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other 異変調査Ⅱ

「掛けてくれたまえ」


 そう言い、冒険者一行を長いソファーに座らせる。

 対になっているソファーに、王も座った。

 日は徐々に傾き始め、客室の中にも橙色が眩く光る。


「で、話す必要はあるかな?」


 王は単刀直入に聞いた。

 正直、時間は無い。

 彼らの反応から、おおよそ受け入れてくれるものだと思っているが、もし断られた場合、急いで街を警備しなければならない。

 バビリア洞窟は、世界でも二か三番くらいには危険度の高い場所。

 資源の割に魔物も多く生息し、いつ何が起こってもおかしくはない。

 もしかしたら、魔の軍勢が押し寄せる可能性だってあるのだ。

 原因不明の死。それをもたらす魔物など聞いたことがない。

 あそこでは何かが起きた。

 それを突き止めるのもまた王の仕事なのだ。


 さて、どうか。

 賛成か、反対か。


「必要はない。俺たちは依頼を受けさせてもらう。何が何でもだ」


 返ってきた解答で、呆気にとられそうだったが、胸を撫で下ろす。


「君が彼らに伝えておいてくれたのかな」

「はい。一応城の中で伝えましたが、余計……でしたか」

「いいや。良い判断だ。事が早くて助かる」


 このことを四足の輝龍に言っておいてくれたのは、遣いだった。

 公で言ってくれては困るが、どうやら城の中で話してくれたらしい。

 良い部下を持ったな。


「では、何故そんなにやる気を出してくれるのか、聞いてもいいかね」


 そう聞いた。

 話を始めようとした隊長格・ケビンを差し置いて、サーリアが話す。


「私たち、あの洞窟に行ったことが無くてですね。パーティーの強化も兼ねて、調査をしたいと思ったからです!」


 元気よく、喜々揚々と言葉を出す。

 身を乗り出して、子供の様に無邪気に。


「おい、国王の前だぞ! そんな俺を押しのけて話し進めなくたっていいだろ」

「なによ、いいじゃない。私だって新魔法試したいもん!」

「こら、二人とも!」

「……」


 ケビンが主張、サーリアもはきはきと、スワイフは宥め、ペルシは……人とかかわるのが苦手と聞いたが、それでも彼らを微笑んで眺めている。

 なるほど、見事な一行だ。


「まあまあ、意気は伝わった。ありがとう、感謝する。君たちのような者に出会えたこと、正に誉よ」


 王の言葉に、四人は戯れを止めた。


「洞窟調査。君たちにまずは一任させてもらう。改めて、よろしく頼む」

「あ、ああはい!」

「こちらこそ!」

「頑張ります」

「……任せて」


 日はまだ沈まない。

 彼らの勇姿をその光に焼き付けるから。

 世間で波乱が起きようとしていたこの時、冒険者一行の突撃が決まったのである。


 睡眠、食事、旅支度。

 四人は調査に備えて、城でもてなされた。

 そこで疲れを癒し、万全の状態でのスタートをきれるように、入念な準備をする。

 飯は美味く、布団は暖かく、渡された装備は揺ぎ無い強さを秘めていた。

 ダイアモンドを始めとした数多くの鉱石・宝石が、ふんだんに使われている装備品、王国の宝物庫にあった物だという説明を四人は受けた。恐れ多いと断りかけた一同に、王は躊躇いなく薦めたのであった。

 一級品に見合うだけに、軽さや丈夫さを肌で体感できる。

 それに加え、食料・付加飲料(ドーピングアイテム)・大まかな洞窟の地図などを貰い、支度は万全となった。


 日が昇り始める。

 冒険者の朝は早い。

 自分に出来る仕事を探すために、一番に集会へ向かわなくてはならないからだ。

 が、今回は勝手が違う。

 寝られるだけ寝て、一切の疲れを取り除き、二度手間にならぬよう、完璧な出動をする。


「よし、みんな準備はいいか?」


 ケビンの生気に満ちた声が、城内を駆け巡る。

 それに反響するように、メンバーの声が追う。


「うん!」

「大丈夫だ」

「こっちも行ける……」


 ロビーに四足の輝龍が揃った時、彼らと城の入り口を結ぶ直線の先にある、大きな階段から、王ヨネス・バ・ラルシアが下りてきた。


「出発の準備は出来たか」


 王が機嫌良さそうに、労うように尋ねてくる。


「はい。色々とありがとうございました」


 ケビンに続き、仲間各自も礼をした。

 いよいよ開始。

 本当に重要な調査になるかもしれないため、お互い緊張している。

 しかしどちらも覚悟は決めた。

 王も冒険者も今は、やるべきことをしっかりと見据え、姿勢を整えている。


「では頼んだ」

「「「「はい!」」」」


 声がまた響く。

 兵により出入り口の大きな扉が開けられ、朝日が眩しく差してくる。

 戸をくぐり、一行は進みだした。

 国の外、バビリア洞窟へ。



        □□□



 洞窟で、サーリアがオリジナル魔法「風殺」を試し、一行が大量のバビリアフラッシュカスターの足跡を発見してから、数十分。

 既に通られた場所が示された地図を以てしても、複雑な道の所為で探索するのは困難で、とにかく広かった。

「バビリア山」という山とその周辺の真下に、根を張るように広がるこの穴は、未だに未開の地が多い。

 何せ魔物が千差万別だからだ。


 人族(にんげん)を始めとする、知能を持った者は、魔物を強さで分けた。

 上中下、その中で更に三つずつに分け、計九つのランクに区分していた。

 例えば、一般人には対処できないが、雑魚扱いのスライムは「下の中」。

 この洞窟にも稀に発生するフレイムやシャドーは「中の上」。

 カルデラヒートという四足の輝龍が討伐したドラゴンは「上の下」。

 このように表わされる。


 また他にも、先述のランクを逸脱したものには、豪・極・神といった表し方もしている。

 例を言えば、今は九人存在する魔王、転生者や勇者が豪や極に当たる。

 神級は、御伽噺や伝承で伝え聞く魔物しか当てはまらず、現状誰も気にしてはいない。


 魔物はこのように分けられるが、この洞窟では、上中下の全てのランクの魔物が生息していると数十年前に知れ渡り、あまり素人の冒険者・探索者は近づかなくなってしまった。

 地図が途切れ途切れなのはそれが所以(ゆえん)だ。


 それでも、四足の輝龍は足を止めない。

 任務という理由。

 責任という理由。

 鍛錬という理由。

 どうあれ、彼らはこの探索が深い意味を成すと、直感していた。


「結構いい素材があったな。スワイフ、荷物は大丈夫そうか?」

「もし強敵がいたときのために、これくらいであとは探索に専念しない?」

「わかった。よし、じゃあこっちに行こう」


 調査のついでに、少しは利益を求めた一行。

 スワイフの提案を呑み、ここで採集は止めた。

 あとは少し練り歩き、先遣隊及び死因を探すのみ。


「ねえ、私の魔法どうだった?」

「……すごかった。独自の物……かっこいい」


 女子が会話に花咲かせている。

 気を抜きすぎだとケビンに咎められ、サーリアは彼と口論。

 ペルシは我関せず、スワイフが宥めるといういつもの感じに。

 なんだかんだで、彼らのチームワークは良い。

 これでずっとやってきたのだから。


 しかし、時というのは不意に訪れる。

 足音さえ一切立てず。


「サーリア、別に会話を止めろって言っている訳じゃな……」

「どうしたのよ」


 急にケビンが息を呑む。

 否、止めているのではない。強い苦痛に抗っていただけだった。


「ケビン!?」

「ぐ、ぐは、がぁ痛い痛い!」

「土、大地の御助力を、御力を、与えください。『サンディック』!」


 サーリアがケビンを支え、スワイフが咄嗟に魔法を詠唱し放つ。

 ケビンの背後に続く洞窟は、松明で照らされず暗い。

 土の魔法がその闇に消え、その効果あったか、ケビンの表情が少し和らいだ。

 どうやら、何かが彼に刺さっていたらしい。


「大丈夫!?」

「い、いや全然……。治癒薬、あるか……」

「待ってて」


 ペルシが急いで袋から付加飲料、別称ポーションを取り出す。

 傷を癒す薬草入りで、瞬く間に負傷を治す物だが、何故かケビンには効果が薄そうだった。


「な、なんでだ。まだ少しふらつく……」

「どうして……」


 焦り、戦慄、胸騒ぎ。

 一同が今までにない感情を抱き始めたとき、事は急進。


「お、おい。みんな……なんか聞こえないか?……」


 スワイフが顔を青ざめさせる。

 そこから聞こえるのは、認めたくないまでの音声、怨声。

 決してこの世のものとは思えない、王に見せられた過去の調査報告の魔物にも居なかったもの。


「……聞こえる」

「……ほんとだ」


 彼らはこの探索が深い意味を成すと、直感していた。

 そして、冒険者の勘というのは割と当たるものだ。

 それが自分たちに不利だとしても。


「辛い」

「眠い」

「苦い」

「痛い」

「寒い」

「苦しい」

「妬ましい」

「羨ましい」

「憎い」

「悪い」

「食べたい」

「喰いたい」

「憂い」

「重い」

「痒い」

「酷い」


 目の前には、化け物がいた。

 正真正銘の、上の上。

 いや、豪級か。


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