20 泉への道
一抹の不安を残しながらではあるけれど、進むもう。
このバテックの蘇生法と、人化の方法を見つけ、そして外に出る。
それが当面の目標だ。
そして、来る人化達成・脱出後に、旨い飯と安住の地を探そう。
それからはゆっくりと考えたい。
落ち着かないと、シンキング出来ないしな。
長考って言葉があるように、ゆっくりと落ち着くのが最善の手を導く。
これから何をするにも、焦ってはよくない。
この世界に来ちゃったものは仕方ないし、現世への帰還よりは楽しく過ごす方法を考えよう。
生まれてから洞窟という、ハード設定だった俺は、魔物とはいえ元人間。
日を浴びたかった。
出口に早く行きたい。
そのためまずは、蘇生法が見つかるまでぶらぶらと探索。
こればっかりは時間が解決してくれるので、気長に待とう。
『シャドーよ。その、例の魔物は……』
「ああ、わかってる。見つけて、倒せそうならどうにかする」
表面上、そう言葉にする他無かった。
ここんとこ不安続きだが、そんなこと、とっくに悟っている。
死なないということを念頭に置き、そのうえで倒せそうなら、その魔物を倒す。
無理難題に付き合っていられるほど、俺も面倒見はよくない。
怖ければ逃げさせてもらうし、可能なら経験値やSPの糧になってもらうし。
とにかく自由にする。
今は、守るものなどないし……
ああ、母さん、父さん、みつり。
あまり面倒見れなかったな。
ごめんなさい。
大家さんにも、お礼言えなかった。
くそう、全部あの飛行機が悪いんだ。
いや、後悔してる場合じゃないな。
『頼む。他でもないお前にしか頼めないからな……』
守るべきもの……か。
まあ、このバテックは守らなくても十分強そうだけど。
如何せん、俺は戦った時の記憶がないからね。
俺の戦闘シーンを再生できるならしてほしい、でも残念ながらそれは無理らしい。
意識の無い記憶は聡慧さんでも復元不可だとさ。
どうにかスキルを俺自身で使えるようにして、俺の手でかっこよく戦いたいんだけども。
あ、でも別に好戦的になりたいわけじゃないよ?
無効や補正系は勝手に発動するからいいんだけど、自己的に打つものはやはり脳と体と感覚で動かす必要があるらしい。
これが異様にむずい。
唯一、体の手を爪に変えることができるのは言うまでもないが。
影操作……
なんか、出来ないかな。
こう、いろんな形にして遊ぶとか。
俺は恐らく、魔力の感覚が掴めていないんだと思う。
それにより、ほぼすべての技が規制されている。
これでは十中八九、技の発動は不可どころか進展しない。
俺が現世で見た、小説の転移者・転生者・召喚者は、どうやって発動していたんだ?
『魔力の巡りを感じるんだ。とにかくそれしかない。お前の世界には無かったものらしい故、それを感じ取るのは苦難であろうがな』
努力次第……
俺だって、努力が報われることを知っているけど、こればかりは難しい……
血が巡るのと同じように、魔物にも魔力が巡っている。
空気ともエネルギーとも断定できないそれを、脈のように意識する。
これができない。
いつまでたっても。
移動しながら頑張るか……
「バテック……さん?」
『バテックでいい』
「じゃあ、バテック。この辺りで、落ち着けそうな場所ってあるか?」
憩いの場、そう照準を合わせて問おうとしたが、こんな場所にそんな安住の地があるはずはない、そう思いやめた。
こんな非絵画的な空間に、一つ煌びやかに輝くオアシスがあるわけないだろう。
そんな俺は、次の呼応に耳を疑う。
『ふむ……うむ? あそこがいいか。この洞窟の先を数十キロほど進んだ先に、回復薬に使われる地下水が湧く「神秘の泉」というのがあるぞ?』
この世界で、キロないしはメートルの単位が使われていることは、突っ込まずにさて置き。
神秘の泉!!!
キタコレーー!
絶対綺麗じゃん。
心癒せるやん。
待ち望んだ憩いの場だよ!
すぐ行こう、やれ行こう、そら行こう。
もたもたしていられない。
心の焦りに身を任せ、さっきの思考が嘘のように飛び出した。
どこかで俺は不安だったのだろう。
体力即時回復というスキルがあるにしても、それはあくまで蓄積するような回復なので遅い。
それにより、急な攻撃に耐えられるのかという不安があった。
体力即回復という上位互換があると聡慧さんから聞いた。
Pが無く、それが聡慧さんでも取れない類の物らしいことも聞いていた。
だから、回復薬という、アクション世界で欠かせないアイテムの名に、踊りそうになった。
シャドーは攻撃手段がその爆弾石しかない。
それは余りにも頼りない。
数の制限、威力が制御不可。
バテックの情報の魔物に通用するのか不安だった。
だから、安心できる場所というのは必要不可欠だった。
ならば急ぐしかない。
その「神秘の泉」へ。
いざ行かん。
□□□
数キロとはいえ、結構長い。
日の上らないこの暗夜をどれほど進んだだろう。
俺はその道筋をもう忘れるほどに、移動した。
一本道のはずなのに、恐ろしく長い。
そのせいで変な汗が出そうだ。
まあ、汗出ないですけど。
どういう形成や地殻変動でこうなるんだ?
こんなに長い一本道なんて珍しい気がする。
普通に市一つくらいあるんじゃない?
そう思ってしまうが今は徒歩。
その考えがよぎるのも無理はない。
それに、魔物だからと言って疲れないわけではない。
攻力0
防力28
体力30
魔力38
精力63
俊敏42
これが俺のステータス。
まだまだ貧弱……だと思う。
あの上位蜥蜴でさえ、体力が238あったんだから。
シャドーとしてどうかは考えずにしても、弱い。
とにかく体力の値が低い。
初期の頃よりは大分強くはなったけれど、それでも現状をひっくり返せるような力は無い。
存外、未成長。
俺弱し!!
悲しみに暮れる影は、走るのを止め歩く。
もとい、足と呼べるものはないけれど。
この一本道は幅が結構広く、両壁がトンネルの何倍も遠い。
それに多くの魔物が道中にいた。
この洞窟一帯は、特有の巣を除けば、同じような種族が散らばって生息している。
それが探索でわかった。
一本道の脇に、穴蔵や土で作られたアリジゴクのような巣、蜘蛛の巣や水溜りのようなものまで様々な家屋があった。
精力……スタミナの減りもそこそこ早いため、そこに爆弾石を投げまくり、形が残った魔物を片っ端から食べていく。
え、酷い?
そうも言ってられんのよなー。
旨味なんか気にせずに俺はむしゃぶりついた。
まあ、味覚ほぼないし、魔吸収で食べているから満腹感しかないけど。
それを数日、いや数週間かもしれない。
繰り返せばレベルも上がった。
俺は15に成長した。
それによりステータスも少し向上した。
体力は49に、魔力が56に。
おいピー。
けど、まだ足りない……
現在地、どれだけ進んだのかはわからない。
その道中、転々と魔物がいた。
バビリアリザードと火のような魔物。
それとビーバーこと、バビリアフラッシュカスターがこの辺りには蔓延っている。
その中でも目を引いたのは、俺の種族シャドーの派生であるらしい火の魔物「フレイム」だ。
フレイム……
実体ないし、爆弾石一つでかき消えるし、そこまで需要はないかな。
経験値にもあまりならないっぽいし、いらぬ……
俺は、聡慧さんへの不安、バテックの蘇生、技の使い方、神秘の泉といった問題を抱えながら進んでいた。
そしたら……遂に。
見つけたんだよ!
泉。
ではなく、スライムを。




