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10 無覚の狂

【精力が一定値を割り込みました。これより、狂乱します】


 それは耐えられない宿命。

「紋」の恐ろしいところだ。

 欲張り。

 その効果は空腹速度の上昇と、飢餓時に、一定時間まで食料を探し殺戮を繰り返す「狂乱」モードになるというもの。

 それは意識すら奪い、本能のままに動くただの天災となってしまうものだった。

 しかし彼が唯一幸運だったのは、自身の攻撃力が0だったことだろう。

 身体が形状変化を繰り返し、黒い半透明の獣のようになる。

 妖怪のようなそのいでたちは見るものに恐怖を与えるのに苦労はしなさそうである。


「グオオオオオオオオオ!」


 金切声に似たものを上げ、苦しさに悶えている。

 腕を振り回すも、狩れるのは岩だけ。

 魔物が近づいてきても、弾くだけで、何の攻撃力にもなっていない。

 因みに、その魔物は、バビリアエルリザードである。




        □□□




 相手は今悩んでいた。

 暴れまわる黒いものにどう対応しようかと。

 リザード種は、興味本位で動くことが多いため、目の前にあるものが餌であるか、確認する習性がある。

 今は彼の影にとっては狭いこの洞窟で、バビリアエルリザードは瞬間的に壁を登り、上から「毒皮膚」で生成した毒体液を垂らす。

 体液自体ではなく、毒による痛みだけは感じ取られ、彼も蜥蜴の存在に気付き、上に爪を振り上げる。

 蜥蜴には、爪によるダメージはないものの、岩と爪の圧に挟まれ、HPが少し減った。

 錐揉みするように下降し着地。

 蜥蜴は間髪入れずに胃液交じりの舌を伸ばした。

 しかし、腐っても相手は精神魔物。

 その舌どころか胃液すらも「霊化」の前に散った。

 聞くのは毒皮膚の力によるスキルの毒だけだが、その効果もあまりないらしい。

 霊化を使われないように魔力を吸い取れたら効いたかもしれない。

 だが相手もこちらも、決定的な攻撃手段を持たず、HPを削り損ねている。

 蜥蜴は賢いのか、逃げるが最善策と判断し、尻尾を切り捨ててでも逃げようとした。


 しかし、そうは問屋が下りない。

 相手が空中、厳密には腹の中より青息吐息しながら取り出したのは、紛れもない爆弾石。

 数分前の爆音より、その危険性を身にしみて感じていた蜥蜴は、振り返るのをやめ、走りだそうとした。

 でも、物を投げるスピードには敵わなかった。

 荒い光と煙を巻き散らしながら、その空間は爆発した。

 黒焦げになり、帰らぬ生物となったそれに、近づき始める者が一人。

 手が伸びる。

 掴む。

 持ち上げる。

 食らう。

 サイズがデカくなっているため、ほぼ丸のみだ。

 欲張りの紋は、動物や植物の肉体をも魔力に還元しないといけないほどMP必要とする。

 純粋に、空気中の魔力だけでは足りないのだ。


【個体 シャドーのLvが6に上がりました。体力少回復、状態異常解除】

【免疫が一定になりました。スキル「腐食毒耐性」を取得。熟知させ、スキル「腐食毒無効」を取得しました】





        □□□




 蜥蜴の鱗と、爆弾石による残骸が残る時、そこに足を踏み入れたのは、炎。

 赤、橙、黄、白に輝く人に近い形を保つ精神系モンスター。

 それはシャドーの派生形。

 いわゆる突然変異に近い種族だ。


 軽快に現れて、火を噴いた。

 その魔物はフレイム。

 彼の影に「火無効」を与えたのもこの魔物である。

 しかし、火を無効するスキルとはいえ、あのシャドーのその力はあくまで「自然の火」「魔法の火」のみを無効化するもの。

 つまり、フレイムが無自覚で撃った、スキルの火は、物理でもないため、透化でも無効化できず…

 体力が減ったのを感じる。

 苦痛に目を細め、そのうすら白く光る眼が炎を捉える。

 憤怒。

 爆弾石が投擲される。

 フレイムはそれを躱そうとしたが、石の下から影が伸び、石を貫いて、途中で大破した。

 それは影操作で体の一部を伸ばす、疑似的な遠距離スキルであった。

 かき消える炎。

 しかし、食事が残らない。

 腹が減った。

 腹が減っては戦はできぬ。

 戦どころか、死ぬ。

 なら、限界突破だ。

 突破、爆破、捕食、吸収。

 掘削、透化、回復、耐性。

 耐える耐える。

 耐える耐える耐える耐える。


【個体 シャドーのLvが7に上がりました】


 またフレイムが三体ほど。

 しかし敵ではないし、もはや食料にもならないから、必要性を感じ得ない。

 なので消えてしまえ。

 今は、魔吸収の容量も増えて、爆弾石がこんまりとある。

 投げつくすまで終わらせない。


「グウウウウウオオオオオオッッ!」


 吹きすさぶ炎。

 壁も脱皮するかのように、表面が剥がれる規模。

 人間がいたら危険だっただろう。

 人間じゃなくても、ほとんどの生物が致命傷を負いそうだが。

 そして、また集まってくるフレイム。

 しかし、することは変わらない。

 生きることを邪魔する存在は消さねばならない。

 例え、それが何であったとしても。

 十数匹のフレイムを闇に葬った後、そこには静寂が残る。

 狩りに行こう。

 成長しなければならない。

 食べなければならない。

 三大欲求の中心核、食欲。

 覚醒するときだ。

 バビリア洞窟のメニュー、片っ端から食してやる。

 脳裏に声が響く。


【紋「殺戮加護」を取得しました】


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