9 霊化沈下
うう、腹が減った。
なんでこんな考えなししたんだろう。
威力を見誤ってたわけじゃないけど、死体はほぼ骨と焦げたタンパクの残骸。
【個体シャドーのLvが4に上がりました。体力少回復、状態異常解除。スキル「影潜り」を取得。熟知して、スキル「影操作」を取得】
【免疫が一定になりました。スキル「痛覚軽減」を取得。熟知させ、スキル「痛覚耐性」を取得しました】
【個体シャドーのLvが5に上がりました。体力少回復・既定。スキル「魔吸収」「幽体」を取得しました】
【スキル「透化」「物理攻撃無効」「幽体」を統合。スキル「霊化」を取得しました】
おう!?
急にレベルが上がった。
そんでもって、なんか凄いスキル手に入れちゃってるよこの人。
なに? 霊化?
【・霊化 物理攻撃を無効化・すり抜けし、透明になることができる】
ワオ!
完全に幽“霊化”ってことか。
すげえ。
でも、それイルカ?
今欲しているのは、食事なんだが。
【…申し訳ございません】
え、あ、いやいやっ。
なんかごめん。
素直に謝られると、こっちの他人頼りが目立ってしまう。
自覚はしている。
俺が聡慧さん頼りなのは。
こっちに来て一人だったから不安なんだ、多分。
空腹で、イライラしているのもあるだろう。
俺は首を横に強く振った。
ダメダメ!
こんなところで躓いてたらだめだ。
異世界転生したんだ。
苦労はいくらでもある。
寧ろ、信じてなかった幻想的世界に来れたんだ。
これまでだって幾つも乗り越えてきたじゃないか。
ゲームのオンラインリーグ大会。
フレンドと協力、ボス退治。
たまに来る大家さんとの夜まで愚痴大会……いやあれはマジでしんどかったな。
大家さん、酒飲むと妙に絡んでくる節があるからなあ。
まあそんな俺、今回は寧ろ、安心するべきだ。
大丈夫。
聡慧さんも落ち込まないでくれ、今後ともよろしく。
……な?
【はい、レジデンスの精神状態の安定を確認。安心しました】
相変わらず、名前で呼んでくれないもんだ。
ってか、そもそもの話。
俺こっちに来て名前なんて持ってなかったな。
名前…誰かつけてくんないかなー。
聡慧さんつけてよ。
【感情的な行為に関しては鈍いので不可能です】
唐突千万な言い訳だなおい。
何が鈍いだ。
丁寧語使えて、安心する心があるなら、相棒として名付け位してほしいものだ。
まあ、いいよ。
何となく個人的に美女とか仙人につけて貰った方がありがたみあるし。
名前より、今は飯だメシ。
とにかく腹が無くなるのが早くて困る。
出来れば幽霊だから、ご飯ドントニードであって欲しかった。
ええと、ステータス。
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ステータス シャドー Lv5
攻力0
防力10
体力21
魔力39
精力86
俊敏30
紋:不屈の影・欲張り
スキル:聡慧・霊化・体力即時回復・魔力即時回復・痛覚耐性・火無効・光無効・存知・掘削・影操作・魔吸収
P0所持中
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やばいなあ。
痛覚耐性のお陰で、痛みは和らいでいる気がするものの、それでも痛い。
痛覚耐性は気休め?
気を休められるから「気休め」だろ。
今休まってねえよ?
はぁ、空腹も辛い。
ここにはまともな食事がないせいで、ろくに空腹が満たせない。
影も薄れつつあるレベル。
魔力供給が怪しい。
スキルが仕事をしなくなりそうだ。
とりあえず、魔吸収の使い方を聡慧さん指導の下、習得。
爆弾石を、入れれるだけ入れた。
数はもう覚えていない。
結構入れてしまった。
底知れぬ容量なだけに、熟知後の進化で化けそうだよこのスキル。
……いっそのこと、洞窟ごと収納して、この腹を満たすものだけでも、回収できんかなあ。
淡い期待を抱きつつ、歩みを進める。
洞窟の出入り口が、どこに何個あるかはわからないが、すぐにここを出たい。
音が反響しやすく、弱い魔物なんかはすぐに逃げてしまう。
それにさっきの爆破。
存知で見える辺りに生気が満ちていなかった。
皆聴覚は元人間の俺より優れている。
年の功?
一日の長?
まずい、本能がそう叫んでいる。
一刻も一刹那も、無駄にできない。
とにかく疾走してみる。
速く、早く。
走り去る中見えるのは骨ばかり。
闘争激しい社会らしいが、それもあの災害級の音の前には口を紡ぐ。
う、吐き気に似た嫌悪感、悪心。
あまり味覚は無いが、口(?)の中が酸っぱい気がする。
石光る壁にもたれる。
その石は俺と反面恐ろしく生き生きとしていて、キインと声を漏らすらしかった。
緑、青、そんな風に鈍く輝くエメラルドのようなその鉱石の名は、
【・ミスリル とても固く、武具にも用いられる人気金属】
ファンタジーにありがちな金属。
いいよなあ、物質は。
空腹も感じないし、ただそこにいるだけでいいんだから。
擬人化するはずもない石に脳内コミュしながらも、ズリズリと進む影。
意図しない場合音は出ないので、気付く魔物がいるはずもない。
今は寧ろ音を出したい。
爆弾石を使うか?
しかし、威力が高すぎる。
相手はすぐに逃げ出してしまうだろう。
本末転倒になるよりは、行動を控えるのが便宜。
そう判断し、落ち着く。
落ち着く。
落ち着く。
落ち…
落……
………
意識はそこで途絶えていた。
そう、途絶えていた。
あくまで過去形だ。
それまで、俺が何をしていたのかは思い出せない。
空腹に勝てず死んだのかとも思ったがどうやらそれは違うらしい。
脳裏で、聡慧さんが何事も無かったかのようにステータスを見せてくれたときは目を見開いた。
俺が気が付いたとき。
そこに、目下に広がるのは、身震いせざるを得ないほど、血を流す魔物達の亡骸だった…
どうやら狂乱…したらしい。