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レオンハルト=フォン=グリムワルト
なかなかに厳つい名前だが、どうやらこれが新しい俺の名前みたいだ
慎吾はまだぼんやりとしか見えない目を開け、ベビーベットから見える窓を見上げる
じたばたすることぐらいしかできないが、挙げた腕の先にある小さな小さな手のひらをぐっぱっと動かしてみる
まぁ…赤ん坊だな
どうやら異世界転生ってやつらしい
夢の中で会った自称神の言葉を信じるならば、だが
あっちの世界に残してきた両親のこと等、心残りが無いとは言わないがだからと言っても打つ手は…無い
とりあえずは現状把握に勤めることにした
精神は慎吾のままのはずなのだが、体に引っ張られるのか抗えないほどの欲求によりよく寝てよく泣きよく漏らす
目覚めてから今日が何日目なのかも赤ん坊の時間感覚ではわからないが、肉体の欲望に抗うことは既に諦めている
幸いなのは周りの人達が話す言葉が日本語(そう聞こえる)なことだろうか
自称神から説明はなかったが、自動翻訳的な機能を付けてくれているか、もしくはたまたま?日本語と同じ言語体系の世界なのかだが、理解できる分にはどっちでもいい
まだ目がハッキリとしない為良くわからないことも多いが、母親らしき人や使用人っぽい人達、変な石?を擦り付けてくる意味不明なおっさん(たぶん医者?)達に囲まれて、赤ん坊ライフを日々過ごしている
因みにフルネームがわかっているのは父親(確定済み)がしつこいくらいに
「パパだぞーレオンハルト!レオンハルト=フォン=グリムワルト!大きくなれよー!」
と何度も繰り返し語りかけてくるからであった
まだ口からは泣き声と「あー」とか「だー」くらいしか言えないが、いつくらいから言葉を話すべきなんだろうか?
赤ん坊がいきなり喋りだしたら怖いよな
等と考えながら、慎吾は今日も体の欲求に従って眠りに落ちる
食っちゃ寝食っちゃ寝の気ままな赤ん坊ライフを過ごす内に、少しずつだがわかってきたことがある
毎日朝晩に現れる医者っぽいおっさんが、毎回俺の胸に石を押し付けるのはどうやらおっさんの特殊な趣味ではなく、意味があるらしい
というのも、おっさんが石を押し付ける度に何かが体から抜けていく感覚があることと、おっさんと使用人の会話からの推測だ
「この子は、もしかすると魔素吸収限界が既に相当高いのかもしれないぞ」
「…そんなことが有り得るのですか?」
「わからん、しかし、確かに魔素が溜まっているのに苦しむことも熱を出すこともない。当然だがまだ体ができてもいないし魔素に慣れてもいないから有り得ないはずなのだが、そうと考えるしかないのだよ…」
「一応、旦那様に報告します」
「そうだな、私からも話すとしよう」
(魔素?…ってなんぞ??)