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12 殺戮加護・Ⅱ 擬人

【紋「殺戮加護」を入手しました】


 殺戮加護、それはバーサーカーに与えられる褒美。

 甘美な栄光。

 僅かな補助。

 その効果は彼にとって大きな進歩である。もう、何もできないなどと弱音を吐く必要はない。


 これは無意識下での戦闘記録である。




        □□□




 自然現象、それは本来、意識を伴わないもの。

 日が昇り、川が流れ、花が咲き、影ができる。

 音が鳴り、風が吹き、匂い香しく、月が見える。


 何でもなく、美しい色彩は、心に響くものだがしかし、それは時として、意思を持つ。

 空気中に飛散した魂が、依り代を物質に変える。

 でもこれはケースの一種だ。

 実際は別の精神系モンスターから派生して生まれることが多い。


 そしてそれは主に魔法の原色とされる属性によって種族が変わる。

 火を纏う「フレイム」

 水を纏う「リキッド」

 風を纏う「ウィンド」

 光を纏う「シャイン」

 闇を纏う「シャドー」


 彼らはそれぞれに派生することが可能で、その性質より、魔法使いはもちろん、多くの冒険者・戦闘者から忌み嫌われている。

 彼らによる被害は少なくはない。

 例えば、フレイム。

 過去に、これに多くの家が焼かれるという事件があり、その規模は30戸にも及んだ。

 それも、たった一匹のフレイムに。

 何せ動きは速く、熱くて近寄ることすら許されず、風の魔法などでは逆に炎の媒体である酸素や魔力を多く与える結果となり、帰って大事故を招くことに。

 これの対処としては、水、もしくは原色属性と光を掛け合わせて作る、土を操る属性などで倒すことが望ましい。


 さらっと言ったが、属性という概念がここにはあり、その数は意外に多い。

 属性とは言っても、実際は科学的にどちらが有利かという程度の話だが。

 それでも、確かに存在する優劣。

 タイプ相性というものである。


 そしてそれを説明するには、属性を知る必要がある。

 この世に属性はいくつか存在するが、主体となるのは、地球のゲーマーなら皆確実に確定的に知っているものである。

 火、水、風、光、闇。

 これが原色属性。

 魔力の属性の根幹。


 そしてその中から一つと、光を混ぜることにより、他の属性として成り立たせることもできるのがこの世界の真骨頂。

 その方法としては様々であるが、その半分は魔法によって作られる。

 魔力・魔法の構造を考え、原色属性を二つ掛け合わせる。

 しかしそれは大きな負荷を伴うため、ただ練習しただけでは到底その境地に至ることはできない。


 だが、属性混合の使用方法はそれだけではない。


 例えば、この洞窟のビーバーの進化個体は土の魔法やスキルを取得できる。とはいえ、魔法には計算やイメージが必要なので、「言語的知識のないモンスター」に魔法は使えない。

 したらばスキル。つい先ほど、この洞窟でとあるビーバー隊の隊長が死んだが、彼は「土震」を使うことができるようになった。魔力を、土属性を持つ攻撃に変換するものであるが、それはあくまでスキルという概念による補助。実際はスキルが、魔力の原子構造などをいじり、属性「火」と「光」を技に組み込み、それを放出している。


 土属性は火属性と光属性の混合による賜物。それは耐久性や貫通性に優れている。まさに、土で生きる彼らカストロイの特権である。


 唯一懸念があるとすれば、この混合、もとい一つの属性はその前段階の属性の力を持たない。先程タイプ相性といったが、例えば、水は火に強い。これはゲームをするものにとっては割と常識な気もするが、時に、土も火に強い。土は火をもとに作っているが、それでも、火には強くなる。でも、水に弱くもなる。


 このように、個の属性はそれぞれ得意不得意とする相手属性が違う。だから、一概に混ぜれば強いというわけでもない。水が得意でも、賢者級の火の使い手には、見るも無残に蒸発させられるだけである。

 これが属性の特徴。

 あと、混合属性には、原色属性からしか属性を生み出せないという特徴もある。

 ここに例を挙げておこう。


 火+光=土

 水+光=雷

 風+光=竜

 光+光=聖

 闇+光=霊


 魔物は、スキルによる補助で簡単に混合属性が作れる。そして、それを利用する者、魔物を使役する者がこの世界には当然いる。

 召喚師、獣魔契約師、調教師、テイマーなどなど。

 彼らの殆どは、魔力が感知出来ても魔法やスキルなどが使えない。それを克服するために魔物に協力を仰ぐことで技を使うのだ。


 そんな風に、数多に変化する魔力、その属性は、多くの戦術に組み込まれ、手札となり、強者を屠る牙となる。


 ここで、視点はバビリア洞窟の一角に戻ろう。

 今尚暴れ続ける、シャドーはこの大迷宮を大声疾呼しながら、かじるが如く旺然に鉄槌を下している。

 しかしその頃、生まれるものがいた。


 洞窟の壁に、打ち付けられたようなクレーターが垂直にできている。

 そこには乾燥した赤いものが。

 それはまごうこと無き、鉄分。

 血である。

 なら当然その下には…


 遺体があった。

 それは恐らく冒険者だろう。

 そして、彼(彼女?)のまだ皮膚が残る手には、ギリギリ命を紡ぐ灯が存在した。

 洞窟では、どこでも必須な物。

 かくいうシャドーも初めて人に遭遇した際にそれを見た。

 松明である。

 今、先端で燃えるそれは本当にか細い。

 死にそう、散りそう。

 でも、その勢いは何故か増していった。

 メラメラ、ギラギラと。


 遺体を飲み込むように吸い込み、体を製造する。

 彼ら精神魔物は、無形体になることが多いが、人に近い形になるものもいる。

 それでも、一頭身くらいの体に手足が生えただけだが。


 そして遂に、遺体を魔力として吸い込み完了せし。

 火の形が徐々に人に近しくなっていく。

 その身長2m弱。

 そして、黒い目のような模様が2つでき、一つの魔物になった。


 身体を手に入れた。

 その喜びを噛み締めながら、スキル「炎弾」を辺りに巻き散らした。


 その一つが、近くにいたバビリアフラッシュカスターに降りかかる。

 悲鳴を上げながら燃え、焦げてしまう。

 因みに今、灰と化さなかったのは、火が土に弱いからである。


 フレイムは踊る様に道なき道を進む。

 ただ一筋。

 あの化け物に向かって。


 「ブオッ」


 分裂した。

 その様子はアメーバと近しい。

 分裂分裂、細胞分裂。


 先程まで静けさを代名詞とするはずだったバビリア洞窟の大きな通路は、瞬く間に火の海となった。

 床だけが燃え広がるその光景は、さながらマグマといったところ。


 その溶岩のごとく押し寄せる波紋は、着実に歩みを進めていた。

 黒く猛烈な、影の下に。


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