28 一筋ノ光
「おいおい、マジか。何だこいつ」
相手は、能力査定されたことにすら気づいてはいないだろうが、こちらは十分驚かされてしまった。
ステータスは出るのに、その存在を証明するのは「怨呪害憎怪」という名のみ。
レベルはバグり、スキルも魔法も基礎能力すら見えない。
ただそこにあるだけなのだ。
いやらしいのが、阻害されないことだ。
阻害されなければ、結果は平行の一途。
どう足搔いても、こいつがこいつという事しかわからない。
『おお、なんとも奇怪な…… ようやく見つけたか、シャドー』
脳に響き渡る肉声。
これまた懐かしい。
何故か、多く口をはさんでこないから、いつも忘れそうになる。
でも、絶対に忘れない。
「お久だな、バテック」
しかし、浸る暇も隙も何もありゃしない。
相手は恐らく、聡慧すら予測不能・解析不能の緊急事態。
油断一つが命取りだ。
すぐさま影操作で、辺りの陰から、針だの手だのを出してみる。それ全てが黒く、まるでこっちが怨霊か怪異だ。そして、その全てが相手にクリーンヒット。針は刺さり、手はビンタを繰り返す。時たま拳も飛んでいき、どこぞの機動戦士やロボットを彷彿とさせる。
「ぐ、酷い。だが、痒い、脆い」
効果は薄そうだな。
まあ、ステータスがないとはいえ、恐らくは闇か霊属性。空属性もあり得るか。
そんな奴には、まあ闇は効かないわな。
なら、光か?
だとすれば、あの妖精女王の「聖界の光線」とか、爆弾石が有効か?
それも効かないなら、たい――――
『何やらまたスキルを取ったらしいな。このスキルが我にも並立して使われるお陰で、我も同じ速さで思考ができる。いいなこれは』
「そうなんだ」
面白いこともあるもんだが、一旦解除させてもらおう。
こっちに向かってきている馬鹿共に、きつく言ってやらないと。
俺は呪いを避け、スキルを解除。
辺り一帯の時が早くなり、呪いの息吹が自分の下を駆け巡る。
それが切れた瞬間に着地。
過去の人見知りかつ臆病な性格はどこへやら、とにかく大声で、来た者たちに叫ぶ。
「おい! さっさと離れろ! 死にたいのか!?」
もう敬語なんてどうだっていい。
この世界じゃ、それを使う機会は少ない。
生きるか死ぬかのこの世界で、細かいことはドントニード。
さて、俺の意思は伝わったかどうか。
「そんなことできないよ! それに、君一人でどうやって勝つのさ?」
負けじと一際声を張り上げる、優しそうな顔。
そこには先ほどまでの疲労感は見られない。
一点の曇りもない、純潔な善意。
「……私たちも……加勢する……」
小柄で、フードに隠れる美顔が覗くその少女は、相変わらず人見知り全開で、それでもなお頑張って話しかけてくる。手にダガーを握り締め、スーツの身を震わせて。
「特異な魔物であるあなたに、今は協力します。だから、無謀に突っ込むのはおやめなさい」
「加勢加勢!」
「加勢します!」
「加勢するよー!」
スワイフ、ペルシ、ハイ・フェアリ、その他妖精たちが、一斉に駆けつける。
というかハイ・フェアリ、無謀は余計だ。
俺はちゃんと考えている。
何も無策ではない。
俺は、一つの窓口を用意していた。
それは、手法という意味もあるが、本当に窓のようなものでもある。
ただし、「魔吸収の出入り口」が正式名称。
では、魔吸収が何の役に立つか。
「物理、効かないらしいけど、果たしてそうかな」
俺は懐から爆弾石を一つ出す。
そして投げつける。
「プロ野球選手ほど肩強くはなかったけど、今の体なら、矢に並ぶくらいのスピードが出るんじゃないか……な!」
爆弾石が空中を回転しながら舞う。辺りに光を巻き散らし、イルミネーションとはまた違った良さがあるそれは、空気との摩擦で徐々にエネルギーを引き出す。
「グガ嗚呼ああアア!?」
炸裂する熱と爆音を出し、俺自身も吹き飛びそうになる。
やはり、こいつはアイツに使える。
爆弾石。
ただし、炎が効いたわけではないと推測する。
恐らくは光か。
ならば。
「ハイフェアリ! 光の魔法はお手の物だろ! 少しでいいから、こいつに当てまくれるか?」
そのプレッシャーを与えるような問いに、妖精の長たる者、応えないわけにもいかず。
「できるとも。見くびらないでもらいたい」
「別に見くびってなんかねえよ。とにかくこいつが邪魔だから、さっさと消したいだけだ」
シャドー。陰繁治は、ゲーマーだ。
常に探求心を持ち、勝利のために何もかも使う。使える手立ては全部まとめて。
どれだけ拒否されても、その手を引っ張り出し、自ら投げて、叩いて、掻きまくるだろう。
それでも、今回は拒否されなかった。杖が、槍が、自ら協力してくれた。
彼だけが頑張る必要はなかった。
「ふん。この洞窟全体に悪影響を及ぼす怪物…… あれだけは、この者以上に消す必要がある。ここを調定するものとして」
ハイフェアリが、短く詠唱をする。
辺りに煌めきが、地割れを作る様に走り、天井からツタ、床から花が生える。
白と金、少しの青と緑が混じり、その色は、虹よりも美しかった。
冒険者二人の表情もその光景で、ますます良くなっていく。
「光縛の陣——————『イグ二カル・ライト』!!」
一斉に明かりが走り、洞窟が、整備された地球のトンネルのように明るくなった。
彼女の得意技は、光系統の魔力操作。
その威力は言うまでもなく洗礼されている。
故に今、怨霊の足を完全に止めることに成功。彼の要望に完璧に答えていた。
ハイフェアリ。
その凄さを更に裏付けるのが、冒険者二人の、健康体と病を感じさせない表情だ。さっきまで這いつくばっていた二人が、彼女の使う「キュアルン」というスキルで、傷も呪いも消え失せているのだ。傷は、シャドーがかけた回復水でほとんど治癒していたが、残っていた体の疲労などすらも去っているのがまた凄い。
風前の灯・虫の息。それを一気に、火事・飛行機のエンジンに変えたわけだ。
キュアルンは魔法。魔法は正直なところオリジナルが殆どだが、これは基礎的な回復魔法の形の第三形態。「キュア」「キュアル」と来て、これ。その力は増し、治せる個所も増える。
しかしそれ故に、使う魔力も多くなる。
魔力をケチり、少なくすれば、効果も下位の技並みになってしまう。技の基本構造だ。
メリットばかりではない。
デメリットもある。
そして、このキュアルンと、威力の高いイグニカル・ライトを使用した今の彼女は……
「く……持って、あと数十秒が限界か……」
自分の内の魔力が、メリメリと剥がれていく。
それでも、何かしら彼に策があるのなら、賭けるしかない。
正直、「聖界の光線」を放てば勝てるかもしれないが、もしそうでなかったらどうか。自分のこの攻撃を、払い除けてしまった彼が、苦戦している相手。そんなものに自分のこの奥義が通用するのか、怖かった。
「うーん!」
「ふーん!」
「がんっばれー!!」
辺りの仲間も、全力で魔法を彼女にかけている。
それは攻撃でも回復でもない。
技名は違えど、個人個人の付与魔法だ。
攻撃力上昇、魔力吸収率アップ、魔力消費緩和、スタミナ消費緩和など。その効力は微量ながらも、数が集まれば強くなる。
(全く……こうなればやるしかない……か……)
彼女は全力を尽くす。そう誓う。
体外の魔力をかき集める。練って練って練りこんで、馴染ませて。
ある程度集まれば、光の槍をイメージする。そして陣を形成し、発動しやすくする。
(あと、少し……)
少し足の感覚が薄れてきた。
痺れ、震えが止まらない。
MPどころかSPが減り始めている。しかしそんなことは彼女自身知らない。
そこには行動理由などない。意志だけだ。
イグ二カル・ライト併用で、技を打とうとして、意識が飛びかけたその時。
「聞こえるか!? 聞こえてるか、わかんねえけど、とにかく離れろおおおお!」
つい今の今まで、全く気づけなかった。
横にいる二人も、何もできずにその光景に、顎を下げ切ってしまっている。
私も意味が分からなかった。
その者は、目の前に巨大すぎる、エネルギーの塊を持っていた。
塊の半分くらいが、魔法陣のようなものから出てきている感じだが、とにかく破裂しそうだ。
場の空気はそれと反して凍りついた。




