17 王の魔石
紋「殺戮加護」は狂乱中の要。
スキルは大半が魔力を使用する。
この世界には属性という相性があり、原色属性とそこから生まれる複数の属性がある。
その点において俺は闇。
そして、Pは紋を持つ魔物を討伐するともらえる。
ゴブリンには多くの種類がいる。
今しがた理解したのはこんなところ。
流石異世界。
もう何でもありである。
まあ、訳の分からない音声や、魔力、魔物やスキルがある時点で、何でもありなのは丸わかりだけど。
……そういえば、魔物と言ったら、多くの漫画では魔石、若しくは貴重な品物を落とすっていう設定がある。
果たしてそれがこちらの世界にも適応されているのかどうか。
そもそも、今までろくな倒し方をしてこなかったし。
ビーバーの群れから逃げ、シャーマンにやられる。
気付いたときは蜥蜴どもに追われ、気絶。
聡慧さんが誕生して、紋「欲張り」を取得したことによる極度の空腹に、俺はビーバーを食べることに集中しすぎて、素材に重点を置いていなかった。
蜥蜴の上位種だって、爆弾石で爆ぜたし。
結局、重要なものを、見逃していると思うわけ。
ということで解剖ターイム!
何が出るかな♪何が出るかな♪
影はその手を無意識で鋭く突き立て、近くにあったゴブリンの残骸に刺す。
小さく、白い目を細め、恐る恐る開く。
ぐえ、グロイ。
いやはや、俺ってば魚を開いた経験が少しあるって程度で、牛とか鳥を解剖するような本職の人ほどこういう事に耐性があるわけでもないし、何よりこいつ人型だから、めっちゃ躊躇う。
腹からは魚ほどの小さな臓器が綺麗に並んでいたそれはもう理科の教科書ってレベルで。
そして、その心臓辺り。
どうも、血管と思っていた物は魔力を通す役割も持っている管らしく、血と共に何かガスのようなものが垂れ出てきた。
そして、藤色などに輝く目ほどの小さな石が心臓に埋め込まれていた。
やっぱりあったわ。
これは魔石……?
聡慧さん、合ってる?
【はい。魔物の核を担っているのがこの魔石です。この世界ではこれや宝石を取引や鍛冶に使用します】
おお、そこは忠実な再現ですなあ。
そして、やはりあった「取引」「鍛冶」という項目。
ここには人がいるってことだ。
まあ、少し前に一人見たけど。
というか転生後すぐだけど。
この世界でどれだけの時間がかかっているかわからないからいつかと厳密に聞かれると、詰まってしまうがな。
それで、これが核ってことは、この中に魔力とか、あるなら魂とかが入ってるのか?
え、何それ怖すぎ!
俺は今、文字通りハートを掴んでるんだ!
本当に、鷲掴みに。
なんかやだね。
まあ、貴重品だし、魔吸収に仕舞いましょう。
俺の所持物が爆弾石だけだったのが、光る石が入ったことにより華やかになった、気がする。
見えるわけないんだけど。
その後も順調に、割いては入れて、割いては入れてを繰り返していった。
中には蚊のような小さい奴がいたが、それからはそもそも何も取れなかった。
まあ、地球の蚊だって、世界の均衡を保つ以外はゴミ同然の扱いだったし。
そして、最後に残しておいた一番でかく、装備が最も豪華なゴブリン、恐らくバテックだろう。
そいつを引っぺがした。
するとあら不思議!
30センチくらいはありそうなデカさの魔石が。
ほっほっほー!
これで富豪コースへいざ行かんとす!!
まあ、別にのんびり過ごせたら、金や権力とかどうでもいいんですけれども。
彼にとって古今未曾有の魔石を懐に仕舞う。
自分のスキルによる空間が、胃袋が、少し重くなったように感じる。
しかし、それと同時に何かが流れてくるのも感じた。
なんだろう、このゴブリンの感情か?
なにか、とても苦しそうな、悲しそうな。
本当に、後悔や努力を表すような芯の強い思い。
これって……魔吸収で吸ったことで相手の感情が読めているのか!?
うーん、なんか申し訳なくなってくるのはなんだろう。
あ、そうだ。
おーい聡慧さん。
【はい。どうされましたか】
このゴブリンの魂と会話とか……なんかそういったことができないか?
【アバウトですね、レジデンス……。しかし可能です】
おお、ぜひ頼みたいんだが。
【お任せください】
よし。
……おっ、耳(?)がキーンってなってきた。
耳鳴りっぽいがどうも痛くない。
さあ、このモヤモヤ、俺も嫌だから何か教えてくれ。
バテック!
『ググガ、ギグググ……グぐぐ…………ん? これは、なんだ』
「聴こえるか?」
『!? お前シャドーか、何を』
悶えるような、そんな衝動が伝わってくる。
怯えているのだろうか。
「何って、ええと、何だろう」
【意思を介して、念話を可能としています】
『!? この声は、まさか「能力査定」か!』
おう? この大ゴブリン、あのスキルを知っているのか。
否、持っていたらしい。
「いいや、厳密には“聡慧”だな」
『んな……。もしやあの頭痛の酷い「能力査定」が進化したというのか』
「おお、ご明察」
『信じられん。何なのだ』
一頻り驚いて、王は嘆息した。
そりゃあ、死んだと思ったら消滅することなく、敵と会話できている時点で末恐ろしいわな。
『っ、俺をどうするつもりだ』
どうって、どうしよう……
ねえ聡慧さん。
【一度肉体を失った魂は、腐敗しない限りそのまま核に残りますが、核が破壊されると魔石から離れ、昇華され輪廻へと戻ります】
うーん。
ちょっとよくわからん規模の話だが、つまりは簡単に復活できないってことだ。
「なんか、どうも殺すのに気が引けるんだよなあ」
『どういうことだ……シャドーよ』
「別に命に線引きしたい訳じゃないけど、無益な殺生はしたくないんだよなぁ……それにお前、誰かを守りたいとか思ってるだろ」
『!?』
驚愕の、それも震えるような感情が来る。
見透かされて驚いたか。
図星って奴かな。
『ああ、我の築いてきたこの洞窟の一角の王国。そこには我の民が多く住んでいる。我はもともと、そこまで強くはなかったが、過程で進化するにつれ欲深くなった。しかし、貴様が突如現れて、不意に悪寒が走った。悪寒の正体がその時分からなかった。我の領土拡大が邪魔されるのが嫌だったというのもあるが。一番は、民を、戦力としてしか見ていなかった仲間を失いたくなかったから、だから悪寒が走ったと気づいた。それを知り、俺はここへ来たのだ』
泣きそうな声だ。
聡慧さんの技量で、ここまでできるのも驚きだが、純粋なこの思いがそれを上回っている。
始めはただの私利私欲。
でもそこから成長し、魔物の邪悪さだけではなくなった。
逸脱した強さを得た。
魔物の中での正義。
うん、なんか知らんけど、感動した。
ゴブリンの顔はどうも忌避感があるけど……
うーん。
どうしよう、この気持ち。
中途半端。
蘇生は無理だよね?
そして、それをしたら俺のレベルが下がったりとかは、
【しませんし、蘇生は現段階では不可です】
そうだよな。
理に反する気がする。
治療はできても、蘇生は無理だな。
だって蘇生できるなら、倒しては蘇生を繰り返すことで、永遠にレベル上げ出来るし。
悲しきかな、悲しきか……え、現段階では?
ちょっと待て、まさか聡慧さん、何かしらでできるようになる?
【この世界に蘇生のスキルや魔法があるのは事実です】
まだ方法は知らないけど、例があるってのか!?
なんてことだ。
え、まさか無限レベル上げ確定?
【蘇生は一人一回しか使えないという情報がありますが】
あ、うん。
インフォメーションは完璧ですね。
流石聡慧さん。(棒)