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22 魔力操作

 俺は今まで、何を使えただろう。

 物理攻撃としては爆弾石が基本だった。

 その他は特に目立った攻撃方法がない。

 狂乱時のみ、「殺戮加護」のレベル分攻力増加と、「欲張り」の攻力千倍という効果が加わり、現時点で、15万という攻撃力になり、容易く魔物達を屠ることが可能になる。

 今たちまち考えてみると、この威力って結構えぐくない?

 だって、よくチートな転生主人公が、「攻撃力9999で俺つえー」とか言っているけど、それと比べたら比じゃなくないか。

 あ、でも決して攻撃力があのような小説の主人公達と比例するわけでもないのか。

 あっちの9999がこっちの9万と同等値とかありえるもんなぁ。

 この数値はあくまで、目安でしかない。

 己の強さって、やっぱり実践で垣間見えるものだし、過信や怠慢、逆に卑下からの自信喪失なんかはよくないと思う。

 でも、知らず知らずのうちに生態系を崩しかねない事故を起こすのも、れっきとしたアホだ。

 物事はほどほどに。

 それが一番。


 それに、これは飢餓したときの意識無い狂乱時の話。

 今の状態では正直言って、何もできない。

 そう、攻撃力がゼロの俺は、物理は愚か、スキルや魔法すら使っても意味を成さない。

 旧態依然としており、ただの魔力で構成された生物でしかない。

 良い武器があれば別だろうけど……

 この現状は、どうにかして打破しなければならない。

 自身にかけるバフや、ステータスを補佐するスキルに関しては、ほぼ無意識、聡慧のサポートで発動している。

 これも自分でできるようにしたい。

 出来れば、でいいから急ぎはしないけど。


 ……ならばまずは、と俺は拳を片方の掌に打つ。

 狂乱で最強になれるなら、いっそのこと意識が保てるようにすればいいのではないかとそう思った。

 それに向け色々試行錯誤しよう。

 そして、もし完成したら、このスライムちゃんに相手してもらおう。

 物理が利かないからいい練習台になるしね。

 勿論、殺すということだから、それなりに覚悟がいるけどね!

 可愛いから心苦しいし。

 見逃してもいいけど、俺がもっと生きたいという欲によりこの子の未来は決められた。

 うん、改めて、神、サイテー。

 もっと自然な世界に生まれたかったよな。

 人間として生まれるとかね。もっとあったと思う。

 魔物や生物同士なら、食い食われる弱肉強食の世の理で、悲しみとかないけど、俺は元人間、悲しむ心得がある。

 これを見越して神が転生させたとしたら、俺はそいつをはっ倒す意志がある。

 神が居たらの話だけど。


 まあそんな畜生の話は置いといて。

 狂化した時の非物理攻撃は影操作が一番良さそう。

 聡慧さん曰く、俺の狂乱中、このスキルがとても役に立ったそうだ聡慧さんが俺を操作していたことに関しては、誠に遺憾だけど。

 俺は全く使えないのに、この世界を知っている聡慧さんは何の不自由なく魔力を取り込み操っている。

 何とそれにより、影を針山のように出したり、眷属みたいなものを生み出したりしたそうだ。

 ……ぐぬぬ、羨ましい。

 正直に(ちょう)したい。

 ロマンじゃないか、そんなもの。

 影操作を使えるようにしたい。

 このスキルの下位は「影潜り」だから、簡易的な転移ができるかもしれないしね。

 使えれば便利だと思うし、多分現役のシャドー達はバリバリ使っているだろうな。

 善は急げ、まずはスキルの制御、そして精力消費のスキル又は睡眠無効とかのスキルがあればその取得、これらに専念しよう。

 その間、スライムには見守ってもらおう。

 殺すために頑張る俺と、何をしているか分からず敵視を向け続ける君。

 うん、心がなんか痛え。

 気にしたら負けだ、この世は弱肉強食。

 これからも、多くの生物を倒し食すかもしれないんだから。

 「殺す」ということにもっと真剣に向き合わなければならないし。

 グズグズはしていられない。

 まずは、スキルの行使練習だ。

 改めて体に力を入れる。

 魔力……想像できないが、それが巡るのを感じようと奮闘する。

 視界は人の体ほど安定しない。

 この体に転生して、感覚器官の不調も甚だしいが、まず何を使おうと魔力が理解できない。

 焦燥感がある。


『苦難しているらしいな』


 何だか久しぶりに、彼の疑似念話を聞いた気がする。

 長く歩いたからかな。

 低く荒く、それでいて逞しい声が脳を揺らす。


「まあね。転生した身としては、苦労するよ」

『あ、そうそう。思い出したのだが、お前のために我が人族から奪ってきた書物の話をしてやろうぞ』


 自信満々に、アドバイスという名の体験談が始まろうとしていた。

 「人族から奪ってきた」という重要点を、大家さんの愚痴を無視(スルー)するスキルで聞き流した。

 このスキルは魔力が必要ないからとっても便利。

 うんうん、この技は世渡りに必要だよねー。(棒)


『その本の名は「魔法百科文書」と言った。分厚く、その中には作氏の経験と研究に基づく魔法の使い方が大まかに載っていた』

「その本は今、王国とやらにあるの?」

『いや、流石に処分してしまった。何せ、能力補佐のスキルが多い我にとってはどうでもよかったからな。当時民をただの駒としか思っていなかった故、その指導も統括係に任せておったしな』


 残念ながら無かったらしい。でも、よく考えれば、この世界の言語は、聡慧さん(もとい能力査定)が翻訳してくれているから、目として得る文字の翻訳は難しいかもしれない。まあ相棒の腕次第だけど。


『だがその中に、彼が、魔力を想像しやすくなる言葉というものを色んな言語で多岐の表現を使って書いておってな』


 間を置き、試すように彼は語りを続ける。


『その一つが、「滝、その清水変形せし、どこまでも打ち流るる。その道遥か、己の心表す。」というものだった。これを聞いて、どうだ? 感覚は掴めそうか?』


 バテックより紹介のその著者は男性らしい。

 そして彼は魔力というものを、水として比喩表現している。

 確かにその発想はいいと思う。

 水は形状変化が激しいし、どんな形にでもなれるから。

 そのイメージを、果たして俺がコピーできるかどうかがプロブレムだが……


「頑張ってみるよ」


 バテックは見守る様に無言を貫いた。

 スライムは柔らかく震動したまま目線をこちらに刺している。

 俺は集中する。

 水……

 流れ……

 心を表す……

 影の針をイメージング……

 いや、黒い針を……


「グェルルル」


 バテックは、影に近づくものに一瞬目を奪われた。

 だがそれは、自分の駒だった者――今は家族と思う者達とは違う地区の者であった。

 ゴブリン。

 この転生者であるシャドーがゴブリンにいい印象を持っていないことは耳に入れていたので、このゴブリンには思う存分彼の実験台になってもらおうと思った。

 自分の統治下の者だったなら止めたが……


「グルルルル……ゲタタタタタ!!」


 緑の血色の肌、鋭い眼光。

 醜き魔物は、この世界の武器としてはオーソドックスな棍棒を手に、飛び掛かった。


 うーーーーーーーーん。

 ……

 ……!

 こうか!?

 影操作!

 声には出していない。

 声帯がないから。

 だが、脳で叫んだ時、見事に体が魔力を捉え、繰り、技を発動した。

 それはもう見事なまでに敵に刺さっていて。


「グ、あ……ゴガフ……が」


 何故…

 針に捕らえられたゴブリンに驚愕してしまった。

 さっきまでそこにいなかったはずなのに。

 集中しすぎて、俺の存知がうまく発動しなかったぞ。

 解析すると、こいつには、ゴブリンの常設スキルだと教えてもらった「機敏」に加え、「隠密」のスキルがあった。

 そこそこ成長している個体のようだ。

 まあ、もう捕らえたし、気にしなーい。

 で、目の前にあるのは、ホントにそのままウニのような黒い針だ。

 だが、その針は、ゴブリンに刺さってはいなかった。

 ゴブリンに直接刺さろうとした針は、先端が平らになって、その体を……押さえている。


 うん、ダメージはないんだろうけど、普通にあの挟まれるような体勢が苦しいんだろうね。

 藻掻き、叫んでいる。

 そして、攻力が無ければ、筋力に似た物もないことが分かった。

 針を伸ばそうとしても、ゴブリンの体の質量かなんかに押し返される。

 まあ、結局殺しきることはできなかったけど、純粋に魔力を操れたことが嬉しい。

 …………あ。


「もしかして、これ同胞だった?」

『いいや、違うから気にせずともよい』


 良かったあ。

 同胞殺してたら、ちょっと仁というか義理が通らないというか、言葉にしにくい靄が残る。

 無暗な争いや、俺の慈悲で殺したくないと思った人達を殺すのだけは避けたい。

 なんというか、中立を保ちたいのよね。

 ま、確認が取れた以上、こ奴を生かす道理は無いわな。

 無慈悲だけど、許せ。

 これは殺す練習なんだ。

 今までまともに人型のものを倒したことないから、抵抗がある。

 でも、それよりは迫りくる空腹が気になるし、何よりこれから先、殺人は回避できないだろうし。

 俺魔物だもん。

 飢え、食べるのは必然だね。

 爆弾石では元も子もないから、このあたりに殺傷力のある道具は……あ、剣がある。

 俺は近場に落ちていた、錆だらけの剣を手に握る。

 スキルの霊化を使っているとき、たまに物質がすり抜けることがあるが、こちらから意識すれば、対象を触ることが可能だ。

 そういう意味では、俺はもう霊化を使いこなしているのかもしれない。

 そして、それを強く握り直す。

 苦しいだろうと、憐れむ俺だったが、やるときはやるしかない。

 振りかぶり、その魔物を一刀両断した。

 流れ出る粘性のある液体が、俺の体を通り抜けていく。


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