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26 戦ノ予感

 見事な回復術だ。

 さっきまでの苦痛の表情が、嘘のように消え去っている。

 見たところ、ステータスが全回復しているし、「効果はばつぐん」だってところか。

 伊達に女王を名乗っていない。

 この者の右に出るものは恐らくこの洞窟内にはいないでしょう。

 俺はもともと闇属だから、光系統の技の取得が難しい。だから彼女に頼んだんだけど。

 二人が立ち上がり彼女に感謝している。

 それに対して気にしないでと宥める治癒者。

 さてと、俺は聞くべきことが一つだけ残っているのでそれを。


「治ったようで何よりだよ。……それで、急に申し訳ないけど、一ついいかな」


 そう言った俺に対し、帰ってきたのは問いだった。

 問いに問いで返すとは、そう思ったが仕方のないことだ。


「まずこちらから聞かせてください、あなたは何者なのですか?」


 ハイ・フェアリによるその問い。

 ひとまず俺の質問は置いておこう。


「俺は、転生者だ。元は地球っていう所の、一般的な男子中学生だったよ」


 その回答に、目を見開いた者が大半を占めていた。

 予期していなかったのだろう。

 だが、この反応は予想できたので納得。

 まあ、バテックはあんま驚かなかったけど。


「ちゅうがくせい……っていうのが何かはわからないけど、君は今女性だよね。大丈夫なのか、その恰好は……」

「これは女体じゃねえよ。男の体でもないから違和感はすごいけどな」


 優しそうな顔の割に、紳士的じゃねえな。何顔を赤らめてんの……

 デリカシーないよ、スワイフ君とやら。

 俺だって望んだわけじゃない。この解析変化体は、解析した種族ごとに姿を設定して固定してしまう代物で、聡慧さんが人への擬態にこの容姿を選んでしまったから、変更不可になってしまっただけ。髪切っても一日で元通りになることが、行わずとも想像に難くない。

 後悔先に立たず!

 まあ、気にしてないから良い。

 それに、見惚れるくらいに美形な顔立ちなら何も問題ない。

 横にいるペルシとかいう女の子も、「かっこいい」と小声で呟いてくれているし。悪い気はしない。

 それだけでも、この姿になってよかったって思える。


 というかスワイフ君。何故そこを気にするんだ。

 魔物だよ、俺?

 もっとこう、恐れたりすべきでしょ。


「あなたが転生者で、私たちに害のない魔物なら安心しました。しかし、あなたが魔物であるが故に、今もなお、完全な信頼は私たちも寄せておりません。よってあなたのことを、私たちは一度放置させてもらいます。次はないので、二度と顔を出さぬよう」


 妖精の代表からのお言葉、そこには辛辣と少しの慈悲があった。

 口調だけは厳しいけどな……

 まあ、仲良くするつもりもないけど。

 ふと顔を戻すと、二人は目を丸くしていた。


「改めて聞いて思い出した……君が魔物だったって。でも、妖精さんたちはああ言ってるけど、俺は君を信用するよ。傷のこと、重ね重ね感謝する」

「私も、信用する……ありがとう……」

「あ、ああ。気にするなって」


 二人からの謝辞。

 まあ、馴れ合うつもりもあまりないけど、あのハイ・何とかよりは心地いいな。

 うん、この世界の妖精って偏屈だよね。もしかして、あのデカいのだけかな?

 その考えを察知したか、目を鋭くこちらへ向けてくる彼女。

 俺は空かさず、有無を言わさずそっぽを向いた。

 睨まれようが関係ない。チャチャっと保留中の質問に答えてもらおう。


「……で、君らは何にやられたの」


 急な質問に、顔を青ざめさせる二人。

 特にペルシは身震いが激しすぎる。

 スワイフも歯を食いしばって、目に涙すら浮かべ始めている。表情の豹変ぶりに、こと恐怖においてはホラゲで鍛えてるつもりの俺も身構えてしまう。その口から飛び出した言葉は、少し俺と関係がある気がした。


「俺たちは、本物のば、化け物に襲われたんだ。アレ……意味が分からないんだ、ほんと。打撃も斬撃も効かなくて、魔法もスキルも何も効果がない。おまけに相手も強力な呪詛を使ってくる。巨体で、うめき声が酷いんだ。こっちの記憶が飛ばされそうになる。アレと向かい合ったが最後、ほぼ終わりだ」


 都市伝説かよ。

 無敵て……そりゃ怖いわな。やはりアレ呼ばわりで名前もわかっていないらしいし。

 震えて怯えて、それでもなおも抗って逃げた結果が今の状態。

 まだ幸運だったな。

 で、その化け物っていうのは恐らくバテックの言っていた奴だろう。

 そしてその気配を、俺は存知で既に察知している。バテックも魂だけながらもなんとなくは察しているだろう。

 妖精軍団からも不安の色が見て取れた。


「でも、あの時、二人を連れてこられれば、今頃……う、グスッ」

「泣いても仕方ないよ……」


 もしかして、まだパーティーメンバーがいたのか。

 泣き崩れるスワイフにそんな質問をしてみる。


「ああ。ケビンとサーリアって言うんだけど、二人とも、俺らを逃がすために囮を……」


 それは辛いな。

 この世界はやはり弱肉強食。それを俺も感じてきた。

 見たこともない相手に勝つ算段もなく、出来るのは一人でも多く生き残ることのみ。

 生き残った側は無念しかないだろう。

 藁にも縋る思いで、手を伸ばす。

 それが今は空を掴んでしまっている状態か。


「謎の強者。しかし、私たちはここから遠くは離れられないですし……」

「やはりそう、ですよね……ぐ、ズズ」

「ケビン……サーリア……」


 妖精たちは気難しい表情。

 二人の表情も暗い。

 ……

 これやっぱり、行くべきだよな。

 バテックも、妖精も、二人も、何より俺も迷惑を被る化け物。その退治は全ての項目より最優先して行うべきだろう。

 残すこの洞窟での目的、バテックの蘇生・謎の化け物の退治・洞窟からの脱出。

 そのためには不安要素は残しちゃいけない。

 俺は、順風満帆な旅路、縦横自在なフリーライフを送るため、出来ることは片っ端からやる男。

 ゲームのためなら何をも顧みない影の暗躍者。

 およそ主人公でなくたって良い。どれだけ見栄えしなくてもいい。

 俺はただの陰キャじゃない。

 全てを飲み込むただの影。


「情報をありがとう。スワイフ、ペルシ。だが、その二人の犠牲を悔やんで挫折はするな。俺が言えた義理じゃないけど、生きることが最大の弔いだと思うから」

「……なんで、俺たちの名前を……」


 俺は無言で、影操作に含まれる影潜りで、陰に沈んだ。

 そしてそのまま、魚の様にスイスイ進む。実に速い、ラク、楽しい。

 解析変化体により、何故かレベルが上がり、21となった。そのお陰で俊敏も上がり、今では114。それがより魚らしい視点を生み出している。

 蜥蜴の上位版の半分満たないくらいだが、一般人レベルより速い。

 正直、脳が追い付ているのが不思議だ。


 俺の突然の発言に驚いたような一行だが、もうその顔は見えない。

 存知で存在は察知できるので、表情などこの際どうでもいいのだ。


 今俺は、さっき二人が出てきた場所を曲がって、道沿いに進んでいる。

 影操作の前段階、影潜りによる、この潜水ならぬ潜影。決して壁をすり抜けたりはできないし、地面ならどこでも潜れるわけでもない。

 空気に触れる陰にしか潜れず、ずっと下まで素潜りはできない。

 壁や天井も暗けりゃ潜れるが、それは主に洞窟内でのこと。

 よって、始めは洞窟にての転生が億劫だと思っていたが、寧ろ今は、洞窟でありがたかったと思っている。

 ここはありとあらゆるところが暗く、シャドーにはもってこいのベストポジション。

 恵まれた環境だと思った。

 これなら割と戦えるかも。


 そんなことを考えていると、ふと上に柔らかい感触が。

 んお?

 なんだこれ、ひんやりして気持ちいい。

 あ、でもこの感触知っている気が……


 上を見ると青緑なゼリー的球体。

 まごうこと無きスライムだった。

 恐らく少し前の子だろう。

 ゴブリンを殺したせいで、全然覚えていなかった。

 倒そうと思っていたけど、完全に忘れていた。


 うん、でも結局、殺さないことが一番だよね。

 どうせ大した経験値でもない。

 どちらにもメリットはないんだ。無駄な争いは避けましょう、そうしましょう。

 平和な時間をスライムと過ごす。

 パーティーメンバーなんて今はいないけど、これから多くの者と出会い、心が和むライフを送るだろう。

 それを邪魔するものは誰一人と許さない。

 こちとらゲームと他人の優しさとアルバイトの疑似筋トレで育てられた、モブではない陰キャラ。

 たとえ相手が勇者でも魔王でも、影からひっそりと、確実に倒す。


 と、俺なりに格好をつけてみる。

 ……うん、一人で何言ってんだろう俺。

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