があるものにしか使えないから、植物の鑑定ができない。

 そのことを、脳超加速することすらも忘れていたカゲハルは一瞬で考え出したが、毒素に思わず咳き込んでしまう。

 ついでに不味さに吐き戻した。


「ひ、久しぶりにこんな不味いものを食ったぜ……でも、このクソ苦い果実ですら、魔物の肉よりはうまいのな……」


 シャドーなんていう抽象的な存在なのに毒を食らう不可解な謎。だがそれでも死ねないと、俺は脳をフル稼働。もとい、脳超加速。


(毒……ステータスなんてものがある、異世界転移テンプレなこの世界のことだ。眠気耐性もあるなら、毒耐性も取れるでしょ)


 人の免疫力は、感情もとい脳の状態によって大きく変わる。ネガティブな人間が鬱になりやすいのは極論そこだと思う。だから俺は「病は気から」という言葉に全幅の信頼を置いている。「馬鹿程風邪をひきにくい」という言葉もあるが、要するに心ないしは思い次第で、人は耐性を得たり、進化したりするということだ。

 それが例え人に似た魔物だったとしても。


 生物本能として俺は想像する。毒の構造、どんな症状、強さは、この植物とはどういうものなのか。


(聡慧さんがいないこの現状、もはや免疫系のスキルは自己犠牲でしか成長しない。なら、死なない程度に食いまくるのみ! まあ、俺は体力回復する上に、痛覚耐性で痛みなんて殆どないから、不味さに耐えるだけだがなあ!)


 そう思い、種類問わず辺りの物を食っていく。魔吸収に女の子用の食料を確保しつつ。黄色いキノコ、紫色の草、赤い蛙に、変色激しい丸い何か。それら全てが異世界常識のシンプルな「毒」や、神経を硬直させる「麻痺」の毒を持っていて、一気に襲い掛かる。


 魔力を上塗りするようにHPを少量汚していく毒。だがそれが無駄とでもいうように対抗する回復。吐きかけたがそんな具合で、影の肉体は徐々に力を得ていく。気が遠くなるほど食べ、遂には肉無しで飢えを凌ぐほどまでに植物を食べてしまった。


(オ……オオ、オオオオオオオオ!?)


【免疫が一定になった。スキル「毒耐性」「麻痺耐性」を取得した】


 耐性を得た。ようやく。

 そして、またまたカゲハルはひらめく。


(成分調査ってスキルがあったな。Pも魔王のお陰で溜まっているし、毒物の確認にも、うってつけな気がする……)


 今取ったスキルは「成分調査」。能力査定とは従弟(いとこ)みたいなスキルで、こちらは物質に対して使えるものだ。試しにキノコに使うと、禍々しい説明文が出てくる。


【・麻痺茸 麻痺させる毒素を含む危険なキノコ】


(……まじで魔王様様だな)


 内心喜ぶカゲハルに思わぬことが。


【条件に適合。スキル「能力査定」「成分調査」「存知」を統合・改良し、スキル「知恵の詔」を取得……しました】


 言葉が敬語となり、意識があるかのような、そんな成長。

 ふと、脳裏に聡慧が浮かんだ。それほどまでに、その声は色を持っていた。


 知恵の詔。言ってしまえばインターネットのような代物で、ありとあらゆる情報を管理する能力だ。常時稼働すると流石に体に負荷がかかるはずだが、そこは痛覚無効や脳超加速で補う。


 次の瞬間、俺は無意識のうちに恐ろしく成長した。


【スキルの整理を実行します】

【「体力即時回復」「魔力即時回復」を統合し「生力即時回復」を取得しました】

【怨呪害憎怪との戦闘情報をもとにスキル「呪詛耐性」を取得しました】

【「眠気」「毒」「麻痺」「呪詛」に対する耐性スキルを確認。条件に適合。統合し「状態異常無効」を取得しました】

【「自然影響無効」「魔法攻撃無効」「状態異常無効」を「霊化」に統合し「真霊化」を取得しました】

【機能性向上のため、オリジナル魔法「シェドラ」を設定しました】

【個体:カゲハルのLvが175になりました】


 何やら恐ろしく改められている。そのことに既視感を覚えつつも、脳内に直接表示されたかのようなこの文字列を見る。


(ステータスも見ておくか?)


 ついでに表示した自己能力も、面白いことになっていた。

 実は今、なんとなくシャドーの状態にしているのだが、見事に攻撃力が0のまま。

 いつも通りなのだが、レベルが170を超えているにも関わらず関わろうともせず、その値は地蔵のように微動だにしない。


 ポイント制の値は数十万、各種力は数千。なのに可愛げもへったくれもない攻撃力。常日頃から強ければいいのに、と割といつも考えていることをボソッと漏らす。


「しかし、真霊化か。まあ、スキル以外の全てを通さないってことだよな。これ、もし『スキル無効』なんていうスキルが存在していて、取得した場合どうなるんだろう。『極霊化』とか『神霊化』とかになるのかな?」


 そもそも「スキル無効」というスキルは、Pの取得可能物一覧にも掲載されていなかった。だが、今しがた初めて設定した魔法「シェドラ」のように、オリジナルの能力は存在する。


 実際何を基準としてオリジナルなどと言っているのか、能力を始めとするステータスとはこの世界での何なのか。この世界のゲームじみた(ことわり)をカゲハルは理解できていない。


 だからこそ「スキル無効」の存在は賛否できない。拒否したくない。あるならとても欲しい。あの鑑賞者に永く楽しまれるのはとても癪だから、一刻も早くビンタしに行きたい。


(ビンタで済むかな…… いや、あいつはただ転生先を促しただけで、結局のところ実害は無かった…のか? いやいや! みつりとか貞治達と別れたのは辛いし、展開が早すぎて身も心も持たねえし、オーナメンタル許すまじ。ぐぬぬぬ)


 相手が完全なる悪でない事が理由として、引っ掛かりを作って歯がゆい。悩む俺は、得意の思考放棄で脳を黙らせる。


 知恵の詔が新たに追加してくれた魔法。それに思考を向ける。魔法は外部の魔力を操作する物。それを俺は過去の説明で理解してはいたのだが、実際に扱うのは難しかった。魔物だからか、スキルの方が扱いやすいのだ。


 手を、近くにいた小鳥に向ける。決して魔物がいないから対象にしたわけではない。その小鳥は足が異様に長く、その爪で大きい熊の魔物を串刺しにしていた故、一目見て魔物だと確信したからだ。


 小鳥の種名は「ビューリー」。強い毒を体質として持ち合わせているらしい。もちろん体表から出す訳ではない。その爪先から流すのだ。


「ピピピ!!」


 飛んできた。一直線に。熊の魔物は後で食べるとでも言うのだろうか。とんだ大食漢だ。いや、雌だから大食嫗だろうか。


『プスッ』


 相手の爪が肩にめり込む。

 しかし、そのまま通り抜けていく。

 スキルによって生成された毒ならいざ知らず。物体としての毒がそもそも当たるわけもなく。


「バッド、ラァック!!」


 不運にも人型になったシャドーからの見事なチョップを食らい、吹き飛ぶビューリー。

 そして追撃。


「シェドラァァアアア!!」


 見える陰全てから蛇が飛んでくる。

 そして噛み付くことなく、体当たりをするように小鳥の体力を削り切る。


(周囲の魔力を使用するから、スキルよりは負荷がないのか? でも威力が弱い…? それに外側の魔力を練るのは少しむずいし……なんか疲れるんだが?)


 場合によって使い分けるのもいいが、あまり使わないだろうと直感した。

 周囲に魔力が無ければ使えないうえ、魔物と相性が悪いらしい。魔力値がそこまで低くない俺からすれば正直無能だ。


 ビューリーが死体となって残る。

 HPを削り取れば体が残り、核を壊せば消え去るという、魔物の特徴を知っていたカゲハルは敢えて心臓部を外して外皮を攻撃した。

 そのお陰で肉と微量の羽毛が手に入った。


「毒抜きはよくわからんから、彼女には渡せねえ。俺の食材確定だな……」


 そこそこ食材も集まったので、歩みを家に向ける。

 日は落ち、闇が深い。

 そして、心もざわつく。


「なんだ……これは悪寒って奴か?」


 ブルっと。

 体が勝手に動く動く。

 足が(はや)る。知恵の詔が知らせる。

 あの子の家に、動く反応が二つあると。


(まさか!)


 木々を飛び越え、陰をプールとし、猛スピードで家に向かう。


 失神者を放置した失態をどれだけ後悔したか。

 家の前で、リーダー格の男が人質を取っていた。


「お、お前!! こここ、この娘をここまで綺麗に回復させたのはお前だろッ。その力、俺らに貸せッ!!」


 恐れビビっているのが見なくても察知できる。

 震え、怯え、どうも慣れていない。


「どうして俺が回復させたと? そもそも俺がその子を助ける根拠は? まずお前一人で人質取り続けられるのか?」


 相手を揺るがすカマかけ風の質問攻め。


「し、質問すんなッ!! お前は、はいって言えばいいんだよッ!」

「無茶くちゃだ。交渉って言葉知ってる? 互いの利益をだな……」

「か、関係ないね。お前がこいつ助けていたのを俺は薄目で見ていたんだ! お前が、こんな汚い存在を助けるほどお優しいのを知っているんだぜ?」


 相手が行動する理由には十分だった。

 だが、どうも相手が悪かった。


(…………………あ、キレそう、これ(諦)…………)


 世界が、止まって見えた。


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