other 過去Ⅰ
意識がない時。
不安。とっても不安。
どうしてだろう、何故だろう。
聡慧…
そうだ。俺は、あんまり一人で何も成し遂げてこなかった。
両親を失い、一人暮らしは慣れたものの。
学校ではろくに友人も増えず、クラスの端でいつもいた。
学校には多彩な奴らがいたってのに。
そんななか、旧友としか話さない。
そいつも、似たような境遇で、巡り合えたのも奇跡だった。
少しばかり、思い出?に浸ろう。
これはある日の経緯だ―――
□□□
朝、目が覚めて、布団の上に何かがいた。
愛猫「みつり」だ。
茶色の毛並みが愛らしい。
それはもうマジめんこい。
両脇を持ち、上に上げる。
しかし、興味を失ったか、我関せず状態でされるがままのみつり。
一頻り撫でた後、ずいっと毛布から体を起こし、布団を畳む。
ここは1DKの部屋のアパート。
狭い気もするが、俺と愛猫には何の不自由もなかった。
しかも、そこまでお高くない。
ここの大家がいい人で、「うち、そんなにお金に困ってねえから、安くしといたげる」と言って、学生にも困らぬ程度の金額にしてくれた。
もちろん、俺が何もせず稼いでいるわけではない。
中学生の俺だが、両親は他界。
そんな俺を拾ってくれたスーパーの店長に、裏方を任命されている。
商品を運び、品出しする毎日。
もちろん、学校にも行っている。
放課後や休日。合間を縫って勤務している。
教師も許可しており、旧友も「いいじゃん、かっけえじゃん」と励ましてくれた。
素直に嬉しい。
本当に恵まれていたと思う。
両親、兄弟がいない俺はその存在だけが頼りだった。
それを失ってなお平常を保てているのは周りのお陰だ。
そんな俺は、ご飯をささっと卵かけご飯で済ませ、支度。
歯を磨き、服を着て、荷物を持ち、みつりをまた撫でる。
ガチャンという音を残し、部屋には猫の武者震いだけが残った。
ちなみに、主人不在中、みつりは大家さんが世話します。
□□□
学校についた。チャリを駐車し、校舎へ向かう。
今は夏が盛り、日差しが強く、目を開けるのが割と辛い。
漕いだせいで汗が少し噴き出す。
直ぐに教室へ向かって、エアコンに当たりに入る。
最近はエアコンに助けられるな。
教室に入った途端、眠くなってきてしまった。
カバンをかけ、机に突っ伏す。
グッナイ。
…
「おーい。繁治氏? 登校直後にスリープモード入るなよ。スマホかよ? 暗いし陰キャラ言われるよ?」
キャッチーな声が聞こえる。
これこそ旧友の「羽田 貞治」。
俺とは違い、明るい性格ではあるが、生粋のゲーマーである。
親が生前、残すように買ってくれたゲーム機や、最近買った某有名ゲーム会社の人気機種なんかで共に遊ぶ中だ。
この前のとあるRPGオンライン大会では彼と上位に上り詰めたこともあり、二人とも上機嫌であった。
学校、アルバイト、家事、猫、ゲーム。
多彩かつ、多忙な生活に、体が追い付いていないことを感じつつも、楽しんではいた。
「うーむ、すまん、寝る」
「早えなおい。親友である俺っちとトーキングしねえか? 生命力感じない奴め」
彼は前の席に座る。
そこは禁忌の席であるにも関わらず、どっかりと腰を下ろしているところに、才能を感じる。
クラスのマドンナとされている「笹峰 凛」の席だ。
彼女の人気はクラス問わずのトップアイドル級。
運動は一般人並みにできてはいるが、周りは「笹峰の本気」というのがまだ隠されてると言い張り、それを見るために体育では彼女に見せ場を作ろうと頑張る女子がいるほど。
実際そんな一面を見たことがない俺だが。
そして成績優秀で、正真正銘、文武両道に近かった。
正しく、手の届かない、俺たちとは全く無縁の存在。
陰陽など超越していた。
クラスの戸が、朝吹く風を誘うようにスライドする。
そして、クラスの大体の視線を奪った。
人気者だな。
とてもじゃないけど、あんな人数に囲まれたら俺は死ねる。
笹峰のファンで一か所が埋まってらあ。
「う、うん。そうだね。ああうん、またあとで」
忙しなく、クラスの男女の渦より生還した彼女は、颯爽と席に向かってくる。
そして占領されている椅子を見て。
「ごめん、羽田君。席開けてくれないかな?」
綺麗な声色でそう言った。
カラオケとか言ったことあるのかな。
俺は余り行かないが。
恐らく、女子どもに連れていかれたこととかありそうだけど、歌えばどことなく映えそうである。
そして、そのシャワーのごとくを浴びた友は、反対向きに座っていた姿勢を戻し、立ち上がる。
そして、一瞬間彼女を眺めると、
「ああ、悪い悪い」
と言って、その机上に座ってしまった。
何にも恐れぬその根性に至っては、このクラスのガキ大将にも引けを取らないことだろう。
もはや魔王の域だな。
もしかしたら、勇者級かも?
「ふふふ。相変わらず、面白いね」
意外と好印象である。
え、これOKなの?
信じられない。
こういうのにはズバッと言うもんだと思ってた。
辺りにいた笹峰ファンにおっそろしい眼光で睨まれていることに気づき、関係ない俺がビクッとしてしまった。
当の貞治は無視。
そして、彼女は今も俺を巻き込む感じで三人の空間を作っている。
職人である。
しかしながら俺も、その他愛無く日常が過ぎる余韻に浸っていることもあった。
楽しい、鬱陶しくも嬉しい。
でも、そんな甘い時間はそんなに簡単に続かない。
クラスの戸が簡単に爆音を立てて開けられ、大きめの男が入ってくる。
これがこのクラスのガキ大将にして、笹峰ファンの一人でもある「赤井坂鉄」。
その体格と性格故、ファンの中でも少し孤立した存在となっていて、その子分すら発生しない。
唯一の恐ろしい生徒。
その眼光は普段から鋭いものの、今は増して執念深いものになっている。
強そうである。
机の上に、優雅に座る彼を見下ろすようにその巨体が接近。
この瞬間目と目が完全に合ってしまった。
「何、フィアンセの卓に座ってんだ」
「うーん? 君の口からフィアンセって、なんか変だねw」
あざ笑うように見上げる貞治。
しかしそれは火に油。もはや、鉄と貞治が水と油だが。
青筋が浮かび上がり、歯ぎしりして、その名にふさわしい赤一色の顔になってしまった鉄。
「てめえ、死にたいらしいな」