第八話 ホットドッグ売りの少女
シアさんが見つけたホットドッグの屋台は他の屋台より一回り小さく、店主?の少女が座って本を読んでいるせいか、客に見向きもされていなかった。
シアさん、なぜあの屋台のホットドッグを選んだでありますか?
『エキトさんは口調変えるのが好きなんですかね…あの屋台を選んだ理由ですか?美味しそうだからです。』
でも人気無さそうだよ?
『あの屋台を良く見て下さい。まず店主の少女ですが彼女はNPCです。つまりアイテムボックスが使えない訳で、調理はこの場でするしかありません。にもかかわらず、あのしっかりと手入れされた屋台。そして何より素晴らしいのは商品を見せるために野晒しにせずに仕舞い込む徹底した衛生管理』
シアさんキャラ変わってません?てかゲームなんだからそこまで気にしても仕方なく無いですか…
…あ
(…1つだけ注意事項みたいに出回っている情報があってね、それが『この世界のNPCはこの世界で生きている』ってやつ。)
確かこの前春花が言ってたな…本当にNPCはココで生きてるのか…?
『何か思い出した様ですね。そう、この世界のNPC基準で考えればあの屋台は素晴らしいのです。プレイヤーには見向きもれないでしょうけど、周りの店の開店前や閉店後は比較的盛況だと思いますよ、あの屋台。なのでFWO初の食事はあの屋台のホットドッグにしませんか?』
そう言う事なら文句は無い、あのホットドッグにしよう。
そうと決まればいざ行かん。
と、その前に気になった事が1つ。シアさんてホットドッグ1個食べれるのかな?明らかに身体よりホットドッグの方が大きいけど…
『あなたの手と同じサイズの私の身体にあんな大きいの入る訳無いじゃないですか?エキトさんの少し貰えればそれで十分ですよ』
ファンタジー世界の、ファンタジーな生き物の身体は、ファンタジーではなく、物理法則に従っているらしい。
◇ ◇ ◇
メニューはシンプルにホットドッグのみで-300z。と書いてある。残念ながら俺にはホットドッグ1個300zが安いのか高いのか判断付かない。ぼったくりって事は無いだろうし美味しければ良いや。
すみませーん!ホットドッグ1つ下さい!
『エキトさんそれわざとやってます?』
え?何が?
『彼女は精霊では無いので普通に話しかけ無いとダメですよ?』
「あ!そっか」
我ながらなんたる失態…
そして今の一言で店員さんに気付かれてしまった。いや、気付いてもらえた。
「ん?客?」
はい、客です。じゃ無くて
「ホットドッグ1つ下さい」
「ちょと待ってて、今作るから」
店員の少女は手に持った本を置くと調理を始めた。調理と言ってもホットドッグなので、ソーセージを茹でる事くらいにしか時間はかからない。なのですぐ完成させて渡してくれる。
「ん、どうぞ。ところでお兄さん来訪者だよね?」
来訪者?
『プレイヤーの事です』
なるほど
「そうですけど、どうかしましたか?」
「来訪者はあまりこの屋台には来ないから、どうして来たのかなと思って。」
「あぁ、それは私が使役している精霊がココが良いと言ったので」
「お兄さん精霊使い…?」
「そうですよ?」
「精霊使いなのにまとも?」
「まとも?」
「ココに精霊が居るんだ!とか言って何も無い空間に話しかけたりして無いから…」
「・・・・・」
「?」
「精霊は居ますよ?今も私の肩に乗っています。私の場合喋らずに精霊と会話できるだけです」
「やっぱりお兄さんもあ…ん」
『エキトさん、その人に今エキトさんが持ってるホットドッグを良く見るように言って下さい。』
怒ってます?
『怒ってません、その人に精霊が居ると言う事を分らせてあげるだけです』
さいですか
「このホットドッグを良く見てて下さい」
「?なんで?」
疑問を口にしつつもちゃんとホットドッグを見る少女。
シアさんは俺の肩からホットドッグへ飛び移ると少女の目の前でホットドッグを食べ始めた。
『エキト、さんの、頭は正常、ですっ、精霊は、ちゃんと、存在してるんですっ、この、ホットドッグ、美味しいじゃ、無いですか』
ぶつぶつと文句?を言いながらホットドッグを食べ進めるシアさん、本人はかなり頑張って食べてるつもりなのだろうが、他人から見たらホットドッグの端が少しずつ欠けて行く不思議現象である…
「うそ。ホットドッグが…お兄さん、もしかして精霊の仕業?」
「そうですよ、美味しいじゃ無いですか!って言いながら食べてます」
「そう…ありがとう。それとごめんなさい。お兄さんも精霊さんも」
『わかれば、良いのです。ですが、精霊が、居ないと、思われていたのは、少し、ショックでした』
仕方ないよ見えない物を信じるのは難しいって
「わかれば良いってさ」
「良かった。ねぇお兄さん、〈料理〉スキル持ってる?」
「持ってますけど?」
「そう…それじゃあ料理キットは?」
「それは持って無いですね」
「ならコレあげる。お詫び」
差し出されたのは〔中級料理キット〕だった。選択肢がYESしか無かったので、そのままインベントリへ
「貰って良いんですか?」
「気にしないで、私にはもう必要無いから。私の名前は〈イル〉ほぼ毎日ココで屋台やってるから偶に食べに来て」
「わかりました、私の名前は〈エキト〉です。定期的に食べに来ますね」
「エキト、〈料理〉のレベルを頑張って上げて?20になったらプレゼントがある」
「プレゼント?」
「内容は秘密、それじゃあ私は読書に戻るから、そのホットドッグ、精霊さんに食べられる前にエキトもちゃんと食べてね」
そう言うとイルは俺たちが屋台を発見した時の様な読書をする態勢に戻って行った
ん?精霊さんに?…ってホットドッグの半分無くなってる!
シアさんの胃袋は物理法則じゃなかったの?
『美味しい物は別腹と言うでは無いですか…流石に全て1人で食べる様な真似はしませんよ。美味しいので温かいうちに召し上がって下さい』
明らかに自分の胴体以上の体積を平らげたシアさん。
満足したのか、すぃフワちょこんと再び肩へ
別(次元に)腹でもあるですかね…
部下c「八代さん、八代さん、あの2人がイルの所でホットドッグ食べてますよ!」
八代「ホットドッグ?それがどうした?」
部下c「八代さん知らないんですか?イルは料理人ランキング2位の有名NPCなんですよ?プレイヤーにはほぼ無名ですけど」
八代「そんなランキングいつ作った…」
部下c「目をつけられたのが職業〈料理人〉のプレイヤーじゃ無くて良かったですね〜」
八代「何かあるか?」
部下c「〈始まりの街〉半壊ルートが存在しますよ?」
八代「ホットドッグ1つで街一つ半壊ルートのフラグが立つとか本当に何があるんだよ…」
イル「エキト料理人にジョブチェンジしないかな…」