23 神秘の泉
おおおお。
手に嫌な感触がぁ……
やはり、「殺すこと」には重みがあるんだな。
今まで爆弾石に頼って討伐していたから、どこか浮世離れしていて、グロさドントフィールだったからなー。
それに、人型の魔物を倒したことなかったし。
この感覚は初体験。
まあ、この食い食われの関係が、地球を支えていたんだろうけども。
それにしても慣れなきゃキツイな。
相応の覚悟がなければ、ホントに鬱りそう。
それだけはヤバいねー。(棒)
影の針がその長さを縮め始め、囚われ声も出せなくなったゴブリンが落ちてきた。
その力が抜けたまだ温もり残る体を受け止める。
俺はどこか強張るのと同時に、空腹感を感じていた。
やっぱり魔物なんだな、俺……
吐息混じりに、生肉を手に取り食べる。
魔力を糧としているシャドーは、そもそもこんなもの食べようが食中毒とかならない。
でもそのうえ味覚もない。
食うことをただの生業としてきている自分に、呆れ顔をする。
まあ、魔物で霧のような形状の生物だから、表情なんて他人からは不可視だがな。
錆びた剣を、肉片手に眺めてみる。
何でたまたま落ちていたのかは知らないけど、改めて実感した。
攻力は主に、体を使う攻撃でのダメージ量を示す。
でなければ、攻力0で殺傷できたことに理由がつかない。
試しに剣を解析してみる。
おお、できたぜ。
【・錆びた鉄剣 攻力17 特に変哲がない、錆びた鉄製の剣】
うん、簡素だわー(棒)。
いやいや、攻撃力表示されるだけありがたいけれどもね?
何というか普通過ぎて。
まあ、ゲームしてたから普通に思うのかな。
剣ってやはり武器であり、それだけで十二分に重みがあるものだ。
これがあるだけ驚くべきなのだけども。
まあつまり、その物質の殺傷能力は所持者の能力にあまり関係ないってこった。
予想通りで安心したわ。
それにしても、ゲーム……
FFF、もう少し羽田としたかったな。
羽田というのは別に空港ってわけじゃない。
「羽田貞治」という、俺の親友だ。
『何を考えておるのだ?』
う、感づかれた。
バテックさーん、何でもないですよー。
話を戻そう。
貞治は、飄々とした美青年でゲーム好き、俺と馬が合った。
どちらかと言えば陽で、明朗快活に近しい性格をしている。
陰キャラを通していた俺にとって、彼は意外ながらにもありがたかった。
FFFでも、共に好成績を残したし、いい奴だった。
会いたいな。
いざ離れると、恐ろしく寂しい。
それも、こんな洞窟で一人なら、尚のことその侘しさにも磨きがかかるってもんだ。
……転生してないかな。
いや、それは「死んでないかな」って言っているのと同義だから不謹慎だ。
もし死んだときは、転移してくれないかな……
ふと、フラッシュバックが起きた。
それは、あの元母校。
俺が下校中に振り返った際に、学校を白い光が包み込んだアレ。
その景色が今になって、俺の身を奮い立たせる。
まさか、あれ、幻覚じゃ……なかった?
もし、イフ、アレがリアルなら、急いで辺境調査しなければ。
業務過多に、上乗せ。
やるべきことが増えてしまった。
来ているなら、待っていてくれ、貞治。
肉はあらかた食べた。
というかもう慣れてきた操作で魔吸収で一気に手から吸い込んだ。
精力百分の百。
満タン!
嬉しい。
欲張りの紋のこともあるし、容量が精力より圧倒的に大きい魔吸収に詰められるだけの食事を入れておきたい。
俺のスタミナ補給と言うのは、減った分の精力を、魔吸収内の食事に分類される物を使って、俺が定期的に魔力に変えているだけ。
よって、食事は苦しくならないこの胃に保っているほど得なのだ。
よくよく考えると、精力を肉により完全回復させているが、魔力で体を保っているシャドーとしては、魔力と精力は分けなくていい気がする。
でも分けられている。
何ででしょう。
【魔力は技を使用する際に必要な魔力。精力は体を保つために必要な魔力。少し違っています。一応代用はできますが】
代用できる辺り、繋がってはいるっぽい。
まあ普通は精力尽きれば一巻の終わりだし、システムみたいなこの能力が表示しないのはおかしいわな。
精という字は、生命の根本の力って意味を含有するし。
ま、どっちにしろ食事は必須。
魔力多そうな人間を食おうとはしないけど。
魔物や動物を食えるだけ食おう。
これも生きるため。
時には残虐になるんだ。
頑張れ、俺―!
鼓舞も束の間、フラッシュバックを体現するように、洞窟の奥より光が漏れてきた。
妙に明るく、綺麗な白光。
カメラの白飛びとまではいかずとも、家屋の照明のような明るさ。
その光は幸か不幸か。
なんだろう、ホントに照明みたいな明かりだ。
まさか、こんな天地がひっくり返っても家がなさそうな場所に、現代文明バリバリ使用中の快適空間が存在するのか?
見に行ってみよう。
そうしよう。
もし家だったら乗っ取ってやろうかなフヒヒ……
洞窟の、茶色とも青色とも言えない部妙な塩梅の壁が、白くなっていく。
その色は徐々に強まり、光ったかと思うと、目が慣れ始め、内に秘めた絶景を露わにした。
幸か不幸。
しかし、それはどうやら前者だったようだ。
辺りは緑に満ちた、ある意味快適空間。
苔のような、花のようなものが一帯に咲き、水の流れる音と共に、天井から差す、眩くも優しい光が辺りに生気を満たしている。
水がこの空間の一点に収束するように流れており、それを辿れば、数メートルほどの直径をした池が見えてくる。
池というのもおこがましいほどに、その水からはエネルギーを感じる。
どうも、自分とは真反対の性質のようだ。
光を帯びている。
そんな感じが肌でわかる。
肌はないけれど。
凄いな……見事な絶景だわ。
これぞビューティフルビュー。
BTVってか?
しかしこの光、俺には関係ないが、一般の闇属性の魔物には、ちときつくないか?
属性相性表を聡慧さんに見せてもらった時、覚えられずに投げだした俺だが、流石に光が闇に強いというのは覚えている。
そんな輝きの中で、黒い俺は湖の周辺に目を向ける。
不意にその光の中に小さな光球を見た。
何だろう。
考え凝視する俺に呼応するように、それは明確に見えた。
それは羽だった。
小さく、でも強かな羽。
四枚か六枚ありそうなその左右対称は、有形の美しさを体現している。
その付け根までたどると、これまた小さな少女がいた。
目を奪われる可憐な容姿。
フリルが目立つ、清潔そうな白を基調とした衣装は、一層彼女を引き立てている。
目はまだ閉じたまま。
開けるそぶりもないが、動きには迷いがない。
よくよく見渡せば、辺り一帯にこのような子が多くいた。
可愛らしいなー。
……でも、人見知りな俺はちょっとおっかなびっくり。
異世界らしいという点で、まだ気を許せるってところかな。
少し見惚れたけど、これはあれだね。
妖精……だね。
まさか、この目で拝めるとは、嬉しい限りだわ。
嬉しい……
うーん。
でもね、向かってきてくれて何なんですけど、その御手にお持ちの「如何にも攻撃的」な杖を仕舞ってくれないか。
余りにも恐ろしいんですけど。
口も、閉じた目も笑ってないし、今も魔力を溜め始めているし。
あ、でも、この子顔を強張らせているな。
俺が邪悪な魔物だと思っているのかな……
まあソウデスヨネー。(棒)
そう思考していたその時、急に辺りの空気が止まったように感じた。
『ま、まずい! 来るぞ!!!』
バテックの驚愕と警告の声が、俺に衝撃と脊髄反射を与えた。
声は出ないが、悪寒がしたのも幸いし、結構スピィ―ディーに行動に移すことができた。
とりあえず影操作の感覚を使って、「防御」を発動した。
これは軽減系のスキルで、魔力使用に追従するためオンオフ可能なものだった。
魔力を使うと文句言ったけど、利便性はあるよね。
……うお!?
俺の頭上を重い何かが押す。
その圧力は、生物ではなく魔力の塊だった。
魔法か。
だがしかし、圧はあろうと、これは魔法だとわかったのでそのまま打ち消す。
魔法攻撃無効は、俺の所に来た練られていない魔力を打ち消すか、受け流すことで無効化するもの。相手の攻撃の圧は感じるが、痛みやダメージはない。打ち消しも受け流しも、どちらも大差はないが、今回は力を込めるようにして打ち消した。
影操作の件から、段々と魔力がイメージできるようになってきたぞ!
良い傾向だ。
まあ、今わかったところで、遅すぎだけどねー。(棒)
魔力が音もなく飛散する。
光系の魔法だったらしく、爆散はしなかった。
聡慧さんが言うには、火などの魔法は行き場を失えば、魔力が爆破してから、魔力の粕のようなものになるそうだ。
まあ魔力が使われたら粕になることについては置いといて。
今の課題は俺の目の前に現れた奴だな。
「神秘の泉には近づかせません。強き邪物よ、今すぐ去りなさい!!」
怒号を吐く、責任感を帯びたその者を解析してみた。
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ステータス ハイ・フェアリ Lv57 属・光聖 体質・輝煌
攻力328
防力570
体力268
魔力712
精力432
俊敏130
紋:指揮権・聖者・癒す者
魔法:イグ二カル=ライト・キュアルン・聖界の光線
スキル:体力即時回復・魔力即時回復・感覚強化・消費治癒
P0所持中
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非表示解除はされていたらしいが、魔法の項目が表示されたことで、その万能さが目に見えて理解できた。
紋の多さ、レベル、属性、体質含め、強者をもう名乗っているようなものだった。
殆どのキャパティシーにおいてバビリアエルリザードよりも高く、その強さは一目瞭然だった。
俺は彼女を前にして、固唾を飲んだ。
まあ、唾でないけど……




