18 情と哀願
『貴様と会ってずっと聞きたかったのだが、お前は本当に、魔物なのか?』
「へ?」
唐突に、そう聞かれた。
御都合主義で、聡慧さんをはじめ、この世界の住人との会話に苦労はしないらしいが、どうも自分でも、日本語を話している気がしない。
まあ、現状は脳内会話だから関係ない。
しかし、俺の日本語が変換されたり、相手の言語が日本語に無理やり変わっているような感覚もある。
二つの脳が動いてるようで、これまた嫌悪感がある。
まあ、聡慧さんのお陰で体には何の問題もナッシングだけど。
あざっす、相棒。
「うーん。魔物だけど。転生者って言って理解できる?」
『転生者……。死後、生まれ変わったということか』
「そうそう」
ナイスだな。
このゴブリンの頂点、博識ですなあ。
そもそもこの世界で、転生が知られているのかということすら分からず、この返しも博打だったのに、それをすんなりと理解されてしまった。
この世界では実際にあるものとして扱われているのだろうか。
『ふむ。まあそれはわかった。だが、我も人間に近い思考を持ったが、それでも何故貴様が我を生かそうとするのかわからん。今も、蘇生とか言うとんでもない方法を検討しているようだが』
「バレてる……」
聡慧さんとの会話が筒抜けか。
まあ、回線に入れてるんだし当然だけど。
「ちなみに、俺がお前を殺したくないのは俺が人間だったからっていうのもある」
『に、人間? ならばなおのこと我を殺したいとか思わないのか?』
「あー。俺が死んだのはこの世界じゃないんだよ」
『……それはどういう』
規模が徐々に拡大していく。
俺自身もどうしてここにいるのか知らんけど、少なくとも、この世界にとって、転生はこの世の範疇内でのことらしいな。
死んで、記憶を残して新しい体を入手する賢者とかいるのかな。
いるならとんでもなく強そうだけど……
「そのまんま。こことは違う世界から来たってこと。地球って言うんだけど、そこには魔法やスキル、魔物っていう概念もない。でも、その存在は書物や伝承として何故か知っているんだ。皆、その世界への憧れなどから、娯楽として楽しんでいたよ」
『うむむ、どういうことか、理解に苦しむ……。だが、ゴブリンが悪名高いのはそちらでも同じということだろう?』
「そうだな」
『なら、殺そうとか』
「俺からすれば、この世界というもの自体憧れてたんだ。それに俺は別に暴虐でもない。意志があって、しっかり生きようとする姿にすこし感銘したから生かそうとした。気まぐれだ。ゴブリンだから嫌うってわけじゃないよ。勿論、君が意思のない化け物なら余裕で俺の糧にしてたところだけど」
いやマジで。
聡慧さん曰く、こいつのお陰でレベルが5くらい上がったらしい。
どんだけXP溜め込んでんいるんだよ!
お前は大容量冷蔵庫かって。
『はは、やはりお前は恐ろしいな』
少しだけ虚しそうな、可哀そうな感じになってしまった。
緑の巨体が「シュン……」としている姿が脳に見えた。
『はあ。で、我の民はどうするつもりだ』
「え、どうもしないけど」
『は? いや、あれはお前にとっていい力となるだろう……』
「ユーアー馬鹿!?」
こやつ、もしやバカであるな。
だって、俺はこいつの守るための姿勢に感極まったって言ってるのに。
話を聞かんやっちゃ。
「君の思いを尊重して、俺は君を蘇生させるって言ったんだ。貰った分の経験値を持って、俺は君の街に手出しせずに去る。おーけー?」
『は、はぁ……それはありがたいが』
「でしょ、互いにウィンウィン。それに俺は魔物なので不問。それでいいの!」
割と、いや、結構強引に説得した。
まあ、経験値くれただけでもデカいしな。
これ以上ない強敵だったからだろうけど、それを俺は知らない。
でも何であろうと、こいつを消滅させはしない。
そういえば、ゲームで培われてきた力を、俺はまだそこまで振るえていない。
狂乱とまではいかなくとも、攻撃力0を補えるような武器での攻撃を特訓しようかとも思ったが、そもそもそれ自体ないからどうしようもない。
いつか戦える日が来るかな?(棒)
辺りをルッキング。
食事、精力補充には事欠かなかった。
そこら辺にうじゃうじゃとある亡骸、それらで俺の現役お腹は十分満たされるからだ。
口に運ぼうとも思ったが、俺の発想と、聡慧さんの指摘により、魔吸収で手とかから吸った方が速いとのことだったので、そうした。
別に、いちいち口に入れなくても、体に取り込めば精力は回復するらしい。
まあそれでも、いつかはしっかりと口に入れて味わいたい。
しかし味覚は愚か、舌すらない俺にそれは難儀だった。
はあ、恋しいよ、寿司・ラーメン・ホットドック。
何でもいいから、地球にあったものが食いたい。
カレー・うどん・そば・アジフライ・米・ピザ・中華丼・天ぷら……
【人化するための方法は検討中ですので、お待ちを】
ああ、急かしてるわけじゃないから、気長にやってね。
この件は、聡慧さんに頼むとしましょう。
俺にはさっぱりだ。
「さて、蘇生術が得られるまで、君の魂と体は俺が預かる。問題ないね?」
『ああ、それでいい。が、一ついいか?』
「なんだ?」
これまた藪から棒に、どうしたそんな真剣そうな声で……
『実は、この洞窟にはいつからか、異物が入ってきてな』
異物って魔物?
それは普通のことじゃないのか?
特別な魔物ってことなのか……
『そいつは全てが謎で、恐怖の塊で、この洞窟に破滅をもたらすと、密かに我が国で噂されているのだ』
は?
密かってレベルで話していい話題じゃないでしょ。
井戸端会議じゃなくて、もっと広い、ニュースにすべきだよな。
謎で恐怖って意味深すぎる。
『我の解析も阻害された。お前と同じくな』
え、解析……能力査定って阻害できるの?
知らんかった。
まあ、その上位版の聡慧さんに掛かれば阻害など造作もないのは明白だけど。
で、そいつも阻害したってことは、まさか、聡慧を持っているのか?
『そいつの容姿は、未だにわかっていない。だが、全く不明ってわけでもない。何故ならそいつの気配を感じたものが彼方此方にいるからだ』
「ふーん。で、それをどうしろと」
まさかとは思うが、そいつを倒せとか言ってくるんじゃなかろうな。
そうなったら俺逃げるよ?
この巨大魔石だろうが何だろうが、そのまま捨てていくよ?
いいの?
そんな俺の心配をよそに、話は大きく展開される。
『そいつを倒してほしいのだ。我を倒したお前にな』
ははははは、オワッタ―(棒)。
え、無理無理無理!
だって、全てが謎な胡散臭い魔物に、誰が好きで戦いに行くってんだ。
聡慧を持ってないにしても、この場所にいる全てに等しい住人が口をそろえて「怖い」って言うほどまでにヤバく、その容姿すらも未確認。
それは正しく、投機的な、一か八かの勝負を余儀なくされる魔物。
文字通り、命を懸けた死闘になる。
影の体から、冷や汗ならぬ冷や風が。
そうなっている理由は単純。
俺が意識的に戦った最強の魔物が「バビリアエルリザード」だからだ。
元は人間。
雑な投擲ですら爆発する爆弾石があったから勝てたものの、スキルや魔法の発動は主に聡慧頼り。
よって、もし何らかの不具合で聡慧含めスキルが使えなくなった場合、すぐさまに死が来る可能性があるのだ。
リスクが高すぎる。
俺はゲーマーだったけど、元々身体的に強いわけではない。
戦略を練ることや、相手を読むことなんかに少し特化しているが、実力が伴わない。
ただの人間だった者に、魔物と戦うなど、結構な苦行。
彼がそういった世界観に慣れていたからまだよかったものの、彼自身、実はあの蜥蜴にすら少しビビっていた。
本能が勝り、戦えただけ。
そんな素人に、玄人の実力を求められても、石に灸レベル。
スキル「霊化」の「物理攻撃無効」や、「火無効」・「光無効」などのステータスには恵まれているから、宝の持ち腐れでもあるが。
「あの、俺に期待されても……」
『お前にしか頼めないんだ。頼む、この通りだ』
いや、跪くだか土下座だか、乞う姿勢を抽象的にとられても……
とにかく、その希望の眼差しをこの根暗に向けないでたもれよぉ。




