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死ぬほど痛い
という言葉は割りとよく聞くが、実際に死ぬほどの痛みを受けたって人は少ないんじゃないだろうか
何故なら大半の場合、感想を口にする前に死ぬのだから
西宮慎吾が後に語ることがもしもあるならば、それはそれは臨場感たっぷりの経験に基づいた死ぬほどの痛みについて語ってくれることだろう
しかし西宮慎吾は今現在、まさに死へのカウントダウンが残り数秒となっていた
このまま行けば、多数の先人と同じく経験談を語ることなく死ぬ状況にあった
(痛!死!痛!炎!熱!痛!赤!)
爆炎と爆風にもみくちゃにされながら、慎吾の脳はスローモーションの様にゆっくりと流れる世界でまだ動いていた
(痛ぇ!足!腕!ある!?)
自分の体がどうなってるかわからない
腕は、足は、首から下は、まだあるのか
それすらもわからず、錐揉みしながら爆炎の中を吹き飛ばされる
(痛い!車!タンクローリー!炎!コーヒー!サンドイッチ!まだ食べてない!痛ってぇぇぇ!!)
走馬灯ともなれば楽しかった思い出のひとつも浮かんで欲しいところだが、浮かんでは消えるのは先程まで見た物と考えていたことくらいだ
(健康診断!胃カメラ!怖い!痛い!健康診断!!)
いま正に健康とは間違っても言えない状態になって、胃カメラで見るはずの胃がそもそもまだあるのかすらわからないままにとりとめなく思考は空回る
「願いはあるかい?」
(痛い!健康診断!死ぬ!怖い!胃カメラ!コーヒー!なんか聞こえた?!痛い!!)
「願いを言ってごらん」
(誰!?願い!?健康診断!?痛い痛い痛い痛い!!!)
「時間ないよ?願いはない?」
「っ!っけ…けっ健康!」
慎吾はよくわからないまま反射的に答えた
「け、健康?それでいいの?」
(痛ぇぇええええ!!!!死ぬぅぅぅぅぅ!!!!!)
反射で叫んだだけでまともな思考などできていない慎吾にはもう聞こえていなかった
「うん、せっかくだからサービスしとくよ。じゃあ元気でね」
何か聞こえていたような気がするが、そのまま慎吾の意識は闇へと落ちて行った