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other 異変調査Ⅰ

 壁面。

 強固な岩肌は、洞窟の入り口よりも意気揚々とするかのようで、触るだけで少し痛く感じる。

 冷たい空気。

 高い天井。

 それらは、入り口から何も変わっていない。


 強張る空気。漂う煙。

 少し広まった空間は、もう洞窟の中央に近づいてきているがために温もりがなく、その場に冷気を散らせていた。

 それはいつものことなのだが、今日ばかりはどうも、いつもよりも酷く寒い。

 その原因は、遡ること数日前となる。



       □□□



 その日は快晴の空が、満面の笑みを浮かべていた。

「バビリア洞窟で不可解な魔力が観測された」との報告が、諸国で上げられたのはその刻の事。

 この世、別名「アース」には十の大陸があり、国も数十個ある。

 バビリア洞窟は、全国の内の三国によって保護・使用されている。そして、その三国というのが今言った諸国だ。


 事の始まりは、三国の内の一つである「ラルシア」という国。

 そこに一人。逃げ帰ってきた者がいた。


「た、助けてくれ!」


 バビリア洞窟の出入り口は、三国方面にそれぞれ一つずつの計三つある。

 洞窟を真下に持つ山、バビリア山を中心に、北西、北東、南に三国はあり、その北西がラルシア。

 今逃げてきた者が、コンパスの北西向きに逃げてきたのはそういうことである。


 王国の大門。

 全体を岩壁で囲うこの国は、その門も整備が行き届いている。

 勿論門兵もいるわけで、ボロボロの装備で片足を引きずり、顔を歪めるその者に、彼らが気づかないはずはなかった。


「どうした!?」

「大丈夫か? 何があった?」


 駆け寄る二人の兵に、恥も外聞もかなぐり捨てて、その者は答えた。


「ば、化け物が、出たんだ……。せ、先遣隊は恐らく壊滅した……」


 化け物————

 その言葉に、流石に兵たちも緊迫せずにはいられなかった。

 この世界での先遣隊は、魔物がいるかもしれない異常時に現地へと赴くため、そこそこの強者を編成する。その強さは、戦闘者の強さを10ランクに分ければ、上から3番目ほど。

 つい三日ほど前にそれが洞窟へと向かったのだが……


 「そこそこの強者」とはいえ、一人一人が、中の上の魔物相手に個人で挑めるほどの実力者である。中の上は丁度、「バビリアエルリザード」の強さ。二から三人の冒険者が挑んで勝つことのできる魔物であり、それに一人で勝てるというのだから、強さが窺えるというものだ。

 そんな強者の集団が、壊滅。

 帰還成功者はこの者たった一人。

 今、あの洞窟では何かが起きているのだろう。

 想定を遥かに上回る何かが。


「取り敢えず王に報告と、君の治療だ。立てるか?」


 日の位置は依然高いまま。それでも時は刻々進む。

 砂時計のように、短い命さえ、今なお果てへと歩む。

 兵の一人がおとこを担ぎ上げようとしたその時。


『ガクッ』

「……ひやぁッ!? し、死んでるッ!?」

「おい、しっかりしろ!」


 砂時計もまた、落ちていた。

 彼らにステータスを見る術は無く、呪詛の存在にすら気づかぬまま、男は息絶えてしまった。

 余りにも早すぎる結末。

 詳しい情報すら聞き出せなかった。

 このままではいけない。せめて、王と軍部には急ぎ報告しなければならない。

 兵たちはそそくさと門を潜り抜ける。

 男を背負って、汗垂らしながら。


 門を抜け、大通りを突き進む。売店や家屋、広場や街灯が辺りに散乱し、それを彩る様に人がひしめいていた。

 門兵が男一人を担いで入ってきたことに、違和感を抱かない者などおらず、兵たちに道を開けつつ何事かと確認の嵐だ。

 しかし悠長にそれに答えてもいられない。

 この時の判断で、国一つ滅ぶかもしれないのだから。


 この国は、王とその家臣が調定・管理している中央集権型国家だ。

 よって、城も中央に作られるわけで、それを中心に円形の壁が半径約数キロに立つ配置となっている。

 白を基調にした美しい城は、絶壁の名を欲しいままにしている。

 固い鉱山資源が多く取れるこの国の建物は、ベースに石かレンガか鉱石を用いる家がほとんどである。

 とはいえ鉱石や宝石は貴重品。店でも高価に買い取られる。


 大通りから一直線。城にも小さめの門があり、そこにも兵が配備されている。

 自分たちに気付いたか、警備兵が駆けつけてくれる。


「その男は?」


 兵の一人が問いかける。


「バビリア洞窟の先遣隊の一人だ。この者が最後に言った通りなら、今しがた全滅したことで間違いなさそうだ」


 対して門兵の一人が答える。


「先遣隊が全滅だと!? そんな馬鹿な……」


 この国では先遣隊は信頼されているのだから当然だろう。

 しかし、嘘ではない。

 それを門兵は簡略に告げる。


「事実だ。急ぎご報告してくれ」

「わかった」

「了解」


 兵の二人は行動に移る。

 門兵は男を軍部へと預けに行く。

 軍を任されている場所に当たる「ラルシア国家軍事部」では死体処理も担っている。町の保安・保全が目的であり、国の主力と言っても過言ではない。

 しかしその戦力を、少しでも失ったのは悲しい。そう思うのは、この後一分も経たない内に件を知らされた、現国王「ヨネス・バ・ラルシア」その人である。


 ここでは省略するが、死体検査に、軍部会議・国王会議、その他様々な検討が、その日の内に行われた。

 結果、死因不明。

 それを公には公表せず、王は判断する。

 この国で、良い噂を度々聞く冒険者一行(パーティー)。彼らに協力を仰ごうと考えた。

 兵団は確かに強いかもしれない。しかし、実戦経験で言えば、魔物と闘い慣れている冒険者・探索者の方が上手。なんなら体力面で弱い聖職者にも、兵は魔法面で劣る可能性がある。これならいっそ、彼らに協力を仰ぐ方が賢明、そう思う。


 余程のことがない限り、冒険者には王は立ち会えない。

 だが今は緊急時。頼るべきだ。


 王は冒険者一行、俗称「四足の輝龍」を城に招いた。

 兵が王から命令を貰い受け、急いで城下へ向かう。

 王は窓から、彼らが来るのを見ていた。


「ケビン、サーリア、スワイフ、ペルシ。かつての勇者様に及ばずとも、国では両手で数える内に入る実力者……。性格は、良さそうだ。顔でわかる。あとは引き受けてくれるかどうか……」


 王は嘆息する。

 冒険者は基本フリーだ。

 彼らの仕事受付「集会」にて、近辺の危険を解決してもらうために張り出されるクエスト、それが彼らの仕事であり、基本誰がするかなど決まっていない。

 それ相応の報酬が、依頼者から支給され、それを受けるかを彼らは決める。

 無論、仕事は自己責任。

 最低限の注意を集会役員は行い、あとは仕事人任せ。

 一応ランク分けなども行い、その人に合った依頼を、受け付けも勧めるようにしている。

 だが命に保障はない。

 やるのは勝手だし、自由だ。

 善行だけでするのは本当に馬鹿か、勇者くらいだろう。


 受けてくれる確率は三割くらいか、それより低いか。

 いずれにせよ、彼らには知っておいて欲しい。


 階段を上る音が聞こえる。

 ガシャガシャ言っているのは、恐らくスワイフ君の重装備であろう。

 重いのにわざわざ来てくれたのか。頭が上がらんな。

 王は戸へ目を向ける。

 ここは客間兼、王の仕事場。

 ポツンと置かれたデスクには、書類が少し積んである。

 仕事の最中だったが、今は関係ない。


 戸が軋むように音を立てて開く。

 そこからは使いに出した兵と、四足の輝龍の四人が。


「よく来てくれた。初めまして、現国王、ヨネス・バ・ラルシアだ」


 まずは挨拶から。王としての威厳は損なわないように。

 そして、帰ってきた反応は一般民とは思えないほどの物だった。


「お目にかかれて光栄です。そして、今回の件を俺たちに任せてくれることに感謝を。俺はケビンです」


 礼を交えた、きちんとした社交。

 それに後も続く。


「サーリアです」

「スワイフと言います」

「……ペルシ、です」


 何とも礼儀の良い。

 少しばかり、王は驚いてしまった。

 そして、第一印象は一言。

「良い感じ」だ。


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