8
フィーダリアで生まれた子供は、生まれた瞬間から等しく魔素という《毒》に晒される
例え魔素吸収限界の高い騎士の子供であろうとも、まだ慣れてもいない毒に対して体は過敏に反応し、熱を出したりと体調を崩すことになる
そのため、親や医者による定期的な魔石による魔素の排出が必要になる
こうすることで体が出来上がるまでに少しずつ魔素に慣らし、魔素吸収限界を少しでも高めた上で安定させようとするのだ
これは王都に住まう貴族や王族でも同じことで、魔物の領域に近い町や村に赤ん坊や小さい子供が多いのはフィーダリアではありふれた風景となっている
レオンハルトは、生まれた時から魔素の毒に対する反応を起こしたことがなかった
これは本来有り得ないのだが、だからといって説明も出来ない医者は
「恐らくは魔素吸収限界が生まれつきとても高いのではないか」
とレオンハルトの父バーナードに伝えていた
バーナードは喜んだ
それはもう喜んだ
騎士にもそれなりに優劣があり、中堅クラスのグリムワルト家でも王都の貴族に対してそこそこの発言力を持つ
この世界では権力よりも、実際に自分達を救う武力の方が尊重されやすいのだ(もちろん、権力をまるっとは無視できないが)
だからこそ、高い魔素吸収限界は高い地位と高い尊敬を生む
そしてなにより、重い責任が生まれる
つまりはより強い武力が求められるのだ
危険も増えるが、自分の息子が「将来立派になりますよ」と言われて喜ばない親はいない
息子の将来のためにも、自分が立派に鍛え上げてやろうと決意したのだった
その息子はというと、幼い頃から徐々に訓練を重ねてきたが怪我も病気もすることなく、それどころか大人でも根を上げるような訓練を与えてもケロッとこなしてしまう
祝福を受けていない今ですら、下位の冒険者より強いのだ
10才の子供が、小型とはいえ魔物との戦闘経験のある祝福を受けた大人より強い…というのは、どう考えても異常なのだが、実際強いことは良いことなので誰にも責められることではない
レオンハルトの下には妹が一人いるが、そちらは普通の様子でこのまま成長すれば騎士として妥当な魔素吸収限界になるだろうと思われた
闘い続けることを強制されるこの世界では女だからといって分けることなく均等に育て上げる
しかし、やはり基礎的な筋力の差から子供のうちに甘やかしてしまうのも仕方ないことだろう
訓練もレオンハルトと違い常識的な物しかさせていない
そんな妹を守ることも含め、よりレオンハルトを鍛える
レオンハルトが将来、この国や世界を背負って立つ英雄になる未来を想像して、バーナードの期待はどんどん大きく膨らむのであった