37 魔法操作
展開が結構スローだったので、早めに物語が進行する気がします。
洞窟を中に持つ大きな山を抜け、謎の声・オーナメンタルに話しかけられて名前を貰い、みつりを探す冒険を始めた俺こと「カゲハル=オーナメント」。
時間は昼となり、腹も唸って止まない。
その都度俺は魔吸収内の肉塊を魔力へと変換する。
架空の腹は鳴り止み、それにつられるように辺りの木々が、なびき喜ぶ。
ここはバビリア山から北西に向かって伸びる森林地帯で、見渡す限り植物が生い茂っていた。
とは言っても、「うっそうとしたジャングル!」という訳ではなく、花や果物が綺麗に咲いた、言わば童話の様な世界が広がっている。
その景色を存分に堪能したかったが、それを後回しにしたのだった。
「さてと……」
何故そうしたか。
理由は単純。
確認したいことをいくつか持っていたからだ。
まず一つ目。
(とりあえず、ヴェルディのお陰でPが溜まったから、何か取るか…… あ、しまった。Pについてオーナメンタルに聞くの忘れてた……)
後の祭りな後悔をしつつ、脳内にスキル取得を想像。
同時に、能力査定の感情の籠っていない声が響く。
そして、俺が選んだスキルは…
「『無効貫通打撃』っと…」
そう。
彼の魔王が使用していた便利な技だ。
そして、気になっていたことをこれで試すことができる。
(俺がシャドーの時、攻撃力がゼロでも壁とか自然の物質は壊せたのに、魔物とかの動物に攻撃が通用しなかったんだよな。だから、シャドーの時と人間に化けているときの攻撃判定を調べたい……)
いつぞやバビリアエルリザードと闘った時、自分の爪がまるで役に立たなかった。
お陰で爆弾石で倒す羽目になったが、よく考えたら辺りの動物以外、植物などの破壊はできた。
攻撃力の判定が曖昧なのだ。
そこで、どこぞの料理番組よろしく俺は、体力がよく似た敵意むき出しの狼型の魔物「ヴァウル」を二体、影操作で拘束して用意した。
少し離して座らせた二匹は、今もなおヴー、ヴーと唸って恨めしそうに睨んでいる。
「まずは、何もスキルを使わない時の攻撃をするか…」
その言葉通り、シャドースタイルと人間スタイルで、それぞれの魔物を幾度か強く叩く。
少し可哀そうだが、そこは心を鬼にして向き合った。
結果、シャドーで攻撃した方のヴァウルは無傷。
対してもう一方は少し打撲あとみたいなのが残っていた。
(次に…)
スキル「無効貫通打撃」を少量込めて、拳を放つ。もちろん、二つの状態で。結果はさっきと全く似通っていた。
「うん、やっぱりシャドーの時は、動物に攻撃が通用しないっぽいな。ゼロに何かけてもゼロ、言うまでも無く」
攻撃力や動物の仕組みについて考えていると、天から声が。
【・外皮 動物に含まれる体の特徴。外皮の厚さはそれぞれだが、その内側に生物的領域が存在する。これを破壊するには攻撃力が必要】
【・無効貫通打撃 自信の攻撃力に魔力を乗せて放つ攻撃スキル】
急な説明にドギマギしつつも、新たな知識と納得を得られて少し満足。
シャドーの時は大元の攻撃力が無い故に、魔力が乗せられず、無効貫通打撃が上手く繰り出せないという事。
つまりシャドーの時は殆ど攻撃できないと思った方が賢明だ、と感じた。
「そういや、無効貫通打撃は一応魔力を使うスキルだから、シャドーみたいな気体・非物理の魔物に対しても有効なんだろうな…… もしまたあの魔王みたいな奴が来たら注意しないと」
自身の保全のため、頭の片隅に置く。だが自分でも忘れる気がしてならず、溜息を漏らす。死なないといいが、死はすぐそこにある。至って普通だがそれが異世界だ。
謎の攻撃力ゼロ問題への対応が終わったので、次は影操作について。
「影操作がどのくらいの影から使用可能なのか、確認しておこう」
そう呟き、傍らに縛られたヴァウル達を躊躇いなく捩じる。しかしまだ現代人としての戦素人感がしこりを残していた。
「すまんな、この世は弱肉強食だ。そして俺はただの影で自然現象ってことで、仕方なく摂理へ帰ってくれ」
魔吸収で吸い込み、スタミナへと還元。まあ、欲張りの影響でお腹が無限に空き、幾度となく殺戮摂取してきたから、もう悲しみなど抱いている場合ではないのだが。魔物になり果てるのが怖いのか、それとも偽善か、仏心を忘れられない。
ごちゃ混ぜの精神を、胸を叩くことで支えつつ、森の中を進む。その道中、扱いが不慣れだった浮遊や強化障壁を、無駄に使用して練習した。お陰で思った通りに作動し、安全に使いこなすことができるようになった。
(そういえば、フェアリーとか魔王が、詠唱していたっけ? ラノベとかじゃ詠唱しない方が強いイメージがあるけどどうなんだろう。想像力の補助になら短い詠唱でもプラスになるのではなかろうか……)
無駄に多い練習に、無駄な考えが。まあ、完全に無駄ではないのだからいくらでも考えればいいのだが、元居た世界では「詠唱イコール中二病」がレッテルだったためどうも抵抗がある。しかし、今は誰もいない。思う存分試してみようと、息を吸い、手を合わせて中指薬指のみを折って絡める。
「えーと…… く、暗き門、今こそ力を解放せし、めし。うーん。違う、こうじゃない」
締まらない俺である。
「あ、そういやなんか皆、短い文で言っていたな。確か属性とその大まかな効果を喋ってたか? なら……闇操の陣……で良いんだよね? ―――『影操作―シェドラ』!」
やはり締まらない俺である。
だが威力は申し分なく、歩きながら打った一匹の黒い蛇は木々をなぎ倒し、そして食らった。紛れもなく荒らし(迷惑行為)である。ゲームならキレられても文句は言えない。そしてその出処は彼自身の影。
「俺の昼間の影なら、全然影操作が使える……と」
とはいえ、狂乱や夜魔多のオロチなどの効果は無いため、威力は弱い。だが、魔力即時回復のお陰で、出せる量に殆ど制限はない。
それも含めて確認を取った後、彼は水溜りを見つけた。
水溜りと言ってもアメンボがいる程度の小さいものではなく、湖と呼べるような大層なものではない。そこそこ広くて深い、ただそれだけ。
そして、俺は水中での影操作を試す。
「詠唱は……いらんな。威力はさほど変わらんし」
無言で水中に意識を向け、魔力を想像。するとテンポよく水深数十センチの所で、黒い霧のようなものができた。そこから粘土をこねくり回すようにして、上へ上へと伸ばしていく。
気が付いたときには、水面から影操作によりできた魔力の塊が、どこぞの国民的アニメキャラを模していた。
(自主規制して、名前は挙げないでおこう……って誰に言っているのか分からないけど)
我ながら恐ろしい創造力と想像力だと再認識し、この頭のお陰でスキル慣れが早かったのか、とも思う。
光が割と差し込むこの水中でも、そこそこ深ければ問題なく作動することが分かったので、検証は以上となった。
俺は作り上げたものを、その場で飛散させた。黒い塵のようなものになり、最後にはそれが見えなくなる。
(力作だったけど……まあいいか)
若干名残惜しいが、仕方ない。別にいつでも作れるしな、と諦める。
ふと、水溜りの近くへ寄り、そして水面に映る自分を見て、驚いた。
「お、俺……かっこかわいくねえか!?」
男性、女性。その前者でも後者でもない風貌。現代社会ならまず間違いなくエンタメや芸能向きだが、ここではただの美人。別に特別嬉しい訳でもないが、悪い気はしない。
俺は嬉し気に、映る自分をまじまじと見た。
「髪はこれ紫か黒ってところか? で、もみあげって言うんだっけ……がなんか手みたいだな。知らずしてこうなってたけど、これはこれでアリだな。後ろの余分な髪はまとめてくくってみるのもいいかな? ま、髪留め持ってないけど」
そこら辺の植物で代用できそうだが、それするくらいなら既製品買うわ、という結論に至った。
回復水しか水が存在しなかったあの洞窟。地下水とかならあっただろうが、不幸にも見つけられなかった。そんな俺が久方ぶりに見つけた大きなオアシス。することは決まっている。
バッシャーン。
皮の衣類一枚で、辺りには誰もいないので、普通に飛び込んだ。
魔力で捏造した体だが、感覚があり、再現度は激高。
日の光でほんの少し温められたこの水が心地よい。水溜りとは名ばかりで、腕くらいの幅しかない小さな川の途中にあるため、水の交換が成されていて透き通っている。これほど良き良きなシチューは無いのではないか、そう思いVIP気分で好きに水浴びをする。
再び温泉へ行きたいなどと考えてもいる。
しかし、事はそう上手くは行かないものである。
ガサガサ。がやがや。
遠くの方にて、何か聞こえる。
何かが起きる、予感がする。
スッポンポン状態の俺は、とりあえずのゴブリン装備と毛皮を身にまとい、水から飛び出して音のする方へ向かう。
存知には、丁度五人引っかかっている。
何というか、一人を四人が囲んでいる感じ。
気配だけでも面倒くさそうなのが手に取るようにわかる。
引き返すかとか、無視するかとか、考えてしまうあたりまだ陰キャっぽさが残るが、そんなことより体が動いている所、やはり情に厚い所があるのかどうか。
木々を避け、花を踏まぬよう浮遊し、霊化最大出力で見えず触られずの俺が近づいて目の当たりにした光景は。
白髪の少女がいたぶられている惨状だった。
男と女混合の四人に。しかもそいつらは大人だろう。一対四。タイマンでやればいいものを、もはや景色はリンチだった。




