8 蜥蜴の毒
やべ、隠れろ!!
あっぶねえ。
今の一瞬で、灰燼に帰されるところだった。
字面通り、灰に。
現在進行形で、命の鬩ぎあいをしているのは俺ことシャドーと、バビリアリザードの上位種である、バビリアエルリザードだ。
相手はたまに光を放ち、石眼を向け、極めつけは毒の皮膚で守られている。
俺に物理は聞かないから毒は効かない、そう思っていた。
しかし、これも言わばスキル。
しっかりと毒のダメージも入ってます。
さっき少し触ったんだけど、体力が少し減ってしまった。
触った、というよりは尻尾で薙ぎ払われたときに毒が触れた。
尻尾の純粋な打撃は効かないものの、毒は針のように痛い。
泣きそうになる心を抑えて必死に攻撃を避けた。
それはもう必死にっ!?
アイツ…体を犬猫のように振って、毒を飛ばしやがった!
前世の世界の幽霊みたいに完全な幽体になれないから、影の仮の肉体でも食らうんだよ!
あ、痛い痛い!
ひええええええ!!
もうヤダ!
ええい、やけくそじゃあ!
俺は右手に力をなるべく入れずに握っていたそれを、ジャクソンカメレオン似な相手目掛けて投げた。
空中で光りながら回転し、見事角に命中。
その途端、悍ましいほどの爆音と爆風が満ちた。
やべえ、体が吹っ飛ぶ!?
くううう!
岩にしがみつき、何とか耐えた。
恐らく、光と火を無効できてなかったら死んでたな。
で、肝心の相手はというと。
傷はあるものの、ピンピンとしてやがる。
あ、はい。
負けました。(棒)
うお!?
お前ホント多彩だな!
ベロが飛んできた。
巻かれて絞殺されることはないにしても、毒をスキルで分泌できるような変態に飲み込まれて、生きていられる奴がいるかって話だよ。
そうならないためにも。
逃走!
俺は、鬼から逃げるぜ!
ひらりと飛び、舌は空を取る。
良く躱せたと自分でも驚きだが、恐らくこれは、ヴァーチャル・リアリティ・ゲームをしていたせいだろう。
相手の弾幕、剣撃。
機械任せで無茶な速度の軌道を見てきたからか、なんとなく相手が遅く感じる。
止まって見えるぜ、なんて格好はつけられんけど、それでも相手が動揺を隠せずにいることに、自分はちょっと浸りたい。
決して、増長しているわけではなく。
スタっと地面に舞い降りる。
しかしその隙を相手も逃さない。
油断大敵。
蜥蜴は石化の目を全開にしていた。
しかし、それを俺は読んでいた。
地面に埋まっていた爆弾石、それをぶん殴る。
突如地面の岩が、砂と共に飛翔。
目くらまし&石眼防止。
攻撃は無駄無駄に終わった。
走って相手に近づいてみる。
って、何も血迷っている訳ではない。
確かに、今、相手の毒が体に残っていて、少し前に取った「体力即時回復」の回復速度と相殺されて、体力は恐らく6割くらいだが、油断はしていない。
手を爪のようにして相手に振ってみる。
でも、それは0ダメージ。
岩には入ったはずの亀裂ができない。
攻撃力0だから? 生物相手に通用しない?
試しのつもりだったが、試しで終わってしまった。
しかし、それだけではない。
己がだめなら道具に頼るまで。
爆弾石を、透化を使って相手の目の前まで行き、口に投げ入れた。
爆風が口から放たれ、俺も身を後ろに飛ばした。
体内は皮膚と違って防御が薄い。
結構なダメージになったはず。
口の中から黒煙を出し、苦しそうに咳しつつ、肩で息している。
しかし、相手も馬鹿ではないらしい。
俺が爆弾石だけしか使わないことを悟り、毒の身に任せた突進を繰り出した。
口は開けずに。
闘牛士のように躱したものの、相手の素早さは俺の約三十倍。
すぐさま体を捩じって軌道修正。
再び角を向けて襲ってくる。
避ける。
正確にはなんとか避けれた。
だって、俺の俊敏は27。
対して相手は302。
そこには大きく差がある。
普通は避けれない。
でも、相手の動きは直線的、俺は見切って躱せる。
何ともまあ、ぎりぎりの戦いだこと。
そして、このままでは終わりが見えないので、強行しようと思う。
さっきから少しづつ、魔力を使って、存知を使って辺りを見ていた。
いや、それをしていたのは聡慧さんだけど……
そしていい場所を見つけた。
さあさあ、鬼さんこちらですよ!
角が三本もあるから最早鬼の域に収まってないですねー。
相手は再び俺に向かってきた。
ジャンプで躱す。
それも読んでいたか、相手は急停止し、真上にベロを仕向ける。
しかあし、それを俺は望んでたぜ。
おらあッ!!
先に採ってた爆弾石二個!
舌を沿うように、石が口に吸い込まれる。
途端に爆破。
相手も瀕死の重傷だ。
周辺の爆弾石が尽きたため、止めを刺せない。
よって、シャドーはある場所に狙って立った。
蜥蜴は弄ばれていることを知り、石眼ではない純粋な憎悪の目を彼に向け、唸って、再度突っ込んでいく。
そうだ、こいこい。
ギリギリまで引き付けて…
…
…
……今だ!!
透化発動!!
からの回避。
いわゆる、「闘牛戦法」!!
急に暗闇に馴染むように消えた相手に、蜥蜴は目を見開く。
そして、すぐに相手の思う壺だと知ることとなる。
足が空中を踏み抜き、そのまま重力に従って、少し落下した。
その落ちる際、蜥蜴は壁にあるものを見た。
言わずと知れた、光る石。
その中には熱が籠り、触れれば爆発する。
簡単な自然の地雷。
それが、床いっぱいに敷き詰められていて…
想像を絶するほどの震動。
それは、もし人がいたならば鼓膜を貫通することも容易かったであろう風と音を伴っていた。
暗かった洞窟は瞬く間に色を取り戻し、そのまま色相を真っ赤に変えた。
天井のコウモリたちは逃げ遅れ、連鎖するように爆弾石が破裂。
ビーバーや蜥蜴たちの悲鳴も聞こえた。
地獄の時間。
それが終結したのは5秒ほど経ってからだった。
うん、我ながら完璧だったと思う。
というか初戦闘にしては恐ろしく上手かった。
これで経験値も食事もうまうま。
まあ、食事は毒のある部分以外しか食えなそうだけど。
…………ん?
いや待て待て。
よく考えたら、食事が残らねえじゃん!?
み、ミスったああああああ!?!?!?