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15 小鬼の王

 死を覚悟してしまった。

 それを前にして、何と情けないことか。

 もう、我なしでは勝てぬと踏んではいたものの、本当に冗談でもなんでもなくそうなるとは考えていなかった。

 足が地をしっかりと踏み、目は相手と同一直線上。

 相手も大概巨大だった。

 彼の者の手にはさっきまで生を司っていたはずの物が。

 今ではもうその原型をかたどってすらいない。


 手にある上質な肉を、ムシャコリ。

 その旨味、若しくはそれによる満腹感にか、満足そうにこちらを見て魔力を放つ。

 相手の体に馴染んだ魔力なので、こちらが吸収出来はしない。

 まあ、時間が経てば純粋な魔力になりそうだが。


 しかし、その目線が恐ろしい。

 どうも、魔物と向かい合っている気が全くしない。

 誰だ?

 ほんとに人間とかではないのか?

 こちらを見透かされていそうで怖い。


 辺り一帯には、元祖魑魅魍魎だったであろう毛皮や角、骨、灰に至るまで、様々な残骸がそこにただ何もなかったかの如く在った。

 ここに来るのにそう時間はかかっていないと踏んでいたが、それは単なる仮定、想像に過ぎなかった。


 そこには只、猛者達の固く重い空気が残る。

 この緊張冷めやらぬ戦慄は何処まで続くのか、いつ戦火がふっちぎれるか、はたまた相手が隙を見せてくれるか、それを刹那・瞬間で意識しながら、すぐに戦闘に入れるように準備する。


 剣を構え、盾を握り直す。

 その手の隙間からは少しだけ水分が漏れ、洞窟の鉱石の光に反射する。

 それは額も例外でなく。


(いつ来る?)


 そう脳裏で考えがよぎった途端だった。


「スパンッ」


 切れる音。斬撃は見えなかった。

 何が起きたのか、その時のバテックには理解という些細なリアクションすら許されなかった。

 目の前には相変わらず敵がいる。

 そして、遠視で5体確認していた眷属だって、今も影の足元にいる。

 …いる?

 いや、足りない。一匹足りない。

 冷や汗が垂れる。

 いいや、それどころではない。

 その汗が痛みを生じた。

 起きるはずがないのに、それは顔を半ばまで滑っていったと思ったら、沁みた。


 手でそこを拭うと、手の甲に赤く紅が付着した。

 感覚すらないスピード、いや、もしかすると遠視を掻い潜って、我の背後にいたのだろう。

 今は遠視にその眷属が見えている、丁度我の二歩後方。


「そこだな!!」

「ピギュイ…」


 影は虚しく消し飛んだ。それはスキルで操っていた技を阻害したのと同じ。しかし、それは普通に非物理の、影響するような抽象的攻撃だ。

 ならなぜこのゴブリンがそれを出来たか、答えは単純、スキル「魔力撃」というもののお陰ということだ。説明する必要すらないほど、この名が語る。魔力を斬撃として使う高等技。


 しかしこの技、実は幅広く進化するのだが彼のものは成していない。

 彼はLv70だが、それは、幾つもの種族を乗り越えてのレベルだ。魔物が一定のレベルに達したときに起こる「進化」という、言わば脱皮に近い成長をすると、それに伴い各種身体能力の向上、新スキルの獲得の可能性、レベルのリセットなどの機械的機能が行われる。

 それを少なくとも7、8回は繰り返している彼は、合計すれば200Lvに達しそうな境地にいる。なのにこの魔力撃は熟知・進化していない。それほどまでに強力なものだということが分かる。


(しかし、この隠密性…。あいつの体は影でできているから、この洞窟のあらゆる面から飛び出すことも可能なのだろうな。だとすれば、我の命の生存権はあいつに握られたようなものではないか…。)


 このままでは防戦一方の劣勢になりかねない。

 それを瞬時に判断し、まずは相手を把握することを最重要項目とする。


(さっきは撥ねられたが、この距離ならばどうだか。能力査定は頭痛がするから懲り懲りなんだが…)


 スキルをイメージする。

 脳を血液や栄養が目まぐるしく回り、情報処理を加速させた。

 心臓は脈打ち、目は相手を掴み取る。

 最善を尽くす、ただそれだけを念頭に置いて。


(「能力査定」!!)


【ステータス 解析を阻害された】


(くっ……「能力査定」!!)


【ステータス 解析を阻害された】


(くっは…・・ぐぬう、「能力査定」「能力査定」「能力査定」「能力査定」「能力査定」「能力査定」「能力査定」「能力査定」「能力査定」「能力査定」!!)


【ステータス 解析を阻害された】

【ステータス 解析を阻害された】

【ステータス 解析を阻害された】

【ステータス 解析を阻害された】

【ステータス 解析を阻害された】

【ステータス 解析を阻害された】

【ステータス 解析を阻害された】

【ステータス 解析を阻害された】

【ステータス 解析を阻害された】

【ステータス 解析を阻害された】


 頭が痛い。

 割れそうに痛い。

 ピキピキと、擬音が聞こえてしまいそうなほどの頭痛。

 どうしようもない。

 これは相手に軍配が上がっていると見たほうがよさそうだ。

 もうどうしようもない、覆すことができない強さ。

 計り知れない値。

 ここから先の勝ち筋がプツリと切れてしまった。


 だが、諦めることはできない。

 我は認められたはずだ。

 強くなったはずだ。

 経験を積んだはずだ。

 その功勲を、業績を蔑ろにしてたまるか。


 あの要塞には近づけさせない。

 それでなくとも、この洞窟が壊され、我らの餌となってくれた食料たちの系譜を、意味もなく惨殺されてはこちらも癪に障る。

 なら、せめて、この命尽きるまで、健闘しよう。

 出来るまで、守るまで。


 死なない、死なせない。

 我の貪欲を舐めるのも大概にしとけ謎の狂生物。

 今からお前を叩きのめす!


「「貪欲」「斬首」「威圧」!!」


 貪欲は精力を使って攻撃力、つまり筋肉の動きを活性化させるもの。

 その戦いに飢える姿勢が、貪欲ということだ。


 斬首は一般のゴブリンすらも所持しているが強力な斬撃強化。


 威圧は相手を怯ませるもの。


 これらを同時発動しているところからも、彼の魔力がどれほど優れているか知れそうだが、唯一、威圧は相手には効果がなかったらしい。

 思いっきりこちらに弾丸のごとく速さで飛んでくる。


 しかしそれを守る様に眷属も付属してきた。

 それを彼は一振り。

 魔力がこめられ、寝られた空気が、そこにある物体を相殺する。


「「魔力撃」!! オラアアアアアア!!!」

「ピギャア」

「ピギュウ」

「ピギャイ」

「ピギャス」


 斬撃の猛攻を諸に食らった眷属は、漸減していった。

 その数が無くなり、盾が消えた影。

 しかし同時に、バテックにも隙ができてしまった。


 それが決着だった。

 何のこともない。

 ただ相手のスピードが速すぎただけのこと。

 反射のように盾を流れるような動作で構えたはいいものの、もう相手の攻撃は、上からも下からも、左右からも、斜めからも、ゴブリンの主の体内からも出てきていた。


 ウニみたいな感じで針が彼方此方から飛び出し、見るも無残に攻撃された。

 どうしようもなく強かった。

 ただ、それだけだった。


「グハッ…やられた……ま、守らなければ………」


 遺言が聞こえたものはいない。

 だって、影本人だって、無意識で意識的なのだから。


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