第二十五話 魔術と魔法
「つまりエキトは、矢の残数を確認せず、ネタに走って瀕死になった所をシアちゃんに助けて貰ったと?」
「見事なフラグ回収でしたね…落ちはしませんでしたけど」
「面目次第もありません…」
合流してリーサとアイラに状況説明。
「それにしてもシアちゃんって本当に強いんだね〜最後の攻撃も少し遠かったのにしっかり当ててたし」
「シアさんは最強だからな!他の精霊がどれだけ強いのかは知らないけど。ノアは戦っている所見た事ないし。」
寝てるか、シアさんと話している姿しか見た事が無い。
「たしかに見た事ないですね…ノア、1度戦闘を見せてくれないかな?」
『別に良いよー』
という訳で珍しくやる気のある顔になったノアの戦闘を見るために、少し離れた所にいたウサ公三匹の元へ
『あの集団に攻撃するよー。ほい《a:,?dd-“》っと』
ノアが適当に指を振るとウサ公達のいる地面が変形し、土の槍となって襲いかかる。
突然下から貫かれたウサ公達は、ポリゴンとなって消えていった。
『こんな感じかなー』
「ノアありがとう」
「エグいね…」
「エグいな…」
普段は人畜無害そうにお昼寝してるノアだが、腐っても大精霊。攻撃力は確かなものがあった。
『せっかくですし私の戦闘もお見せしましょう。』
シアさんも何かエグい事するの?
『エグいのを御所望ですか?』
シアさんが得意なやつでお願いします。
◇ ◇ ◇
と言う訳で再びウサ公三匹を探し出し、俺達3人は見物する事に。
『それではいきますね《s;!”e:58&0h(h;a》』
腕を突き出し、長めの魔術名を謎言語で呟くシアさん。
しかし、ウサ公に向けて何かが放たれ様子は無く、ウサ公の周りにも変化は見られない。
「あれ?失敗ですか?」
「ん?どうかしたの?」
シアさんが何かしたのが見えていたリーサが質問する。
見えないアイラはよく分かっていない様子。
シアさん失敗したの?
『いえ、ちゃんと成功していますよ、この攻撃は相手に効果が出るまで少し時間がかかるので…』
パァァン!
「きゃ!」
「ふぇ?」
「えー…」
突然の破裂音に驚く3人。
それはウサ公三体が膨らませ過ぎた風船よろしく、弾けてポリゴンとなった音だった…
………
シアさん、説明プリーズ。
『対象内部に空気を送り込んで破裂させる技ですね、コレ私のオリジナルですよ?』
なにそれ?怖すぎるんだけど…
「ねぇ、いま何が起きたの?ウサギさん弾け飛んだみたいだけど⁈」
「エ、エキトさん?シアちゃんに何やらせてるんですか!」
「よく分からんが対象に空気を送り込んで破裂させる技らしい」
リーサよ、俺がやらせた訳では無いのだ、シアさんがそれを自ら進んでやったのだ。勘違いしないでおくれ…
『今の私だとホーンラビット程度の大きさの敵にしか効果ありませんが、元の私に戻れれば2m程度の敵にも使える様になりますよ?』
そんな事をしれっと言うシアさん。
「そ、それじゃあプレイヤー相手にも出来るって事ですか?」
「え、プレイヤーにコレやるの…?」
今の攻撃を自分が食らう事を想像したのか震える声でシアに尋ねるリーサ、驚きで忘れて居るのかも知れないが…
『私やノアはPVPへの参加を禁止されてますから、プレイヤーへの攻撃は出来ないですよ?』
「そう言えばそうでした。良かった…」
「え?なに?ど言う事?」
「えっとですね…」
落ち着きを取り戻し、シアさんの声が聞こえないアイラの為に通訳をするリーサ。
それにしてもシアさん、何したらこんな技思い付く訳?
『外側が硬い敵を内側から攻撃するのは鉄則では?』
確かにそうだけどさ…
血とか内臓とか出ないとは言え、ちょとグロいよ?
『だからでしょうね、運営がこの技をプレイヤー用の魔法どころか他の精霊にも実装しなかったのは。』
運営が正しい。
…て事はシアさんが考えてプレイヤーが使っている魔法もあるって事?
『全てですよ?』
え?
『全ての風魔法は私の風魔術の劣化版です。』
運営が考えた訳じゃ無いの?
『運営は他の事で忙しそうでしたからね。私のAIとしての初の仕事が風魔術の開発で、運営に空気を操る能力を付与されて、ひたすら標的相手に試行錯誤する日々を送ったんです。そうして生まれた技の中から精霊用の〈風魔術〉が選ばれて、その〈風魔術〉を威力調整したのがプレイヤー用の〈風魔法〉なのです。その段階で私の空気を操る能力は削除されましたが、試作した風魔術の大半は残されました。』
つまりシアさんは風属性の生みの親だったのね
ん?大半は残されたって事は削除されたのもあると?
『有るはずですよ?私の記憶領域に不自然な空白がありますので、それとサポートAIを辞めた時に封印されたのもありますね…便利な魔術もあったのですが、残念です』
運営が削除する様な魔術を作ってしまった、って事ですね…
◇ ◇ ◇
しかし思いがけずFWOの裏話を聞いてしまったけど良かったのだろうか?
『封印されて無いので問題ないと思います。』
良いのか運営…
『それに、似た様な話はこのFWO内で見る事が出来ますよ?「原初の精霊」って本なんですけど、運営の事などは書かれていませんが、6体の精霊が全ての魔術と魔法の始まり〜的な事が書かれています。図書館等で見れますので気になったらぜひ。』
…それってつまりこの世界の神話だよね?
『言われてみれば…確かにそうなりますね』
シアさんは強いだけじゃなくてこのゲームの歴史にも関わってたのか…
なんだかシアさんが神々しく見えるよ。
『そう言われて悪い気はしませんけど…』
けど?
『ノアも同格なんですよ?』
あ…
『さ、この話はここまでにして街に戻りましょう』
そうだね、あんまり精霊の事ばかりだとアイラにも悪いしね。
そして街に戻ったエキト達は補給を済ませてレベリングを再開。その日の内にLv10へ到達した。
f「シアちゃんもノアちゃんも強いですね」
c「アレでも本来の力の1/10以下なのよね…」
b「いつ見ても酷いよなあの破裂するやつ」
a「他にも理由は有るけど大精霊がPVPに参加できない理由の1番はあの手の魔術が原因だしな」
b「シアのアレ食らったテスターの社員が、翌日に辞表提出して慌てて止めたって誰かが言ってたぞ…」




