27 影魔vs霊
幽霊を見たことはあるだろうか?
今から何万年前はどうか知らないが、地球では大古より、オカルトが仄めかされてきた。それは宗教でも化学でもいい。ネッシーやUFO、神や神獣、天使に悪魔、魔法に魔術に錬金術、呪いやまじない、伝承やおとぎ話なども含むか。その中でも、未だに謎多き存在。魂など、解明の難しく、信じるか信じないかはあなた次第な、そんな未知。精神、心理に関する哲学を悩まし続ける元凶。それはどの世界にでも存在する。
それが、ザ・オカルトなこの世界では、尚更、それを異端とは思うことも無く。
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俺が奴と出会ったのは、相変わらず日が見えない、暗い暗い洞窟で、スライムと別れようとした瞬間だった。
解析変化体、そのスキルによる繊細な感覚と「存知」で、風の流れを感じ取ったのが救いだった。
俺がスライムとの戯れを止め、歩いて行こうとした瞬間に。
『ズドドドドドドドドド』
と、何かが地面をえぐり取っていった。
俺は間一髪のところで、後方に跳ねたから良かったものの、かすり傷がついてしまった。
少し話を遡るが、この肉体は、ただ幻術のように見た目を変えているだけではなく、細胞レベルで再現している。臓器はないけれど、体の中には空洞のような異空間のようなものが広がっている……気がする。
魔力の代わりに、その空間にある魔力の血を流すことになるが、目が見え、鼻も効き、耳も聞こえる。シャドーの体では散漫だった感覚が、ハッキリと自我を持ったように精密になる。存知と合わせれば、まず間違いなく最強の体だ。まあ、相も変わらず、攻撃力はないんだろうけど。
傷口が痛んでくる。紙で切った指の様にゆっくりと。シャドーの今とは違い、懐かしい痛みだ。
…………
痛いよおおおおお!
俺は痛いの苦手なの!
もう嫌になってくる…………
今までは仕方なく戦ってきた。今もそうだ。背水の陣って奴だな。
でも、今は戦いが苦でもないと思ってきているのもまた事実。
何故なら、ここはFFFよりも、クズでサイテーで、最高にゲームな世界だから。
そして、俺はもう、過去の「陰繁治」ではないからだ。
強く保て。何も格好つけられるような、プロ武闘家でも陽キャでもないけれど。
それでも足搔く。
影の暗躍者、悪に対抗する悪。それが今の俺だ。
流石に何回も解析変化体を解くことはできない。その度に魔力を浪費するからな。
それではいつ何が来ても対応できないし、何より俺は元ゲーマーだ。
何か出来そうなら、こんな一発勝負の無理ゲーでも、作戦練って全力で挑みたい。本当のプロは技の消費タイミングを知っている。
しかし、俺は物理・魔法の攻撃無効を持っているんだぞ、それでも傷がつくってことは、スキルなのか。
それでこんな、ロケットを真横に吹っ飛ばしたような跡をつけられるってことは、相手は相当の手練れか。
斬撃が来た方を俺は見る。
暗がりでどうも見えにくいが、何かが蠢いているのは見える。
洞窟の後方から、多くの者が追ってきているのもまた感じる。
ははーん。
さては俺の頑張りを他所に、ノコノコついてきたな。
俺はビビったり憂鬱になっても、倫理には忠実に動くタチで、どうも自分でも矛盾しているなと感じはする。
それでも今まで生きてきたし、頼りにはされていたと思う。
それは嬉しかったし、強くなってこられた。
それを無駄にするように、逃げずについて来るとは……マジKYだわ(棒)。
まあ気にせずに行きましょう。
ええと。
あ、そうだスライムは……
見事に弾け飛んだ跡があった。
地面に、血飛沫のように、青い液が散っていた。
「え……なんで……」
そういえば、さっきの斬撃の時に……
「そん……な……」
体から力が抜ける。
情を注いでいたのに。
両膝、両手をつき、項垂れ、悲しみ。
目の前が真っ暗に、真っ白になる。
「く、はははは……はははははははは……ああ、やっぱこの世界」
いつの間にやら声が漏れ、体から怒涛の勢いで感情が流れ込んでくる。
ダムにひびを入れ、怒りが憤怒へ、憤怒が激怒へ変わる。
たったスライム一匹で何という様か。
それでも、なんとなくやるせなかった。彼にとっては、それだけでも。
人見知りや、異世界への慣れで、感情にストッパーがかかっていたのに、その鎖を引きちぎった。
「マジでクソゲーだな」
もう流石にスライムちゃんに構ってはいられない。
心の中でせめて、弔いの念。
手を合わせる。
これだから、過度な馴れ合いは怖いんだ。
そして振り返る。
もう情だの何だのを、気にするのは無しだ。
倫理に従っても、肩入れ・馴れ合いはしない。
もうごめんだ、バテック蘇生させて、さっさとうまい飯でも探そう。
俺から何かが剥がれ落ちたとき、そこに迫る者たちが。
そこには、幽霊がいた。
いや、厳密には怨念か。
「のおろおおおおおい!!」
初対面で挨拶は無し。
随分とおっかなくて、異世界らしいわ。
俺はテンション任せに、適当に頭の中で動きを作る。そしてそれを真似る。
バトルアニメを見ていた経験が生きたか、俺の今の体だと、前世のアニメのキャラ並に迫真の動きができた。
壁に向かって飛び、そこを蹴る。
地面に手を伸ばし、そこで跳ねる。
脚を張り膝を緩め、そこに降りる。
単純な動作だが、反射神経鍛えたただの人間にはこれでも十分な不可能運動。
筋肉もモリモリ無ければ、頼りになるのは魔力による増強と柔軟性のみ。
【スキル「跳躍」「反射神経強化」を取得しました。熟知し、スキル「飛翔」「脳加速」を取得しました。熟知し、スキル「浮遊」「脳超加速」を取得しました】
久しぶりにうるさい強化報告。
いつの間にやら熟練通り越して、浮遊ができるようになってしまった。
だからって今は使えない。
この狭い空間で、範囲攻撃と思しきあの「のろい」の言葉。あれを躱すには、慣れない技は使わない方がいい。
寧ろ足枷、命取りになりかねない。
それよりもありがたいのは、脳超加速。反射速度、演算処理が格段に上がる優れもの。
まあ演算とはいえ、周りが遅く感じるからその間に頭を普通に使える。つまり周りからは俺が超速く考えを巡らしているように映るという物。
便利だ……
今まさに、あの怨霊の動きが超遅く見えている。
これぞ正真正銘の「止まって見える」か。
感慨深いねえ。
相手がスローに喋りだす。
「のおおおおおおおおおろおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいいいいいい」
もはや不細工にしか聞こえないが、彼にとってはそんなことはどうでもいい。
大事なのは、この「複数顔面貼り付け球体」のステータスを見ること。
怒りも悲しみも、憎しみも苛立ちも、この魔物一体の前には、無力、無意味、無能。
ただ等しく、査定されるのみ。
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ステータス 怨呪害憎怪 Lv??? 対象外です
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しかしながら、解析したこっちも、行為に無意味の判を押されてしまった。
この怨念は、魔物ではない。
それどころかこの世界の何者でもなかった。
何を以てしても無理らしい。
ステータスを阻害されたわけでないのがその証拠。そもそも解析とかそういう次元に留まるレベルの相手ではない。該当種族とかそういった全てが当てはまらない。
その事実に、俺はただこう言うしかなかった。
「は?」




