第三十六話 釣り・下
気を取り直してもう2、3度投げたり巻いたりを繰り返したところ、今度はちゃんと魚が釣れた。
〈チュウ〉(素材)
・レアリティ:☆1
・品質:★2
解説:白身の魚。様々な調理法で食される。生もイケる。
20cm程の細長い円筒形の体型に、小さな口と黄金色の鱗。名前は〈チュウ〉となっているが、見た目は完全にシロギスである。これは鱚と考えて良いのだろう。
『エキトさんはこの魚をご存知なのですね』
とても美味しい魚だよ?天ぷらにして食べるのが一般的だけど、俺としては刺身やしゃぶしゃぶにして食べるのがオススメかな。
『天ぷらや刺身ですか…楽しみですねー』
刺身は塩で食べても良いけどやっぱり醤油が欲しい。となると天ぷらか?小麦粉、卵、油…1匹だけだと油が勿体ないが、何匹か纏めて調理すれば大丈夫だろう。
となればキスを沢山釣らねばなるまいよ
『目指せ100匹!』
「『おー!』」
◇ ◇ ◇3時間後◇ ◇ ◇
「お!今度は〈チュウ〉だ、これで30匹目くらいか?」
『惜しいですね、29匹目です。』
当然〈チュウ〉以外の魚も釣れる訳で、残りのワーム数からしても100匹と言う目標には届かなそうだ…
『〈チュウ〉以外の釣果は〈フォル〉27匹〈ハバラスコス〉19匹〈グラ〉1匹ですね。魚以外だと〈空瓶(小)〉3個と2つ目の〈スキルスクロール(釣り)〉が釣れましたけど。』
〈チュウ〉以外の魚は現実には存在しない魚で、味の想像が出来ない。〈鑑定〉を使用しても〈チュウ〉の様に食に関する解説は無く、生態についてしか書かれていなかった。
でも分類は(食材)になってるから食べられるとは思うんだよなー
特に〈グラ〉。こいつは何時ぞやに市場に行った時に3500zで売られていたし、今日1匹しか釣れなかった事を考えると、それなりにレア度の高い魚で、こちらの世界では高級魚なのでは無いだろうか?と期待している。
とりあえず今日はワームが無くなるまで釣りを続けよう。
◇ ◇ ◇
「それで?何をしたら1日で竿の耐久値が0になったの?」
「魔法を使って釣り糸の許す限り餌を飛ばしたら、魚が掛かった瞬間に耐久0になって折れました。」
俺は現在リリさんの露店の前の石畳で正座をしている。
魚が掛るのを待っている時、水平線を眺めていたら「シアさんに沖合まで餌を運んで貰えば、何か凄い魚が釣れるのでは?」と思い立ち、実際にやってみたのだ。
シアさんはワームを触るの嫌そうだったけどね…
はい、ごめんなさい。たまにしかしませんので許してください。
『・・・・・・』
沖合まで餌を運んだのまでは良かったのだ、シアさんの機嫌は良くないけど。
問題はその後で、竿先がチョンチョンと振れたので「お!何かキタ!」と思って合わせると、ガツン!と言う衝撃と共に竿がしなり、そのまま耐えきれずに根元から折れてしまったのだ。
竿が折れてしまっては釣りは出来ない訳で…仕方ないので、始まりの街に戻る事にした。
街に戻った俺達は、折れてしまった報告と新しい竿の入手の為にリリさんの元を訪れた。
リリさんに「竿が折れました。新しい竿を下さい。」と伝えたところ「そこに正座」 と言われて今に至る。
「竿でモンスターを殴った。とかじゃないなら許す。正座は解いていい」
どうやら誤解されていた様だ。お言葉に甘えて正座を解く。
正座は解除されたがリリさんの険しい表情はそのまま、ただし対象が俺から竿へと移った。
「余程強いモンスターに引っ張られた?それとも?んー…?まぁいいや、つまりこれより強い竿が有れば良いんだね?」
「それと同じ奴でも構いませんよ?沖にいた奴は竿で釣るべき魚かどうかも分かりませんし、普通に釣りの出来るスペックが有れば大丈夫です。」
「そう…残念だけど今は竿のストックが無い、弓が終わったら作るからまた来て」
そう言うとリリさんは作業に戻ってしまう。
作業台の上に置かれた弓の制作を再開するのかと思ったが、リリさんは折れた竿を眺めながら何やら呟きを繰り返していた。
c「今の何?」
a「うわぁ…」
b「うわぁぁ…」
c「今のなんなのよ⁈」
b「あの竿じゃ無理だわな」
a「ワームに食い付く筈無いんだけどな…」
b「ワームを食べた魚を食べたんだよ」
a「あぁ…それなら有り得るか…有り得るか?」
c「だから今のはなんなのよ⁉︎」




